第13話 鍛冶師勇者は入学試験を受ける
テンプレっぽい展開も。
-双子の兄アム(勇者アム)視点-
いよいよ魔導学園中等部のクラス決め試験だ。
モニカの協力も得て、やれることはやった。
そして試験会場の魔導学園中等部に来たけど、初等部と比較にならない規模の建物や設備だ。
「アム、緊張してるのか?」
今日はエリさんなんだな。
「大丈夫だよ」
「右足と右手が同時に出てるぞ」
「うっ、これはそういう歩き方の訓練なんだ」
「仕方ないわね」
ぎゅっ
エリさんが俺の腕にしがみつく。
「私も」
もにゅ
モニカが反対の腕にしがみついてきた。
もう胸が当たっているとかいつものことなので、照れるけどつっこまない。
それより美少女二人と腕を組んでいると、周りの目線が『死ね』って言ってるように感じるんだけど。
-女魔王ステラ(双子の妹エリ)視点-
こうやって周りに見せつければ、アムと当たった男子生徒は発奮して、実力以上の力を出すはずよ。
試験結果なんかどうでもいいわ。
それより、アムが痛い目に遭うところが見たいのよ。
「おいおいおい。見せつけてくれるなあ、今年の新入生はよお」
あら、中等部の上級生たちだわ。
これはアムに不幸が降りかかるチャンスかしら?
「試験なんで、失礼します」
「おっと、上級生に挨拶もなしか?」
「へへっ、試験の間その二人は預かってやるぜ」
「そんな男より、俺たちのほうがいいぜえ」
むっ。
何だか無性に腹が立ってきたわ。
「アタシも試験だからどいてもらえる?」
「そうだな。邪魔だ」
モニカもなかなか言うわね。
「なんだと?!2年Bクラスのエースであるガゼロフ様になんて口をききやがる!」
これでBクラスのエース?
まあ、少しはできるみたいね。
でも、大したことないわ。
「エリ、モニカ。校門の入り口まで競争しないか?」
「いいわねアニキ。アタシは負けないわ」
「私も負けない」
「何を?」
アタシたちは組んでいた腕をほどくと、一気に三方向に散り、人ごみの中を素早く、誰にも触れずに突き進んでいく。
エースとか言っておきながら、この程度の動きについて来られないとか情けないわね。
「一着!」
アタシは速さだけじゃなくてコース取りが良かったから楽勝の1着よ。
「エリに負けたか」
アムは惜しかったわね。
最初に出た方向が悪かったから、障害が多かったもの。
「次は負けない」
モニカ、次ってあると思ってるの?
毎朝やっても楽しそうだけど。
さあ試験よ!
でも、ここからも腕を組んでいくからね!
「エリ、さすがに校内ではやめないか?」
「ほら、あそこで腕組んでいる先輩がいるわよ」
「あれは恋人同士だろ」
「問題ないならいいのよ」
アムが嫌がってることをすると気分がいいわ!
-下級魔族モニカ(女神ミュール)視点-
試験会場に付いた。
自分がどの系統に属しているかで試験内容が違う。
戦うだけじゃなくてバフデバフや回復に特化した職業もあるから、同じ内容の試験を受けるわけじゃない。
私は低レベルの攻撃魔法と神系の治癒を使える。
だからここではあえて回復系統の試験を受けてSクラスを確実にしておく。
「『神治癒』」
私は治癒能力を調べる装置に魔法を注ぎ込む。
「欠損部位を治すレベルの治癒だと?!」
「『聖女』なのか?いや、それ以上じゃないか!」
「『超聖女』か!」
なんだそれは?
『神』って言いたいところだけど、アムに黙っていたほうがいいって言われたから、『魔王』と『神』のお告げは隠して、覇王気も使わないようにする。
アムとエリ様の試験はどうなったかな?
実戦の試験会場では、新入生同士の対戦が行われている。
人数が一番多いだけあって、アムもエリ様もまだだな。
丁度今からエリ様の番みたいだ。
しかし、エリ様も覇皇気を人前では使わないから黒曜の魔術で戦われるみたいだが、相手が弱くて物足りないのではないだろうか?
