第2話 残虐非道の女魔王は勇者の双子の妹に転生する
二人は転生しました。
-双子の妹エリーナ視点-
わたしはエリーナ・フェニックス。
フェニックス家は貴族で、代々勇者の家系なの。
わたしの双子の兄アムは将来立派な勇者になるはず。
だって、わたしの自慢のアムお兄様ですもの!
今日はアムお兄様とわたしの10歳の誕生日。
10歳になると『天啓の儀式』を行って、自分がどういった者になるかのお告げを受けるの。
『天啓の儀式』では、自分の未来像と共に、それにふさわしい能力を授かるの。
アムお兄様は間違いなく『勇者』というお告げを受けて、魔王と戦うための能力を手に入れるのよね。
わたしは病弱だから、アムお兄様と一緒に魔王を倒しには行けない。
だから、せめてアムお兄様を支えられる『何か』になれるといいのに。
わたしたちのお母様は『聖女』で、『勇者』のお父様と一緒に旅をして、南の魔王を退治して結ばれたの。
わたしもアムお兄様と一緒に旅をして、北の魔王か西の魔王を倒して、結ばれたら…。
兄妹でも関係ないのよ。
何しろ、お父様とお母様は実の兄妹だもん。
国によっては違うけど、この国では兄妹婚が可能だから。
ただ、特別な功績を上げた者同士しか許されなくて、兄妹同士の両親から生まれた子供は『祝福』を受けないと死んでしまうことがあるらしいの。
わたしも死にかけて生まれてきたのを『祝福』で救われたの。
でも、病気がちになってしまった。
そんなわたしにいつも優しくしてくれるアムお兄様のことが大好き。
でも病弱なわたしは、お母様たちのような大きな功績なんてあげられない。
だから、お兄様と結ばれることはないの。
ううん、もしかして体が弱くてもすごい魔法を開発するとか、政治で能力を発揮するとか、そういうことができれば大きな功績と認められるかもしれない。
だから今日の『天啓の儀式』がすごく楽しみで…すごく怖いの。
どんなつまらない職業のお告げだったとしても、アムお兄様はわたしを大事にしてくれると思う。
でも、そのせいでアムお兄様と結ばれないことになったなら、
…自分がどうなるかわかんないよ。
-双子の兄アム視点-
僕は10歳になった。
今日は双子の妹のエリと『天啓の儀式』を受ける。
エリは病弱だけど、すごく優しくてかわいいから、きっとそれにふさわしいお告げを受けると思う。
きっと、お母さんみたいに『聖女』じゃないかな。
どんなお告げがあっても、きっと僕がエリを守るからね!
誕生日パーティは『天啓の儀式』のあと。
僕は広間の真ん中に作られた祭壇の上に乗った。
儀式を執り行ってくれるのは、この国でも有名な司祭様だ。
「アムール・フェニックスよ」
「はい」
「ただいまより『天啓の儀式』を始める」
「はい!」
儀式が始まった。
すごく長く感じる時間だった。
そして、ついに僕にお告げがあった。
頭の中で僕に告げられたのは、
『汝、超鍛冶師なり』
え?なにそれ?
待って。
鍛冶師って、剣とかを作る職人だよね?
『超』とか付いているけど、鍛冶師なんだよね?
フェニックス家の男子で、勇者じゃないお告げなんて出たことないのに!
そんな僕の気持ちを無視するかのように、頭の中に『超鍛冶師』としての能力や知識が入り込んでくる。
「や、やめてーっ!」
僕は思わず叫んだ。
「どうした?アム!」
「どうしたの?大丈夫?!」
お父さんとお母さんが心配して駆け寄ってきた。
心配させてはいけない。
僕は、
僕は、
俺は!
例え鍛冶師と言われても、勇者になってみせる!
