第15話 入学式で兄にいきなり代表挨拶をさせるという復讐
復讐のレベルがすごくライト。
-双子の兄アム(勇者アム)視点-
今日は初登校、すなわち入学式の日だ。
制服には1年生を示す星ひとつとSクラスを示す竜の紋章が付いている。
「お兄様、お待たせなの」
今日はエリちゃんのほうだ。
初日だからその方がトラブルも起きなさそうでいいかな?
「制服似合うかな?」
「うん、似合ってるよ」
制服ができてからエリちゃんともう10回くらいこのやりとりしてるけど、まさか性格がエリさんになるたびにその事を忘れてるんじゃないよね?
そういえばエリさんの時は制服着ていないな。
べ、別に楽しみなんかじゃないからな。
見た目は一緒なんだから何も変わらないだろうし。
「エリちゃん、ほら、寝ぐせ」
寝ぐせを見つけて髪の毛を撫でてやる。
「え?それは駄目っ」
「駄目ってなに?」
エリちゃんは目を閉じ、そして大きく見開いた。
この表情は!
「ねえ、アニキ」
「エリさん?どうして?」
どうして急に性格が変わったんだ?
「ふふっ。アタシの制服似合っているかな?」
「え?え?え?」
さっきとまったく同じはずなのに、どうしてこんなにドキドキするんだ?
言い方と表情が違うからかな?
「う、うん。似合ってるよ」
「そうか。じゃあこっちはどう?」
ふぁさ
「わあああっ!」
いきなりスカートをたくし上げるエリさん。
「動物柄は卒業して黒い下着にしたわよ」
大人っぽいけど、それはだめだっ!
「中等部らしいのにしてきなさいっ!」
「わかったわ(にやり)」
あの笑み、またどこかでやる気だな。
今は家の中だったからいいけど、絶対外ではやらないように釘を刺しておかないと。
「アム、待たせた」
モニカって制服を着たら美少女度がさらに跳ね上がってないか?
見とれてしまうなあ。
「アム、あまりじっと見るな。恥ずかしい」
「あっ、ごめん」
「何か変だったか?」
「そうじゃなくて、モニカがあまりに綺麗だから学園で絡まれないように守ってあげないといけないなって」
「何?」
「あっ」
しまった、ついとんでもないこと言ってしまった。
『あまりに綺麗』なんて軽薄な褒め方だよな。
「そ、そうか。綺麗か。守ってもらえるなら嬉しいぞ」
モニカがちょっと赤くなってる。
なにこれ、すごく可愛いんだけど。
-魔族モニカ(女神ミュール)視点-
魔族の国に居た時も人間に捕まった時も『綺麗』とは言われたが、大好きなアムに言われると違うんだな。
何だか顔が熱くなる。
「アムの制服も似合っているぞ。だが襟が曲がっているな。直してやろう」
襟はきちんとしているのだが、あえて襟を治すふりをしてアムに顔を近づける。
「じ、自分で直せるから」
「いいから任せろ」
アムも赤くなっている。
そうか、私の顔が近づいたことで恥ずかしがっているのだな。
この距離ならいきなりキスとかできそうだが、それはアムから『好き』と言ってもらってからだな。
「アニキ、モニカ、待たせたわね」
今日のエリ様は『エリちゃん』のほうだったはずなのに変わったのか。
『エリちゃん』と『エリさん』の二重人格らしいが、私にとってはどちらもエリ様だ。
「アニキ、中等部らしい下着にしたから確認して」
「馬鹿っ!そんなことより行くぞ!」
「人間の家庭では出かける前に妹の下着の確認をするのか?」
「そうよ。さっきの下着は大人っぽ過ぎて中等部らしくないから変えさせられたの」
「違うから!モニカ!信用するなよ!」
「アム。私の下着は大丈夫だろうか?もしかしておかしいかもしれない」
「大丈夫だから!」
「いじめられたらどうしようか?」
「うっ」
アムが困った表情になる。
「アニキ、見てあげればいいじゃないの」
「エリさんが見てあげればいいじゃないか」
「わかったわ」
ふぁさっ!
