第3話 妹は兄の鍛練を妨害し、膝枕をしていじめる
ついに『復讐(?)』が始まります。
-女魔王ステラ(双子の妹エリ)視点-
12歳になり、魔導学園中等部への進学が決まった。
病弱だったアタシは学園を初等部だけでやめるつもりだったけど、もうすっかり元気になったから、問題なく中等部に進学できることになった。
病気はやっぱり『呪い』だったわ。
この『近親婚の呪い』は兄妹同士の結婚で生まれた子供を死に追いやる呪い。
誰から呪われるでもなく、近親婚の子であればかかることがある呪い。
だから、アタシのように産まれた直後に祝福を与えられないと死んでしまう子もいる。
助かっても呪いのせいでかなり弱い体になってしまうわ。
その上に死に近づきやすい運命にもなるみたいね。
この呪いは強すぎてアタシでは消せない。
聖女である母さんでも無理だったから。
アイツの親を母さんって呼ぶのは嫌だけど、一応アタシを産んでくれたんだし、そのくらいいいわよね。
こんな強い呪いは消せないけど、アタシくらいになると呪いを変質させられるのよ。
まだ魔王の力のほんの一部しか取り戻せてないけど、楽勝ね。
『近親婚の呪い』
近親婚で生まれた子を死に追いやる呪い。
これをこう変えてやったわ。
『近親婚の呪い』
近親婚で生まれた子を子に追いやる呪い。
呪いに使われている『漢文字』は自由度が高いの。
『死』を『子』と書き換えるのなら、アタシの今の能力でも可能なのよ。
しかもこの呪いで、アニキに嫌がらせができるのよね。
『子を子に追いやる』とは、子供同士が引き寄せ合うということ。
「というわけで、アニキ。今日もアタシの髪をきれいに洗ってね」
「呪いを解く代償で離れられないのは分かったが、エリは12歳にもなって兄と風呂に入っていていいのか?」
「いいのよ。アニキは嫌なの?」
「もう恥ずかしい年だから別々がいいな。それに髪の毛も自分で洗えよな」
恥ずかしくても嫌がることはやめないわよ。
それにこのエリって子、髪が長すぎて洗うのが面倒だから、洗ってもらうと楽だわ。
こうやって、10億年分の恨みをじわじわと返してやるのよ。
-双子の兄アム(勇者アム)視点-
エリは俺の双子の妹で、顔は瓜二つ。
それなのに、すごく可愛いってことは、俺がエリと同じ髪型や服装にしたら可愛くなるってことか。
ああ、嫌だ嫌だ。
俺は格好いいって言われたいのに。
そしてエリは『天啓の儀式』のあとで、『黒曜魔法』っていう光と闇の混じった魔法で自分の病気、実は呪いだったものを変質させてしまったらしい。
その副作用で俺と離れられなくなっと言われて、冗談かと思ったら離れたところからエリが俺に向かって飛んできて信じるしかなくなった。
がんばればエリと離れられるけど、離れれば離れるほど、離れている時間が長いほど、引っ張る力が強くなって、最終的にはどちらかの方に飛んでいく。
もしくは二人とも宙を飛んで、空中でぶつかる。
そのたびに、エリを抱き留めないといけない。
いや、むしろエリの方から抱きついてくるのだが。
「恥ずかしいから人前で抱きつくなよ」
「嫌よ、やめないわ」
お風呂だったら30分も入っていると引き寄せられてしまう。
扉や壁越しでも引き寄せられている時はすり抜けてしまう。
トイレ以外はもう一緒に居るしかない。
トイレは短時間で済ますか、ドアの前で耳を塞いでいるけどね。
食事はもちろん、お風呂も寝るときも一緒。
学校でも先生に訳を話して隣の席にしてもらっているが、そのうち友達にばれないかと不安になる。
俺が側に居てもエリが嫌そうじゃないのが救いだが、いつまでも一緒に居たらエリの為にならないよな。
俺の両親は実の兄妹で、お母さんは『ずっと一緒に居ないといけないなら、二人で魔王を倒して私たちみたいに結婚すればいいのよ』なんて言ってるけどさ。
俺、エリのことはすごく大切だけど、これって兄としての愛情だからな。
でも、時々変な夢を見る。
エリとすごく長い旅をして、一緒に笑って、一緒に泣いて、そして別れがあって。
『待っていてくれ必ず迎えに行く』
『うん、待っているから』
俺たちはそう言っていた。
でも、どうしてだろう?