「ごめんなさい。あまりにもすごい能力が一度に頭に入ってきたから、混乱して」
そう嘘をつく。
「そうか?俺の時はそんなふうでもなかったが。そうか、すごい能力か」
お父さんがワクワクした瞳で俺を見てくる。
「実は、俺が受けたお告げは、勇者…じゃなくて『超勇者』なんだ」
「なんだって?!そんなすごいお告げがあったのか!」
「さすが私たちの子どもね!」
手を取り合って喜ぶ両親。
そうだ。
これからは俺が努力で本当の『勇者』を越える『超勇者』になればいいんだ。
鍛冶師の能力だって、勇者のための剣を自ら作れるじゃないか。
俺は絶対にくじけない。
両親の為に。
そして、可愛い妹の為にも。
-双子の妹エリーナ視点-
すごい。
アムお兄様は『超勇者』なのね。
わたしは『超聖女』とかにならないかな?
それなら聖女であるお母様が治せなかったわたしの病気を治して、アムお兄様と魔王を倒して結ばれるの。
「エリ。次は君の番だよ」
わたしに微笑みかけてくれるアムお兄様。
わたしが変なお告げを受けるなんて、考えてもいない表情ね。
アムお兄様に勇気をもらったわたしは、祭壇に上がったの。
「エリーナ・フェニックスよ」
「はい」
「ただいまより『天啓の儀式』を始める」
「はい」
儀式が始まったの。
集中できなくて、何を言っているか、何をやっているか、あまり頭に入ってこないわ。
願わくば、アムお兄様の横に並び立てるお告げでありますように。
そして、ついにお告げがあった。
『汝、魔王なり…
それを聞いた瞬間、わたしは意識を失って…
-女魔王ステラ(双子の妹エリ)視点-
…
…
はっ?
ここは?
待って、記憶があるわ。
アタシはエリーナ。
アムールの双子の妹。
そして、今『天啓の儀式』でお告げを受けた。
『魔王』になると。
それを聞いたとたんに、アタシの前世の記憶、魂の記憶が蘇ったのね。
それにしてもなんてこと?
慌てて飛び込んだ扉が、アイツの飛び込んだのと同じ扉で、双子として一緒に生まれてくるなんて。
それで何?
このエリーナ、どれだけアイツのこと好きなのよ!
兄妹で愛しているとか、気持ち悪いわ!
確かにアイツの家族を調べたとき、すごく仲の良い妹とは言ってたけど!
…ちょっと待って。
アタシは間接的であっても殺した相手全てに転生して、その人生を追体験したのよ。
どうしてこの娘の記憶は無いのよ?
そうよ!
この娘には転生しなかったんだわ!
もしかして、病弱だったから部下に殺させる前に勝手に死んだのかしら?
まあ、そんなことくらいどうでもいいわ。
この娘の回りで何があったかくらいは、両親とか友人に転生したときに見ているもの。
あと、アイツが『勇者』じゃなくて『超勇者』ですって?
あいつは確かに高位の女神と契約できるくらいでしたけど、ただの『勇者』のはずだわ。
そもそも『超勇者』なんて存在聞いたことないわ!
もしかして、この世界は前の世界と『似ている世界』だから、少し違いがあるのかもしれないわね。
『超勇者』がどんなものか、近くでじっくりと見極めてやるわ。
そして、アイツへの10億年分の恨みを返させてもらうわ。
じわじわと復讐をしていくのよ。
『1つ!アイツが望まないことを実現させる!』
『2つ!アイツが望むことは実現させない!』
『3つ!アイツが魔王に転生した女神ミュールの所までたどり着いた時、アタシの正体をバラして、二人を一緒に殺す!』
これがこれからのアタシの目的、『復讐の3つの誓い』よ!
「大丈夫か、エリ?」
「っ?!」
顔を横に向けると、目の前にアイツの顔が有った。
ここはアタシの部屋だわ。
どうやら、儀式で倒れてからここに運び込まれて、ベッドに寝かされていたみたいね。
コイツ、ずっとベッドの横に居たのかしら?