いきなりエリ様に私のスカートがめくられた。
「わあっ!…ってズボン?」
「アムが見たくなさそうだったから、『瞬間装着』で体操着のズボンを身に着けてみた」
「いいなそれ。今度からエリがそういうことをしたら頼む」
「わかった」
本当はアムになら見せてもいいし、むしろ下着を『瞬間装着』で脱ごうかと思ったくらいだ。
でも、そういうのは二人っきりの時にしたい。
-双子の妹エリ(女魔王ステラ)視点-
せっかく恥ずかしがらせようとしたのに失敗だわ!
あの『瞬間装着』って便利すぎるわよ!
このままではアニキに復讐ができないわ。
…どうしようかと思案しているうちに、学園に着いてしまったわ。
「1年生はこっちだぞ!」
入学式の式場に案内されたけど、ここの講堂はあいかわらずすごい広さね。
みんなの人生を追体験しているせいで、初見のさずの施設でも近づくと記憶がよみがえってどんなところかわかっちゃうのよね。
おかげでちっとも新鮮味が無いわ。
「すごい広さだな!」
アニキはいいわよね。
記憶が戻ってないから何もかも新鮮で。
「本当だな」
モニカは女神の記憶が戻っても下界のことは知らないから変わらないでしょうけど。
…この二人の記憶が戻ったら、アタシたちの関係ってどうなるの?
アニキはアタシが改心したと思い込んでいるけど、女神はそうじゃないって知っているかもしれないのよね。
もし二人の記憶が戻ったら、とりあえず改心したふりをしてしばらくごまかして時間を稼ぐことにするわ。
「エリは全然驚いてないな」
「だって、なんとなく知ってるから」
「『全知』の影響か。それって便利だけどつまらないな」
「だからって何でも知ってるわけじゃないのよ」
「そうなのか」
「うん。アニキのこととかわからないし」
「それは助かる」
どうして助かるのかしら?
「アニキ、何か隠し事でもあるの?」
「いや、別にそういうわけじゃないから」
(きっと破城槌のことなの。大きさとか知られたくないの)
それはそうだけど、きっとアタシが寝た後にやってる練習の事じゃないか?
(そうかも)
「それでは入学式を始める」
あっ、始まったわ。
ここで大々的にアニキが恥をかかせられればいいのに。
式は滞りなく進んでいくわね。
このあと新入生代表がスピーチをするのよ。
前の世界ではアニキがスピーチするはずだったけど、練習していたそぶりは無いわね。
すると、近くの新入生の話し声が聞こえる。
「レイカ、そろそろね。緊張してない?」
「別に」
「さすが入学試験でトップを取った人は違うわね。さすが知的美人のレイカね」
レイカ?
この子のことは追体験した覚えもないし、他の人の記憶でも見かけた覚えが無いわね。
ここは前の世界と完全に同じではない世界だから、レイカっていう成績優秀な生徒が現れてしまって、アニキが代表じゃなくなったのね。
そうだわ!いいことを思いついたわ!
アタシはこっそり魔法を唱えて司会をしている先生に幻覚を見せる。
この幻覚は魔王クラスの超高等黒魔術だから、ここにいる先生方でも見破られないわよ。
「それでは新入生代表の挨拶をレイカ…あれ?変更になったのかな?アムール・フェニックス君にしてもらいます」
「え?」
ふふっ、うまくいったわ。
アニキったらすごく焦っているわね。
(お兄様がんばって!)
応援しても無駄と思うわよ。
何の練習もしてこなかったんだから。
-魔族モニカ(女神ミュール)視点-
エリ様が幻術を使った?
こんな時に何をするつもり?
「それでは新入生代表の挨拶をレイカ…あれ?変更になったのかな?アムール・フェニックス君にしてもらいます」
なるほど。
新入生代表の挨拶はエリ様の兄であるアムにこそふさわしいというわけだな。
しかし急なことでアムが驚いているようだが、戦闘時に即興で戦術や適した武器を編み出すセンスがあるのだから、きっと大丈夫だろう。
アムに足りないのは自信だけだぞ。
自分を信じろ、アム。
-双子の兄アム(勇者アム)視点-
入学式で緊張していたけど、参加しているだけだから慣れてきたな。
あとは新入生代表のあいさつで終わりか。
「それでは新入生代表の挨拶をレイカ…あれ?変更になったのかな?アムール・フェニックス君にしてもらいます」
「え?」
えええっ?!