その人はエリのはずなのに、顔が思い出せない。
ものすごく綺麗な女性のような。
でも、それがエリだって思えるんだ。
将来、エリがすごく綺麗になるってことかな?
今でも可愛いけど。
とにかく、この気持ちは兄としての愛情だからな。
だから、あんまりくっついて、俺の心を揺さぶらないでほしい。
-女魔王ステラ(双子の妹エリ)視点-
眠れないわ。
ここ最近、毎晩。
アニキが激しくするものだから、寝不足なのよ。
素振りを。
アタシが寝たのを見計らってからベッドを抜け出してやっているのだけど、遠くにいけないからベッドの脇でやるのよね。
素振り刀がブンブンいえば、いくらよく寝てても気づくわよ。
日中も初等部の授業から帰って来てすぐ鍛練しているし。
超勇者の癖にどれだけ頑張る気なのよ。
やっぱり稽古の邪魔をしてあげないと。
どうしてやろうかしら?
ふああ、眠い。
とりあえず、明日考えるわ…。
-双子の兄アム(勇者アム)視点-
まずい。
魔導学園中等部に進学する前に、試験があるなんて。
入学のための試験じゃない。
ただのクラス決めの試験だ。
でも戦闘向きの能力が『天啓の儀式』で与えられなかった俺は、最低のFクラスになる可能性がある。
きっとエリはAクラス、いや、最高のSクラスだろう。
初等部ではこの呪いの為に、同じクラスで席を隣にしてもらっていたが、中等部ではそうはいかない。
おそらくランクの低いFクラスの俺にエリの方が合わせられてしまう。
そうなったら、エリに迷惑をかけてしまうじゃないか!
俺は毎日、時間さえあれば素振り刀を振った。
勇者であるお父さんが家で素振りをしているのを見て真似ているが、お父さんは家の鍛練ではスキルを使わない。
いや、使わなくなった。
俺が『超勇者』になったと聞いてから、『俺みたいな並の勇者のスキルなんて、恥ずかしくて見せられないな。はははっ!』とか言って家の鍛練でスキルを使うのをやめてしまったのだ。
だから見て覚えることができない。
覚えたところで実際に使えるわけではないけど、なにも知らないよりはマシなはずだ。
教えてもらおうとしても、超勇者のスキルの邪魔になるといけないからと言われて教えてくれない。
だから、わずかな記憶を便りにお父さんのスキルを真似ようとしているのだけど…うまくいかない。
そもそも目で追えないくらいの速さだったから、結果しか覚えていない。
お父さんが的の横を走り抜けたと思ったら、的がみじん切りになっていたとか。
訳がわからない。
だから、とにかくお父さんと同じように正しい素振りをするだけだ。
あと、勇者は魔法も使えないといけない。
俺の使える魔法は鍛冶師特有の魔法だけ。
焼き入れ用の水玉を浮かべたり、火を強くするための風を送ったり、鉄を熱して柔らかくしたりする魔法だ。
こちらはうまい使い方を考えてある。
水玉は相手の鼻や口の所に浮かべれば窒息させられる。
風を送る魔法は物や相手を飛ばすほどではないが、相手の顔に吹き付けて怯ませたりできる。
鉄を熱するスキルを利用して、剣を熱して『灼熱剣』にしようかと思ったけど、剣が曲がってしまった。
どうやら単に剣を熱するのと、剣を灼熱化させて物を斬れるようにするのとは違うらしい。
だから、相手の武器を熱して壊れやすくする使い方に変えた。
至近で動かない金属しかうまく熱せられないので、つばぜり合いの時に相手の剣の一部を熱して、柔らかくしてから斬り飛ばす。