「祭壇で気を失っていたからな。目が覚めてから難しい顔をして考え込んでいたようだけど、大丈夫だったか?」
「ええ。その、アン…アムお兄様と同じで、すごいお告げでしたから、ちょっと混乱したみたいだわ」
「エリもか!もしかして、エリは『超聖女』だったとか?」
とりあえず、この病弱な体を直さないといけないから、『超聖女』ということにしておいてもいいかもしれないわね。
まだ魔王としての能力はわずかだけど、今のアタシにかかっているのが、何かの『呪い』であるなんてすぐにわかったし、魔王であれば解除はできなくても『変質』ができるはずだわ。
それなら、アタシもコイツと一緒に冒険に出られるわね。
「アタシ…わたしはその、」
「今、『アタシ』って言いかけなかったか?」
しまった!
もしかして、コイツも記憶が戻ってる?
「実はな、僕は今日から『俺』って言うことにしたんだ。ほら、儀式が終わって大人に近づいただろ?だからさ、自分に気合を入れようと思って」
なんだ、そんなことですの。
それならまだ記憶は戻っていないのかしら?
いえいえ、油断はできないわ。
「それなら、わたしもアタシって言うわね。それと、お兄様のことも、違う呼び方でいい?」
さすがにアンタって呼ばせてはくれないわね。
「アニキって呼んでもいいかな?」
アタシにそう言われたコイツはちょっと驚いた顔をしたけど、
「うん!いいよ!何だかエリがすごく元気になったみたいで、嬉しいよ!」
単純な奴ね。まあいいわ。
「それで、アタシにあったお告げは『黒曜の聖女』よ」
「え?それ何?聞いたことないよ」
今、即興で作った名前だから当たり前よね。
黒く輝く黒曜石から取ったのよ。
「聖女は光を司るのよね。でも黒曜の聖女は、光だけでなく闇も司ることが出来るのよ」
これなら、闇の魔法を使ってもおかしく思われないわね。
「すごい!すごいよ!やっぱり俺のエリは最高だよ!」
そうでしょう?
ふふ、喜んでもらえて嬉しいわ。
…ちょっと待ってよ。
何アタシは嬉しがっているのよ?
そうか、まだエリーナの感覚が残っているのね。
まあ、そのうち消えるわ。
「俺のエリって、いつからアタシがアニキのものになったのかしら?」
「あっ、すまん!そうだな。兄妹でそんな言い方すべきじゃないな。儀式も終わったことだし、もう俺たちもいい年だから、今迄みたいに俺にくっつかなくていいからな。俺もエリにベタベタしないようにするから」
それを聞いた時、アタシは例の『復讐の3つの誓い』を思い出したわ。
『1つ!アイツが望まないことを実現させる!』
「アニキ!」
アタシはベッドから飛び起きて、コイツに抱きついてやったわ。
ほら、びっくりしてオロオロしているわ。
「アタシはずっとアニキと一緒よ!一緒に魔王を倒しに行くのよ!」
「あ…そ、そうだな…」
ふふん、気乗りしていないわね。
べたべたしたくない妹にくっつかれてそんなこと言われたら、嫌よね。
-双子の兄アム(勇者アム)視点-
急にエリが抱きついてきた。
それだけじゃない。
「アタシはずっとアニキと一緒よ!一緒に魔王を倒しに行くのよ!」
そんなことを言うなんて。
病弱なエリだけど、もしかすると『黒曜の聖女』っていう存在は、エリ自身の病気を治せるくらいすごいんじゃないのか?
だから、こんなに自信満々に魔王を倒しに行くなんて言えるんだ。
俺は…鍛冶師の俺は…エリの隣に立つ資格はないよな。
「あ…そ、そうだな…」
俺はそんなことしか言えなかった。
「もし、俺よりももっとすごい勇者に出会ったら、エリは俺よりもその人と一緒に行った方がいい」
するとエリは俺を睨みつけて、ますます強く抱きついてきた。
「アニキしか嫌なの!アニキと絶対に離れない!アニキが離れろって言っても、アタシは絶対にアニキの言うことなんて聞かないわ!」
そんなに俺のことを気にかけていてくれるのか…。
わかった。
一人で頑張るつもりだったけど、エリと二人で頑張ろう。
勇者として旅立つのはまだ先の話。
それまでに、『勇者』いや、『超勇者』として恥ずかしくない自分になってみせるからな!
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