「『魔導箒』」
何?
あれは自動掃除用の魔法ね。
時々アムと一緒に魔法の訓練をしているときに使っていたけど、ここで使う?
「そんなもの!(ブンッ!)なにっ?!」
えっ?かわした?
すごい、相手の攻撃を完全にかわしている。
「ならば術者を!」
「『魔導箒』八卦陣よ!」
64体の箒が出て相手が滅多打ちになってる。
あれだけの魔法を一度に行使するエリ様は確かにすごいが、アムはあれを全部かわしていたのか。
「くそっ!こんな負け方なんてあんまりだ!」
「ふふふ。アタシは慈悲深いのよ」
そう言うエリ様の頭上には巨大な火の玉が浮かんでいる。
あれだけ時間があれば余裕で大魔法も使えるな。
「や、やめてくれ」
「ご要望通り、素敵な敗北をプレゼントするわ」
ドガガガーーーン!!
模擬戦闘用の施設内でなければ骨も残らないな。
さすがはエリ様。
大魔王の力を使うまでもないな。
-双子の兄アム(勇者アム)視点-
いよいよ俺の番か。
試験が終わったらしいモニカが見学に来ているし、エリは見事な勝利を収めている。
俺も派手に勝たないとSクラスになれないからな。
あれ?相手が居ないぞ?
「君の相手は上級生にしてもらうことになった。心配するな。負けても上級生相手としてのハンデは加味する」
試験官がそう言って、俺の前に出てきたのは、さっき絡んできた…だれだっけ?
「このガゼロフ様を馬鹿にした報い受けてもらう」
「そうそう、ガゼロフ先輩だった」
「俺様の名前を忘れただと?!」
だってちらっと聞いただけだからな。
「思いっきり恥をかかせてやる!」
Bクラスとはいえ、エースなんだからかなり強いんだろうな。
しかし、Sクラス入りを目指すなら、負けていられない。
「武器も装備も自由!ただし、強すぎるものを使うと減点対象になるからな」
わかっている。
だから、ここに持ち込むのは『素材』だけだ。
「『六角棍』とかクソみてえな武器使いやがって。俺様の剣を見ろ!」
鞘から抜き放った剣が炎を纏う。
「こっちは減点とか関係ないからな。最高の装備でいけるぜ!」
よりによって相性のいい『炎』の剣か。
「先生」
始まる前に聞いておかないといけないことがある。
「ここで戦った時に(ごにょごにょ)すると、元に戻りますか?」
「なっ?君の父は勇者の…そうか。待ってくれ。設定を変えてもらう」
試験官の先生は慌てて外に出て行った。
危ないところだったな。
これで『壊す』心配は無くなったな。
「何を言ったんだ?」
「戦えばわかります」
「新入生のくせに生意気だな。俺が怖くないのか?」
「俺はSクラス目指していますから、強い相手のほうがアピールできてうれしいです」
「けっ!」
そんなやり取りをしている間に準備ができたみたいだ。
「始め!」
-試験官視点-
まさかあんな質問をされるとは思わなかった。。
「ここで戦った時に『武器変質』を使用すると、元に戻りますか?」
『武器変質』は『武器生成』と同じく勇者独自のスキルで、相手の武器を弱くしたり、自分の武器を相手に合わせて強くするスキルだ。
あの炎の剣を変質させてしまったら、試合後に戻らないのではないかという質問だったわけだが、実際に戻せない可能性はあった。
この模擬戦闘の設備の設定は『非殺傷』と『武具アイテム類の状態を戦闘前に戻すこと』だ。
武器が曲がっても折れても機能を失っても、戦闘前の状態には戻る。
しかし、勇者のスキル『武器変質』を受けた場合は元に戻せないことがある。
存在そのものを別のものに変えてしまうからだ。
戦いの前にそれを指摘する余裕があるとは、さすがはフェニックス家の子だ。
これは楽しみな戦いになりそうだ。
-双子の兄アム(勇者アム)視点-
『武器変質』はもちろん俺は使えない。
しかし、それを言っておくことで、俺が勇者であると認識してもらえるだろう。
それに、これから『武器変質』に近いことをするのだからな。
まず俺は攻撃をひたすらかわす。
様々なアピールをしないと、Sクラスにはなれないからな。
「すばしっこい奴め!これでどうだ!『炎荊縛』!」
剣から発せられた筋状の炎が俺の周りを囲み、行く手を阻む。
そしてそれが絡みついてくる。
「このくらいの熱ならレジストできるってか?だが、もう逃げ回れまい!」
動きを止めた俺に斬りかかってきたところで、俺はそれを左手で掴んで受け止める。
「なっ?!素手で受け止めただと?!この剣は炎が無くともすごい切れ味なんだぞ!」
「今度はこちらの番だ」
俺は左手で握っている炎の剣に右手で『鍛造拳』を打ち込む。
鍛造のためのエネルギーは剣自体から奪い、叩き続け、そして鍛造しなおす!
