第4話 妹は兄の鍛冶仕事を見学する
超鍛冶師と鍛冶師の違いとは?
-女魔王ステラ(双子の妹エリ)視点-
初等部の最後の行事である『社会体験』。
今日はその行き先を決める日。
憧れの職業の見学と体験ができるとあって、誰もが浮き足立っているわ。
アニキは騎士団か魔導師団の体験をしたいでしょうけど、呪いの件があるからアタシと一緒じゃないと駄目なのよ。
だからアタシの興味がありそうな魔導師団に行こうって誘ってくると思うけど、そうはいかないわよ。
アニキが行きたくない所にしたいけど、アタシが行きたい理由がないといけないのよね。
「エリはどこに行きたい?」
「そうねえ、孤児院かしら」
普通は午前と午後で2ヶ所くらいは回れるけど、孤児院は町の中心から離れているから他にたいしたところは回れないわ。
間違いなくアニキの嫌がる所だわ。
「魔導師団とかどうだ?リラとシーラも行くみたいだぞ。エリも魔法を使うから…」
「みんなが行くような所はありきたりでつまらないわ」
「そ、そうか」
ふふっ、がっかりしているわね。
地図をじっと見て考え込んでいるわ。
「おっ?孤児院の近くに魔導具を作る工房があるな」
え?
本当だわ!
アニキの目が輝いているわね。
これは阻止しないと!
「誰もそんな所行くわけねーよ!」
「そうだな、はははは!」
「そうだよな、みんな!」
あら、3馬鹿の声だわ。
「う、う、ぐすっ」
泣いているのは、3馬鹿にホルスタインと言われていじめられているクラス1の巨乳、ドワーフのプルナね。
家は腕が良くて有名な鍛冶屋なのよ。
「見ろよこの位置。お前んところ行ったら、他にどこも行けないじゃないかよ」
そういうことね。
鍛冶屋は大きな音を出すので、郊外に工房があるのよ。
社会体験で行ける所の中で、その工房だけ他の所と離れすぎていて、丸1日鍛冶屋の見学と体験だけになるもの。
ふふっ、これは使えるわ!
「アニキ、アタシはプルナの家の工房に行きたいわ」
「ええっ?!」
そうそう、その驚く顔!とてもいいわね!
-双子の兄アム(勇者アム)視点-
また3馬鹿はプルナのこといじめてやがるな。
何度注意してもやめないんだよな。
プルナはドワーフで背が低いけど胸が大きくて、それを揶揄されているんだよ。
それにしても鍛冶屋かあ。
本当の鍛冶の様子は一度見てみたいよな。
でも積極的に行きたいなんて言ったら、お告げが鍛冶師ってバレそうだし。
するとエリがふいにこんなことを言ってきた。
「アニキ、アタシはプルナの家の工房に行きたいわ」
「ええっ?!」
驚く俺を見てにやっとするエリ。
何で急に?
「ねえ、プルナ。確かアンタの家の工房って、装飾品も作っているのよね?」
「う、うん。お母さんが細工師なの。よく知っているのね」
本当だな。
プルナの家が鍛冶屋って話は知っていても、細工師が居て装飾品を作っていることまでは知らなかったぞ。
「アタシ、細工師の仕事に興味があるのよ。だから鍛冶師の見学と細工師の体験がしたいわ」
「細工師の体験は頼めば出来ると思うわ。でもいいの?うちなんかで?」
「アニキが嫌でなければね」
エリはプルナを助けるつもりでそんなことを言ったんだな。
さすがは聖女だけのことはある。
それに本物の鍛治を見たい俺にとっても好都合だ。
「そうだな、俺もそういった鍛冶や細工の仕事に興味はあったんだ」
「じゃあ決定ね!」
「二人ともありがとう!」
抱き着いてくるプルナ。
いや、そんなに胸の凶器を押し付けないで!恥ずかしいから。
-女魔王ステラ(双子の妹エリ)視点-
プルナの人生も追体験したから細工師の母親のことは知っているのよ。
別にアタシは細工なんて興味ないのよ。
興味あるのは、たった今思い出した、プルナの家で起こること。
ちょうど社会体験の日だったわね。
それにしても10億年分の記憶って、本人を目の前にしたときとか、きっかけがないと思い出しにくいのって不便ね。
「そうだな、俺もそういった鍛冶や細工の仕事に興味はあったんだ」
あら?
