第11話 魔王候補は鍛冶師勇者を見定める
鍛冶師勇者はどう戦うのか
-魔族モニカ(女神ミュール)視点-
私はどうやらここ家の『隷属養女』という扱いになるらしい。
奴隷を養女として育てる制度があり、隷属紋を付けたままでも市民扱いになれる。
私はそれ以外にも『封魔の呪印』もあるため魔王はもちろん魔族としての力は一切使えず、今は『神』としての『治癒スキル』くらいしか使えない。
隷属紋のせいで人間に害を成せないが、攻撃されたときに最低限身を守ることは可能らしい。
甘い人間らしい隷属紋だ。
魔族であれば完全に支配して抵抗できなくしてしまうものを。
いや、そんな甘い人間に助けられたのだから少しは偏見をなくすべきか。
だが、この男がエリ様の双子の兄だと?
何の『気』も感じないこの男が?
確かに顔は似ている。
いや、髪型を除けば瓜二つだ。
しかしこのような凡庸な男がエリ様の双子の兄など、許されることではない。
父も母も勇者と聖女で魔王殺し。
どうしてこのような愚息が出てきたのか。
「セレス様、テレサ様。お願いがございます」
私はエリ様の父母の名を呼ぶ。
「もう、モニカちゃんったら。私たちは親子になったのよ。だから、『お母さん』とかでいいわ。『ママ』も捨てがたいわね」
「ははは。俺はどちらでもいいな」
こんな明るく話しかけてきているが、彼らがその内に秘めた圧倒的な力は隠し切れない。
今のエリ様では勝てないと思えるほどに。
「では、父上、母上」
「「じーん」」
何か喜んでもらえたようだが、とりあえず頼みごとをしよう。
「私が学校に行くために隷属紋の管理者を一時的に代えてもらうと伺いましたが、それはエリでしょうか?」
「いや、アムだ。アムとエリはほとんど離れられないから、どちらでもいいだろう?」
「エリにしてほしいのです」
「どうしてだ?」
「弱い者の下に付きたくはありません」
ここははっきりと言わせてもらう。
私はこれからエリ様のために生きていくのだから。
「ふむ」
父上は少し考えると、こんなことを言われた。
「ならばモニカ。アムと戦ってみるがいい。お前の封印を疑似的に解除できる戦闘施設を借りてやろう」
封印を解かなくても魔族の身体能力は人間より遥かに高い。
そのままでも勝てるつもりだったが、徹底的に叩きのめすには都合がいい。
「アムはそれでいいか?」
「わかりました」
自分の実力をわかっていないのか、それとも私が弱いとでも思っているのか?
「では、すぐでもいいか?」
「いいですわ」
「俺もかまわない」
それを聞いて父上は準備に出ていかれたわ。
「俺も支度してくる」
アムも出ていった。
せいぜい無駄な準備をすればいい。
「ねえ、モニカ」
二人きりになって、にこやかにエリ様が話しかけてこられた。
「アムお兄様に勝つ気?」
「もちろんです。負けるはずがありません」
「そう」
ゾワッ!
エリ様が覇闘気を纏ったわけでもないのに、ものすごい悪寒がして体が強ばる。
「負けたら何でも言うことを聞いてもらうわよ」
「私があの程度の男に負けるはずありません」
「ふふっ」
ゾワワッ!
まただ。
まさか、兄をそのように言われて怒っているとでも?
「それなら『油断した』とかいう言い分けは聞かないわよ」
「当然です」
いい機会だ。
あの男の真の姿を見せて、頼れるのは私の方だとわかってもらう。
「お兄様は『超勇者』なのよ」
何それ?
そんなの聞いたこと無い。
あの凡庸な感じは勇者とすら思えないのに。
いいわ。
エリ様の兄に対する幻想を打ち砕いて差し上げます!
-双子の兄アム(勇者アム)視点-
勝てるだろうか?
あれだけ訓練したんだ。
超鍛冶師としての鍛練もしたんだ。
魔族とはいえ、同い年の女の子に負けるわけにはいかない!
コンコンコン
「アムお兄様」
エリちゃんのほうか。
「お願い、絶対勝って」
目の前に手を組んで、祈るように懇願するエリ。
その目には涙が溜まっている。
「どうしたんだ?」
「『負けたら何でも言うことを聞いてもらう』って…やっぱりわたしのことはいいの!お兄様は無理をしないで!」
そう言って走り去るエリ。
あいつ、俺が負けたらエリを思い通りにする気なのか?!
そういえばあの時に足を舐めているのも、エリは嫌がっていたような…。
くそっ!
それなら女の子相手だから使わないでおこうと決めた技も、全部使ってやる!
エリ!
お前は俺が守る!
-双子の妹エリ(女魔王ステラ)視点-
これでよしと。
(ねえ、エリちゃん)
なあに、ステラお姉様。
(何よこの茶番)
アムお兄様は優しいから、本気を出せるようにしたの。
(あなたって本当に黒いわね)
うん。黒曜の聖女らしいでしょ?
(そういう意味じゃないのに)
いいの。
お兄様を馬鹿にするような女は、地獄に落ちるべきなのよ。
(笑顔で言う台詞じゃないわよ)
ふふっ。
モニカが負けたときが楽しみね!