そして剣から伸びている炎の荊が消えた。
「何してやがった?!離せ!」
剣を振り払われたが、ガゼロフ先輩の手から剣が落ちた。
「熱っ!」
剣を拾おうとしたガゼロフ先輩が再びそれを取り落とす。
「剣の所有者には一切熱は伝わらないはず…まさかてめえ?!」
「そうだ、その剣の所有者を『俺に鍛えなおした』」
「『武器変質』だと?!そうか、フェニックス…勇者の一族か!」
「『武器変質』でも支配権までは奪えない。これは『武器改奪』だ」
「なんだそれは?!」
俺は落ちている剣を拾い構える。
『イエス・マスター』
剣が俺に応えてくれる。
そして、剣の発する熱量がどんどん上がっていく。
「炎でなく、熱のみを生み出す剣に変えただと?!だがそんなもので俺様は倒せん!『炎刃手』!」
ガゼロフ先輩は魔法で両手に炎の刃を生み出す。
だがもう遅い。
俺は地面に置いてあった六角棍、俺が最も鍛造しやすい成分比の鋼鉄でできたそれを拾い上げ、『鍛造拳』で叩く。
使うエネルギーは炎の剣から十分得られた!
一瞬で鍛造されたそれは、数十本の強靭なワイヤーとなり、叩かれた勢いのままガゼロフ先輩に絡みついていく。
「これはっ?!」
「終わりです」
ワイヤーを赤熱化させて…
-双子の妹エリ(女魔王ステラ)視点-
圧倒的な勝負だったのに、一瞬でアムが倒された。
ワイヤーに絡まれた状態から、雷撃を放ったのね。
アムは赤熱化をしようとしていたから、それを回避できなかった。
強力な電撃を流されたワイヤーはバラバラにちぎれ飛んでしまっているわ。
雷使いは今のアムの戦法と相性悪いわね。
でも、勇者は万能型だから雷対策もあるのでしょうけど。
でもあれは初見殺しだわ。
あれだけの威力の雷撃、くらったら心臓が止まりかねないもの。
Bクラスとはいえ、エースというだけの事はあるわね。
(アムお兄様!負けないで!ステラお姉さま!応援して!)
いや、あれはもう無理だって。
見たらわかるぞ。
(お願い!)
もう。
「アム!何やってるんだ!そんなことでアタシを守れるのか?!魔王を倒せるのか?!」
「そうだ!アムは絶対に負けない!お前は『超勇者』なんだからな!」
モニカも応援しているわね。
でも、『超勇者』って言っていいのかしら?
まあ、中等部で色々やってるうちにわかってしまうのでしょうけど。
「なんだ『超勇者』って?」
「…それは勇者を超えたスキルを持つ者。『武器変質』ではなく『武器改奪』を使うというように」
アムが…立ち上がった?!