思ったより乗り気ね。
いじめられているプルナを助けるために嫌でも行くつもりなんでしょうけど。
乗り気になったのは気に入らないけど、当日のあれが見たいからいいわよ。
「じゃあ決定ね!」
「二人ともありがとう!」
アタシたち二人にに抱き着いてくるプルナ。
その大きな胸、アタシにも分けて欲しいわね。
アタシは人並みだけど、もう少しほしいわ。
そうすれば、純情なアニキに胸を押し付けたりしていじめられるもの。
ほら、プルナに胸を押し付けられて、恥ずかしくて赤くなってるわ。
そうだわ、いじめられっ子のプルナを守ってやるかわりに、アタシの僕になってもらうのわどうかしら?
そして、その胸でアニキを困らせてもらうのよ。
うん、いい考えね!
-10億年の追体験-
今日は社会体験だった。
そして私は宿屋とその1階にある料理屋の見学と体験をしていた。
仕事は体力を使う大変な仕事だけど、私は家でお母さんの細工の仕事だけではなく、お父さんの鍛治の仕事も手伝っているくらいだから体力には自信がある。
「いやあ、プルナちゃん。中等部行かないでうちで働かない?」
宿屋のおかみさんに笑顔でそう誘われる。
お世辞ではなく本気で言っている気がするけど、それは駄目。
「ごめんなさい。私は中等部まで行って、冒険者になるつもりですから」
「冒険者?家は鍛冶屋だよね?確か、細工物もやってたとか。どちらかの跡を継がなくていいのかい?」
「お兄さんとお姉さんが跡を継ぐから私は何をしてもいいんです。それで、この腕力と両親から教わった技能を生かして冒険者をしたいなって」
「そうかい。がんばりなよ」
うちはこの街には少ないドワーフで、みんなからなんとなく見下されている。
でも、鍛冶と細工の技能を使ってすごい冒険者になったら、きっとみんなが見直してくれる。
『汝、拳闘士なり』
そんなお告げで最初は驚いた。
でも、ドワーフの一族には戦士としてのお告げがあることは珍しくない。
ただ、女性で拳闘士ってのは珍しいみたいだけど。
鍛冶の技能は鍛冶師のお告げを受けていなくても、学んで身に付くものものある。
細工師も同じ。
だから、私は両親からその二つの技能を学んで、すごい『籠手』を作って、強い敵を打ち倒せる拳闘士になるの。
…そう思っていた。
ドタン、バタン!
急に店に駆け込んできた人は店の中を見回すと、おかみさんに声をかける。
「ここに、プルナって子は居るか?」
「はい、私です」
「お前の家が爆発したって!」
え?
