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第1話 残虐非道の女魔王は全ての追体験を終える

3000万人10億年分の人生を追体験します。

-勇者アム視点-


「ここはどこなのよ?」

俺の横でキョロキョロしているのは、絶世の美女であり、俺の妻(仮)であるステラだ、


「キョロキョロ見ても何もないぞ。ここは天界だからな」

「ここが天界?真っ白で何もないじゃないの」

「必要とすればそれが出てくるから、物を置いておく必要がないだけだ」

「ふうん。じゃあアタシが殺してもいいヤツ出ろっ!出ないじゃないの!」


当たり前だ。

ここは神の住み処なのだから、ここの仕組みは魔王に扱えるわけがない。


訳あって俺は扱えるがな。


「ミュール!いるか?!」

「はいはいはい」


出てきたのは美術品のような美貌と体つきをした女神。

もちろんステラには劣るがな。


「アム、そんなに急かさなくても、どうせあなたがやるんでしょ?」

「本来はお前の仕事だろ」



-女魔王ステラ視点-


200年以上もの謝罪と平和貢献からやっと解放されたと思ったら、今から10億年以上の人生を追体験させられるのよね。


というか、この勇者は人間なのに長生きすぎよ!


それに過去の魂に憑依しても追体験するだけで外には干渉できないから、何もしなくていいといっても退屈すぎるわ。


「アム、そんなに急かさなくても、どうせあなたがやるんでしょ?」

「本来はお前の仕事だろ」


それにしてもこの勇者凄いわね。

神相手にタメ口だわ。

この女神、結構高位の存在のはずよ。


と言うか、何、あの距離感?


「『過去の人間に転生して、外側に干渉できない状態にして、その人生を追体験だけさせる』とか、どれだけ準備が面倒だったと思っているのよ!」

「でも、やっておいてくれたんだろ?」

「アムの言うことを私が断るわけないわよ!だから、ねえ、お願い」


その女神はアムにしなだれかかる。


あっ、腕に胸を押し付けているわ。

あざとい奴ね。


「暑苦しい、寄るな」

「じゃあ、ナデナデだけ。ね、頑張ったご褒美に、ね?」

「仕方ないな」


この二人、一体どういう関係なのよ?!


べ、別に妬いてないわよ!


でも、仮とはいえ妻の前で他の女といちゃつくとか、許せないわ。


ああ、二人とも殺してやりたいわ。

この転生が終わって自由になったら、最初にコイツらを殺してやるから!


「よし、四つん這いになれ」

「わん」


え?四つん這い?

わん?


「いい子だ。よしよし」


勇者は四つん這いになった女神の頭を撫で始めた。

まるで飼い犬を撫でているようだわ。


「くぅーん」


女神も犬化してるし。


「ちょ、何してるのよ?」

「ご褒美のナデナデだ」

「一体、アンタたち、どういう関係よ!」


すると女神がすっくと立ち上がる。


「私は女神ミュール。アムの守護女神よ」


さっきまでの犬っぽさはどこへやら。

再びアムの腕に抱きつき、胸を押し付ける。


守護女神は勇者などと直接契約を結んで下界に力を発揮できる存在。

コイツがすごく強かったのはこんな高位の守護女神が居たせいね。


「ペットの間違いじゃないの?」

「兼ペットよ」


そんなドヤ顔で言うことじゃないわよ。


「ミュール、ステラは仮とはいえ俺の妻だ。不快な思いをするといけないから離れろ」


アンタたちの全てが不快なんですけど!


「確かに、アムにふさわしいすごい美貌の女性ですわね」


ふふん、わかっているじゃない。

アタシの美貌は天界でも通用するようね。


「でも性格は最悪ですね」


余計なお世話よっ!


「じゃあ、そろそろ行くか」


勇者が手を上げると、目の前にドアが現れる。



-勇者アム視点-


普通は天界への出入りは死なないとできないのだが、俺は日常的に行っていた。


いつの間にかミュールたち(・・)女神に好意を寄せられるようになったが、俺の心を動かせたのはステラだけだ。


「じゃあ、そろそろ行くか」


俺は転生の扉を呼び出す。

記念すべき最初の転生だ。


「手慣れているわね」


冷ややかな視線を投げ掛けてくるステラ。

そういう表情も美しい。


「ここには頻繁に出入りしていたからな。さあ、いくぞ」


俺はステラの手をつかみ、扉を開ける。


「どうしてもアンタと一緒じゃないといけないの?アタシだけでいいんだけど?」

「何を言っている。結婚したら『最初の共同作業』というのをやるだろう」

「これは違うあああああーっ!」


俺はステラの手を掴むと、一緒にドアの向こうの空間に落ちていった。



20年後。


「お帰りなさい」


ミュールが俺たちを出迎えてくれる。


「うううう」


どうやらステラはまだ少し混乱しているようだ。


自分に殺された(・・・・・・・)からだろうな。



-女魔王ステラ視点-


何よこれ!