もっとも練習相手がいないから、的がわりの鉄棒を地面に立てておいて、それに剣を当てて、いかに早く鉄棒を柔らかくして斬り飛ばすかの訓練をしている。
ちなみに斬れた鉄棒は、再び熱して元通りくっつける。
熱い鉄を素手で持てるのは『竜掌』という、熱い物や鋭い物を持っても怪我をしないという超鍛治師のスキルのおかげだ。
「アニキ、お願いがあるんだけど」
「ん?何?」
「アタシの黒曜魔法の練習で『魔導箒』って魔法を使いたいの」
「ん?俺に遠慮しないで使えばいいじゃないか」
-女魔王ステラ(双子の妹エリ)視点-
アニキが庭で鍛練している時は、アタシも側にいてそれを見ている。
数回素振りをしてから、立ててある鉄棒までの間合いを詰めて、鉄棒に模造刀を打ち付け、次の瞬間には斬り飛ばしている。
さすが超勇者ね。
刃の無い練習用の刀であの太い鉄棒を斬り飛ばすなんて。
しかも、斬られた鉄棒を持って、元の部分に押し付けてくっつけているわ。
あんなこと、アタシが魔王だった時でもできたかしら?
やっぱり邪魔をすべきね。
「アニキ、お願いがあるんだけど」
「ん?何?」
「アタシの黒曜魔法の練習で『魔導箒』って魔法を使いたいの」
「俺に遠慮しないで使えばいいじゃないか」
ふふっ
使っていいのね?
「それなら使わせてもらうわ。『魔導箒』!」
するとアタシの目の前に箒が現れたわ。
誰も触ってないのに、立っている状態のまま待機しているわ。
「さあ、庭を綺麗にしなさい!」
口ではそう命令しているけど、心の中では鍛練の邪魔をするように命じてあるのよ。
魔導箒は地面を履きながら、アニキの方向へ近づいていったわ。
「う、わっと。エリ、俺に当たるよ!」
「あまり魔法をうまく使えないから練習してるのよ。アニキは箒を避けて練習してね」
いい具合に邪魔ができるわね。
…
…
…
何だかアニキが魔導箒の動きに慣れてきたみたいね。
でも甘いわ。
このくらいの魔法なら、今のアタシでも同時に使えるわよ。
「『魔導箒』!」
「えっ?!」
2本目の箒が出て来て驚いているわ。
ほらほら、挟み撃ちよ。
おおっと、鉄棒に攻撃はさせないわよ。
ふふっ、すごく困った顔をしているわね。
これでアイツの鍛練は台無しよ。
『復讐の3つの誓い』のひとつ、『2つ!アイツが望むことは実現させない!』を実行できたわ!
そうだわ、もっと困らせてやりましょう。
「『魔導箒』!『魔導箒』!」
アニキは4本の魔導箒から逃れられるかしら?
無理よねー。
お尻をひっぱたいてやるわよ。
「いてっ!」
「あら、アニキ、ごめんなさい」
「くっ、このくらいかわせないと…」
「まだ増やせるわよ」
「そ、それはやめてくれ!」
『やめてくれ?』
ああ、その言葉、聞きたかったわあ。
「じゃあ倍に増やすわよ」
「やあああああっ!」
アニキはパニックになって訓練どころではなくなったみたいね。
それにしても、まだ自分が幼いのに魔法を使いすぎたわ。
少し、仮眠を、すう…
-双子の兄アム(勇者アム)視点-
うわあああっ!
魔導箒が地面を履きながら俺に迫ってくる。
その数8本。
箒に的である鉄棒に振り下ろした剣を受け止められたり、足を引っかけられたり、お尻を叩かれたりして散々だ。
いかん、練習にならないぞ。
「エリ!ちょっと止めてくれ!」
「すーすーすー」
ベンチで寝てるっ?!
この魔法、寝ていても勝手に動くのか。
さすがは『黒曜の聖女』だな。
くそっ!