待って、聞いてないよ!
俺って新入生代表だったの?
それなら事前に教えてもらえるはずなのに!
「アニキ、早く行きなよ」
「う、うん」
エリさんに押し出されるようにして俺は壇上に上がる。
みんなの視線が集中する…ど、ど、ど、ど、どうしたらいいんだ?!
『このままでは民衆が収まりません!王に代わって民衆を説得してください』
『わかった』
『いきなり大丈夫なの?アンタ、何の準備もしていないのに?』
『心配ない。民衆の求めているものを肌で感じてそれを言葉にするだけだ』
何これ?
記憶?助言?
この前エリの魔法箒を避けた時と同じだ。
もしかして、俺にもエリみたいに何らかの知識や経験を教えてくれる能力があるのか?
…民衆、つまり生徒や先生たちが求めていることを肌で感じる…
新入生たちは自分たちの代表として誇らしいスピーチをしてほしいって思っているのだろうな。
そして先輩たちは、自分たちに向けてのメッセージが無いかを気にしている。
先生たちは俺が何を言うのか興味津々と言ったところか。ありきたりじゃないものを期待してるな。
…なんでこんな冷静に分析できるんだろ?
ともあれ、話し始めないと。
「私たちはこの学園に入学するにあたり試験を課されました。それによりクラス分けはされたものの、それが本来の実力によるものとは限らないと思っています」
ざわっ
「なぜならこの試験が悪くても入学はできるからです。ですから上位のクラスであってもおごることなく、下位のクラスであっても真の力を見せるのはこれからだと思い、私たちは勉学に励みます」
おおおおっ
「そして先輩方には私たちのご指導をなにとぞよろしくお願いいたします」
…
ありきたりな言い回しだから反応が薄いな。
でも、ここで…
「特に怖い先生の弱みなどを教えていただけると助かります」
どっ
あっ、ウケた。
先生方も笑ってるな。
「この学園で共に学んだことを誇りに思えるような生徒となることを誓います。新入生代表代理アムール・フェニックス」
『代理だって?』
『代表はどうしたんだよ?』
そんな声を聞きながら俺は壇を降りた。
「ぶっつけにしてはうまかった」
「ありがとう、モニカ」
「そうね。まあまあね」
エリさんはちょっと不満顔だな。
もしかして、『妹たちと一緒に頑張る』とか言ってほしかったのかな?
-新入生代表レイカ視点-
「それでは新入生代表の挨拶をレイカ…あれ?変更になったのかな?アムール・フェニックス君にしてもらいます」
どういうこと?!
新入生代表は私でしょう?
「レイカ、おかしいよ。先生に言おうよ。きっと、レイカが休みってことにされてるのよ」
「誰が言っても別にいいわよ」
そういいつつも私の内心は穏やかじゃない。
アムール・フェニックスといえば勇者の一族で貴族。
きっと学校に手をまわして挨拶できるようにしてもらったのね。
ふん、どんな挨拶をするか見せてもらうわよ。
…
中々話し始めないわね。
きょろきょろしてるし。
緊張しているのかしら?
「私たちはこの学園に入学するにあたり試験を課されました。それによりクラス分けはされたものの、それが本来の実力によるものとは限らないと思っています」
え?何言ってるの?
実力に決まっているわよ。
「なぜならこの試験が悪くても入学はできるからです。ですから上位のクラスであってもおごることなく、下位のクラスであっても真の力を見せるのはこれからだと思い、私たちは勉学に励みます」
そういう意味なのね。
新入生たちも納得した表情をしているわ。
「そして先輩方には私たちのご指導をなにとぞよろしくお願いいたします」
何よ、その程度の事しか先輩に言えないの?