なんでアタシが自分に殺されないといけないワケ?


あと、最初の転生がコイツの仲間の女戦士だったけど、何コイツに惚れているわけ?


アタシ、その感情がずっと流れ込んできて、すごく鬱陶しかったんですけど!


っていうか、好きなら告白してよ!

奪ってでも自分のモノにすればいいじゃないの!


あっ、アタシはそうやってコイツのモノにされたわけか。


くっ!

不快だわ!


あと35265569回!

自由になったら、とにかくしたいことをするわ!

まず、コイツ殺すことだけは確定!


「次いくぞ」

「ちょっと、もう?」

「時間が惜しい」


アタシは手を引っ張られて、次の扉の中に入っていった。



5000年後。


「アタシの部下に殺された人もアタシが殺したうちに入るの?!」

「当たり前だ。自分で直接3000万人も殺していないだろ?」

「でも!あんな殺し方をしろなんて命じてないわ!」


口ではそう言うものの、本当はわかっている。

アタシのせいで、アタシの部下があんな残酷なことをしたのだと。


「次だ」

「…」



7000万年後。


「生きて帰ったら結婚するって言ったくせに」


さっきまで転生して追体験していた女性は、魔王との戦いに行くと言って出ていった恋人が遺体となって帰ってきたのを見て首を吊った。


「なんでよ。なんで、こうなったのよ」



5億年後。


「うっううっ、ひっく、ふええん」


なんて悲しいの。

アタシの、魔王だったアタシのせいだよね。


だから、お腹の子供を産むことも出来ず、殺されてしまった。

とてもむごたらしい方法で。


「次だ」

「アム…アタシ、もう耐えられない」


そう言うアタシをアムは強く抱き締めてくれる。


「俺が付いている。だから、大丈夫だ」

「うん」


いつの間にこうなったんだろうか。

アタシはアムが居ないとどうしようもなく弱い女になっていた。









10億年後


「…」

「よく、頑張ったな」


アムがアタシの頭を優しく撫でてくれる。


ピシッ


音をたてて二人の付けていた指輪が砕け散る。


「これから、俺たちは本当の転生をする」

「うん」

「俺たちの最初の人生とほぼ同じ状況の平行世界だ」

「そのまま過ごすと、アタシとアムが戦うワケね?」

「そうだ。だが、俺たちには前世の記憶がある。記憶はすぐに戻らないかもしれないが、いつか必ず戻るはずだ」


アムはぎゅっとアタシの手を握る。


「それで戦いは避けられるのよね」

「そうだ。それにお互いが努力すればもっと早く出会って未来を変えることも出来るだろう」


目の前に2つの扉が開いた。


「待っていてくれ。必ず迎えに行く」

「うん、待っているから」


それを聞いたアムは微笑んで、一足先に扉の向こうに身を踊らせて消えた。





「ふう。ふ、ふふふ。ふははははっ」


自然と笑いがこぼれる。


この残虐非道の魔王が、たかが10億年、ゴミどもの人生を追体験したくらいで、善人になるとでも思ったのかしら?


ようやく、ようやく、アイツから解放されたのよ。


アタシはもうひとつの扉に近づく。


さあ、10億年待ちに待った、



復讐の時だわ。



アタシは扉をくぐ



ドンッ!


「もらったわーっ!」


バタン!


アタシを突き飛ばし、ドアに飛び込んだのは、女神ミュール。


そして、後ろ手に閉められた扉は姿を消した。


あいつ!

ずっとこのチャンスを狙っていたのね!


アタシに転生すれば、アイツと一緒になれる。

アムが好きなのは、アタシの外見なんだもの!


許せないわ!


アムに復讐する機会を奪うなんて許さない!


しかし、どうしたらいいの?

アムみたいに、ここのシステムの『扱い方』なんてわからないわ。


すると、目の前にある扉が閉まろうとしていた。


まだ間に合う!


アタシはよく考えもせずにその扉に飛び込んだ。


それがアムが飛び込んだ扉であることをすっかり忘れて。

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