「町はずれの鍛冶屋だろ?急に爆発して、更地になっちまいやがった!」
「えええっ!!」
慌てて家に帰ったが、そこには何もなかった。
父さんも、母さんも、兄さんも、姉さんも、みんな居なくなった。
鍛冶の工房から爆発が起きたらしいけど、こんなすごい爆発なんて起きるはずがない。
「へっ、やっぱり郊外にあって良かったな」
「いや、音だけで俺は耳が痛いわ」
「そうだな、これからドワーフの鍛冶屋なんてこの町に要らないだろ」
そんな心ない声が聞こえてくる。
私は、私は、その時、全てをあきらめた。
-双子の兄アム(勇者アム)視点-
いよいよ社会体験の日。
俺とエリはプルナの家である鍛冶屋に来た。
ここで見学をするのは俺たちだけ…のはずだったけど、なぜかプルナがここにいる。
俺たちの家まで迎えに来てくれて、一緒にプルナの家に来たのだ。
「プルナ、自分の家で社会体験をするのって、それでいいのか?」
「鍛冶の体験は最低二人要るのよ。エリは見学だけでしょう?」
「そうよ」
「だから先生にお願いしたら行ってもいいって」
「何だか悪かったな」
「何言ってるのよ!」
プルナは俺とエリの間に入って、それぞれの腕に抱きつく。
だからそんな柔らかい胸を押し付けるのはやめてくれ。
腕が埋まっているのを人に見られるとはずかしいじゃないか。
「ここ何年か、うちに誰も社会体験に来なくって、今年だめならこの行事に参加するの止めようって言ってたの。だからね、父さんも母さんもすごく喜んでるから!」
すっごい笑顔で言われた。
割と地味目なプルナでも、そんな風に笑うとすごく可愛いんだな。
-女魔王ステラ(双子の妹エリ)視点-
追体験では、プルナは自分の家の社会体験をしないはずだったけど、アタシたちがすることになったせいで、歴史が変わったのね。
それにしても、アニキはやっぱり大きな胸を押し付けられるのが嫌みたいね。
この機会に恩を売って、プルナをアタシの僕にするわよ。
「そっちは玄関で、こっちが工房の入り口ね!」
うん、追体験したから知ってるわ。
でも、どうして爆発したかまではわからないのよね。
ここに居た人たちは今日全員死ぬから、アタシはその人生を追体験していないのよ。
さて、どんな事故なのかしら?
それとも、誰かの仕業?
ふふっ、興味が尽きないわね。
もし原因を突き止める前に大爆発しても、闇魔法の『座標転移』で逃げられるわ。
今のアタシではアニキしか助けられないけど。
だから、アニキ。
ちょっとは勇者らしいところ見せて、プルナたちを助けてごらんなさいな。
-双子の兄アム(勇者アム)視点-
まだ朝早い時間だが、鍛冶師の体験をするには早朝からの準備がいるらしい。
水を汲んだり、魔道具を移動させたり、鉄や木炭などを運んでいたのだが、プルナの力が半端ない。
俺より背が低くて腕も細いのに、どうしてそんなに持てるんだ?
「ええいっ!」
「アム、無理しないで。私がたくさん持てるのはドワーフだからよ」
「でも、女の子にそんなに持たせてるのに」
「無理して落とす方が駄目よ」
「わかりました、先輩」
ちょっとふざけてそう言ってみる。
「せ、せ、先輩?」
「だって、家の手伝いで鍛冶師の経験あるんだろ?」
「う、うん。そう。私は先輩だから。後輩!さあ、運ぶぞ!」
なんだ?すごくよくわからない表情だな。
嬉しいのやら、恥ずかしいのやら。
「炉の温度を上げるためにふいごを使うんだが、『送風』のスキルがあるならそれを一緒に使うと、さらに高い温度に出来る」
プルナのおやじさんが、プルナの兄さんにふいごを動かさせて、スキルでその風力を増大させる。
「師匠!」
「しっ、師匠?親方でいいんだぞ。でも、まあ、せっかくだから師匠って呼んでくれ。それで、何だ?」
嬉しそうで恥ずかしそうな反応が親子そっくりだな。
「送風って、ふいごを使わないでスキルの方だけでやっては駄目なんですか?」
「送風のスキルでは細く絞った風を送れないから駄目だな。だからふいごと組み合わせて使うんだ」
え?
俺の使っている『烈風』は風を細く絞れるんだけどな。
…
…
「この焼けた鉄を金属の器具で挟んでおいて交互に打つんだが、『亀掌』というスキルが有れば、皮手袋くらいで直接熱い金属をしっかりと持てるから、ずっと効率が良くなる」
ん?