俺だって負けられるか!
箒の動きは自動だ。
それなら、ある程度の法則があるはず。
『四方を敵に囲まれても敵を利用して戦える』
そうお父さんが言って…あれ?
言ってたのはお父さんだっけ?
いや、これって、俺が夢の中で勇者をしていて、エリと一緒に旅をしていたときの『俺自身の言葉』?
夢のせいか、どんな旅なのか記憶はないけど、自分の言っていたことは思い出してきた。
『敵を縦に並べる。敵同士が邪魔になるようにして』
こうか?
『時には敵を突き飛ばして、他の敵にぶつけ』
こう、かっ!
俺は箒を蹴り飛ばして他の箒に当てて、さらにそれを他の箒の楯がわりにする。
それでも簡単にはいかず、あちこち箒に叩かれまくったけど、
「いい練習になったな」
時間切れなのか、魔導箒は全部消えてしまった。
俺は眠っているエリの隣に座り、そのほっぺたに触れる。
こうやって30分おきに触らないと強く引き寄せられるからな。
ぷにぷに
エリのほっぺたはとてもいい感触だ。
「エリは意地悪だな。でも、おかげでいい練習になっ、た…」
疲れた…意識が遠退く…
-女魔王ステラ(双子の妹エリ)視点-
ん?
何だか膝が重いわね。
!
アタシの膝の上でアニキが寝ているわ!
落としてやろうかしら。
あら?
砂だらけね。
顔にも擦り傷が一杯だわ。
ふふっ
アタシはそっと顔の擦り傷を撫でて、思ったの。
今日も『いい復讐』ができましたって!
さあ、膝から落として仕上げにするわよ。
「あーっ!アムの奴、妹に膝枕されてる!」
「けけっ!はずかしー」
「もう中等部なのになー」
「幼年部の方が似合っているぞ」
「「「ぎゃははははっ!」」」
同級生でもある近所の3馬鹿がアムを笑っているわ。
そうか、これってアムにとって恥ずかしいことよね!
アタシはわざとお母さんのように、アムの髪を優しく撫でますの。
「うわっ!なにあれ!」
「兄妹であんなこと、うらやま、いや、気持ちわるっ!」
「行こうぜ、見てられないや!」
大成功ですわね。
これでアニキはあいつらに馬鹿にされるわ。
-双子の兄アム(勇者アム)視点-
んん…
何だか、心地よいなあ。
!
この匂い、エリだ。
そもそも双子で同じ石鹸使っているのに、何でエリはこんなにいい香りなんだ?
体勢と感触からして、膝枕だよな。
呪いで勝手にくっつくからそれは仕方ないとして、俺の髪をエリが優しく撫でてくれている?
「エリ?」
「あら、起きたの?」
「うん」
「ふふっ、さっきそこから3馬鹿が覗いていたのよ」
3馬鹿?
ああ、あの親の威光で威張り散らしているクラインとその下僕たちか。
ん?
覗いていた?
何を見て?
「わっ!わわわっ!」
俺はあわてて頭を起こす。
「もう遅いわよ。膝枕をして頭を撫でているところをしっかり見られたのよ」
何てことだっ!
勇者にあるまじき、恥ずかしい行為を見られたなんて!
見られたのは嫌だけど、撫でられたのはそんなに嫌じゃない…かな?
ぐいっ!
え?
頭が再びエリの膝に押し付けられる。
エリの力、強っ!
「今、向こうからリラたちが来るのが見えたわよ」
「ま、まさか?」
「はーい、いいこでしゅねー。あ!リラ!シーラ!何してるの?」
リラとシーラは双子の女の子たちで、同じ双子同士の幼なじみということもあって仲がいい。
エリはその二人に声をかけ、見せつけるように俺の頭を撫でてくる。
なでなでなでなで
「何してるのって、むしろそっちが何してるのよ」
「お兄さんに膝枕?うわ、マジ?」
「相変わらず仲いいのね。ちょっとひくけど」
やめてくれー!
頼む、やめてー!
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