「貴様?!」
「俺の攻撃の弱点はすでにわかっていた。だから地面にもワイヤーを打ち込み、雷撃全てが来ないようにしていた」
「それでも、もうフラフラじゃねーかよ」
「勇者は苦境から逆転勝利するものだ。そして超勇者は、圧倒的な苦境から圧倒的勝利を成し遂げる!」
-ガゼロフ視点-
どうなってやがる。
こういうあがく力も勇者の能力かよ!
それに超勇者って何だよ?!
相手が勇者でも俺様が勝つという筋書じゃないのかよ!」
「勇者は苦境から逆転勝利するものだ。そして超勇者は、圧倒的な苦境から圧倒的勝利を成し遂げる!」
圧倒的勝利?
その状態から何ができる?
「剣よ!」
また俺様の剣から熱を呼び出している。
どうやらあれをエネルギー源として使っているんだな。
まだ未熟だから武器を0から生成とか、低エネルギーでの変性とかができないのだろうな。
しかし、もうこれ以上付き合う気はないぜ!
「轟け雷鳴!『雷神雷身』!」
俺様は雷を全身に纏う。
これで一発殴るだけでおしまいだ!
何しろ城壁すら砕く一撃なんだぜ!
「はあっ!」
何?!拳を地面に打ち込んで?
地面の下から恐ろしい気配がする。
こいつ、地面の中で何かやってやがる!
ならば空中に逃れるだけだ!
ガシッ!
足にさっきのワイヤーが絡んでいる?
全部切れたんじゃなかったのか?!
いや、このワイヤーは地面から生えている!
雷用のアースに使ったワイヤーか!
「このくらいのワイヤーなどで俺の『雷神雷身』を止められ…ごぼっ」
水?!
俺の周りにいきなり大量の水が?!
いかん!
電気が水中に散って地面に吸われる!
しかもなんだこの水、妙に粘り気があるぞ。
体がうまく動かん!
シュルルル!
ワイヤーがさらに出てきて絡みついてきやがる!
くっ!抜け出せん!
ん?
こ、これは?!
俺は自分の真下から何かとがったものが出てくるのを見た。
ウイイイイイイイイン!
ドリルだとっ?!
地下で準備されていたのはこれかっ!
あの位置から真上に出てきたら、俺の股間は…や、やめろっ!
衆人環視の中で大恥を晒してたまるかっ!
俺は必死に試験官に降参をアピールした。
「降参でいいのか?」
「(ぶんぶん)」
全力でうなずく。
こんなところで、負ける以上の恥をさらしてたまるか!
「それまで!」
にやり
ん?こいつ、何だその笑顔は?
ウイイイイイン
ドリルが止まってない?!
や、やめろ、やめろっ!
ボコッ!
ぽたっ。
は?
地面から出てきたのはわずか5センチほどのドリルの先っぽだった。
しかも勢いもなく、すぐに地面に落ちる。
-双子の兄アム(勇者アム)視点-
ふう、紙一重だったな。
超勇者は圧倒的苦境から圧倒的勝利をするなんて言ってしまったけど、今思うと恥ずかしいセリフだな。
「貴様…俺様をだましやがったな?何が圧倒的勝利だ」
「すみません」
「打ち負かした相手に謝るな。ちっ、俺様が勝つはずだったのによ。まあいいや。来年はお前がこの『お役目』だからな」
お役目?
何の?
「入学試験で見込みのありそうな奴とか調子に乗っていそうな奴を見つけて嫌がらせをして、試験で対決していいところまで勝たせておいてから、全力で叩き潰すっていう『洗礼』をする役目だ。でも新入生が勝ったのは10年ぶりじゃないか?くそっ、黒歴史に名前を刻んじまったぜ」
え?あれって全部演技なの?
「俺様は2年のSクラスの第3席イエール・ガゼロフ。ようこそSクラスへ」
何?急にさわやかなお兄さんになったけど。
でも、俺様口調は元々なんだな。
「先輩、よろしくお願いします!」
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