ここの学園の先輩は学外との対抗戦とかで好成績残しているから、そういうことを褒めてからお願いするものなのよ。
「特に怖い先生の弱みなどを教えていただけると助かります」
ぷっ
…ふ、不覚にも笑ってしまったわ。
み、見られてないわよね?
『知的美人』って看板背負っているんだから噴き出すなんてもってのほかだわ。
「この学園に入学し、学んだことが誇りに思えるような生徒となることを誓います。新入生代表代理アムール・フェニックス」
『代理だって?』
『代表はどうしたんだよ?』
代表はここにいるわよ。
アムール・フェニックスは私の『復讐リスト』入りね。
私の輝く場を奪った報いは受けてもらうわよ。
アムールが戻ってきたわね。
何か話しているわ。
「ぶっつけにしてはうまかった」
「ありがとう、モニカ」
「そうね。まあまあね」
やけにきょろきょろしていると思ったら、ぶっつけ本番だったのね。
ぶっつけ本番であれだけ言えたら大したものだわ。
じゃあ、いったい誰が代表の名前をすり替えたのよ?
まあ誰でもいいわ。
私の出番を奪ったアムール・フェニックスに復讐することだけは決定よ!
首を洗って待ってなさい!
-女魔王ステラ(双子の妹エリ)視点-
何これ、つまんないわ。
アニキってこんな度胸と才能あったのね。
(わたしの自慢のお兄様だもんっ)
はいはい。
まあ最初に焦ったアニキの顔が見れただけでも良しとするわ。
それより、本来の代表のレイカって子はあまり気にしてないみたいね。
アニキに腹を立ててくれたら、うまく利用できたかもしれないのに。
今日の復讐はまだまだ終わらないわ!
このあとクラスに移動してからが本番よ!
(ねえねえ、わたしと代わってくれないの?朝はたまたま代わってしまっただけだよ)
それもそうだけど、ちゃんと『ふくしゅう』できる?
(何をすればいいの?)
今、急に壇上に上がってしばらくきょろきょろしてたでしょ?
(うん)
きっと緊張していたのよ。
だから、もう一度同じような場面を作って、緊張しないような練習をさせないと。
クラスのリーダーに推薦するとかね。
(『苦手なことの復習』だねっ!)
そうよ!
それで、今度はどうやったらアニキと交代できるの?
(ここにあるカードによれば…『胸を揉まれる』…え?)
嫌よっ!
それは絶対に嫌だから!
(12歳だとまだ早いものね。13歳にならないと)
そういう問題じゃないのよ!
(どういう問題なの?)
だから!
「エリ!危ない!」
え?
「きゃあっ!」
エリちゃんと頭の中で会話をしていたアタシは段差に気づかず躓いた。
「あぶないっ!」
転びかけたところをアニキが抱き留めてくれる。
がしっ、もみっ
「アニキ…助けてくれたのはいいけど、どこ揉んでるの?」
「ご、ごめん」
「まったく…」
ああ、意識が…
-双子の妹エリ(女魔王ステラ)視点-
エリちゃんこうりんっ!
「もう、お兄様ったら。そういうのは14歳になってからね」
「エリちゃん?」
「早く行こうよ!わーい、新しい教室だー!」
意識が入れ替わった時にはもう胸を触られてなかったけど、あと2年の我慢だからねお兄様!
(2年経っても駄目だからっ!)
え?なんで?
わかった!『復習ね!』
恥ずかしそうにしていたから慣れさせないと!
(え?まさか?)
むにょん
お兄様の手を取ってわたしの胸に押し付けるの。
「え、エリっ!急に何を!」
「あててるのよ」
胸を触らせる時ってこういうのよね?
(そういう意味と違うから!)
「わあ、何だあれ?」
「さっきの挨拶は面白かったけど、あんな可愛い子が胸を触らせてるだと?」
「許せんっ!リア充めっ!」
(あら?これはこれで良かったのかしら?)
だよねっ!
『ふくしゅう』は大事だよねっ!
お読みいただきありがとうございます。
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次回は5月16日土曜日18時更新です。