俺の『竜掌』は皮手袋とか無しで焼けた鉄とか刃物とかを持っていられるけどな。
もしかして、これが『鍛冶師』と『超鍛冶師』の違いなのかな?
…
…
…
俺とプルナはお手本通りにやってみる。
まずふいごを動かしてと。
ぷしゅー
あれ?
「あっ、父さん!ふいごに穴が開いたよ」
「なんて時に壊れるんだ!替えは?」
「もうひとつのも朝に壊れていて、これが壊れると今日は仕事にならないよ」
「困ったな」
あそこに風を送り込めばいいんだよな。
「師匠。俺は『超勇者』ってお告げを受けているんですけど」
「そうらしいな。そのうちこの息子がお前さんの武器でも鍛えられるようになるとといいんだが」
「風を操るスキルがあるので、それを試していいですか?」
「何だって?どんな風か分からないものをいきなり使ったら危ないから、そのすみっこでちょっと使ってみてくれ」
それもそうだよな。
「まあ、いざという時は鍛冶師のスキル『爆粛』で鎮静化できるけどな」
-女魔王ステラ(双子の妹エリ)視点-
アニキとプルナは最初から躓いているわね。
それにしても、今のところは辺りに妖しいヤツの気配は無いし、爆発物っぽいものは現時点では無いわね。
更地になるほどの爆発って、何か得体のしれないモノが現れない限りなさそうだけど。
「風を操るスキルがあるので、それを試していいですか?」
超勇者っていろんなことが出来るのね。
万能職みたいなものかしら?
アニキのスキルを調べてみたいけど、アタシの看破や探査や鑑定のどのスキルでもアニキの能力が見られないのよね。
きっと隠ぺい能力も超勇者の能力の一部なんだわ。
「何だって?どんな風か分からないものを使ったら危ないから、その隅っこでちょっと使ってみてくれ」
アニキは言われたとおりに工房の隅っこの方に行く。
「まあ、いざという時は鍛冶師のスキル『爆粛』で鎮静化できるけどな」
『爆粛』って爆発を鎮める鍛冶屋のスキルよね。
それがあるなら、なおのこと普通の事故くらいでは工房が大爆発するなんてありえないわ。
「やります!」
アニキが風を起こして、それを細く絞っていく。
器用なものね。
「おお!この風力と風の細さなら、ふいごが無くても行けるぞ!」
「父さん、いっそ、今日の午後の仕事も手伝ってもらったら?」
「そうだな。何しろ久しぶりの大仕事だからな。なあアム。午後は装飾の見学や体験をするのか?」
「そのつもりです」
呪いで引き寄せあうから、アタシが装飾品作っている間はここで鍛冶なんてできないものね。
でも、まだ爆発の謎が解けていないから、もう少しここに居たいわね。
「ねえプルナ。装飾の体験は今度のお休みの日に来てもいい?」
そうアタシが助け船を出す。
「うそ?いいの?それならアムは今日一日鍛治を手伝えるのね?」
プルナったら嬉しそうね。
「すまないな。じゃあ、そうしてくれるか?学校の方には俺から断っておくから」
プルナの父親も嬉しそうだわ。
アニキとプルナの鍛冶が始まったけど、正直退屈。
でも、アニキったらすごく真剣に鉄を叩いているわね。
まるで本当の鍛冶職人みたい。
「アム、お前すごく筋がいいな!最初はそんなに均一に叩けないぞ」
「はい。師匠と先輩の指導がいいので」
「もうー、先輩だなんて」
何だか、くねくねしているプルナを見ていたら、少しムカムカしてきたのはなぜかしら?
闇魔法でいたずらしたいけど、今やるとちょっと洒落にならないから自重するしかないわね。
…?
あら?
「アニキ、ちょっとトイレね」
「ああ」
ポンとアニキの腕を叩いていく。
一度触れれば30分まではアニキと離れても大丈夫。
でも、そんなにかからないと思う。
とにかく、アタシは、屋根の上にいるヤツに会いに行くことにした。
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