(何をするつもりなの?)
もちろん!
『ふくしゅう』よ!
(???)
-父親セレス視点-
「いいか。勝負は一本勝負。降参か、戦闘不能か、俺が止めるまでだ。このフィールドでは大ケガはもちろん死んでも復活できる。遠慮なくお互いの全力をぶつけてみろ!」
モニカの封印を解き、力を解放してわかった。
彼女は魔王の素質を持っている。
だが、アムは超勇者のお告げを受けた男だ。
それにあいつの日々の努力はよく知っている。
しかし、俺の『感覚』では、今のアムの実力ではモニカに勝てない。
だが、それを覆してこその勇者だ。
超勇者ならなおのことだ。
アム、お前の本気以上の力、見せてみろ!
「では、始め!」
-母親テレサ視点-
試合が始まったわ。
中等部に上がる前に試合なんて、子供の頃を思い出すわ。
セレスお兄ちゃんって、昔はものすごく弱虫で…他ごと考えている暇は無さそうね。
モニカが覇王気を纏って一気に突っ込んだわ!
手刀!いいえ、あれは覇王気を刃にしているのね!
-魔族モニカ(女神ミュール)視点-
まず四股を切り落として力の差を理解させる!
それから首を切り落として終わりよ!
私は手に纏った覇王気を刃に変えて、アムの右肩を狙う。
この速さを見切れて?
すっ
かわされた?!
ふふっ、それなりに素早く動けるようね。
でも覇王気の刃は物質じゃないのよ!
ギリギリでかわしたくらいなら、刃の大きさを変えて当てられる!
「くっ!」
ふふっ、肩から血が吹き出したわね。
四股を切り落とす前に、身体中を切り刻んで血まみれにしてあげるわ!
「くらえっ!」
そんな鉄の棒なんか切り落として…
ぐにゃあ
やわらかいっ?!
熱っ!
かすっただけで良かったわ。
あの鉄の棒、いつの間にか真っ赤になって、ムチのようにしなって襲いかかってきたわ。
鉄の棒に『灼熱武器』をかけてもあんなふうにはならないはず。
まさか本当に『超勇者』だというの?
「ならば切り落とすまで!」
鉄の棒の動きを見切り、覇王気で真っ二つにする。
-双子の兄アム(勇者アム)視点-
鉄の棒が斬られて半分の長さになった。
やはりそう簡単にはいかないか。
「『炎の矢』!」
今度は魔法か!
数十本の炎の矢が俺に向けて飛んでくる。
この数を一気に撃つとか、本当に俺と同い年か?
だが一発あたりの威力が弱い!
俺は短くなった鉄の棒で打ち落としつつ接近する。
「それならこれよ!『火炎槍!』」
大きな炎の槍!
チャンスだ!
俺は一気に踏み込んだ。
「突っ込んできた?馬鹿ね!燃え尽きなさい!」
目の前の炎の槍を俺は手のひらで受け止める。
「なんですって?!」
そのまま鉄の棒で殴ろうとしたが、すんでのところでかわされてしまう。
くっ、せっかくのチャンスが!
「危なかったわ。あなたが焼けた鉄の棒を持っている時点で気づくべきだったわ。あなたはその手に炎の極大耐性がある」
ちっ、見破られたか。
「それなら、手のひらで防げない大きさにするだけよ」
モニカの頭の上に、巨大な火の玉が現れる。
「『業爆炎弾』!」
巨大な火の玉が俺に向けて放たれた。
-魔族モニカ(女神ミュール)視点-
少しは驚いたけど、もうおしまいよ!
『業爆炎弾』は任意の位置で起爆できるから、仮に手のひらではなくて腕全体に炎の耐性があったとしても防御しきれない!
焼き尽くされるがいいわ!
「はあっ!」
手で掴みに行ったわ!
馬鹿ね!
『起爆!』
ドゴオッ!
声に出さなくても、思っただけで起爆できる。
さあ、燃え尽き…爆発がアムの体に触れて止まって…拳に吸い込まれた?!
「はあああっ!」
ばきいっ!
がきいっ!
な、何を?しているの?!
鉄の棒を拳で殴り始めた?
-双子の兄アム(勇者アム)視点-
『鍛造拳!』
この爆発エネルギーを利用して鉄の棒を強靭な『鋼縄』に鍛造する!
「くらえっ!」
俺は投げ縄のように結んだ鋼縄をモニカに投げつける。
今思い付いた戦法じゃない。
これは俺がずっと練習してきた技。
だから、はずさない!
-魔族モニカ(女神ミュール)視点-
くっ!
急に目に強い風が吹き付けられて、一瞬視界が閉ざされたわ。
気がつくと、私の真上に広がる縄の輪。
あの投げ縄の狙いは私の首か胴!
締め付けられるのも危険だけど、それ以前にあれを赤熱化されたら一大事だわ!
でもっ!
そんなちゃちな技、すぐに破れるわ!
「『絶空閃』!」
ザシュ!
いきなり強靭な鋼鉄の縄を作ったのは驚いたわ。
しかし、この距離ならどんなに硬くても切り裂けるのよ!
ふわさ
「え?」
な、何かが降りかかってきた?
まるで蜘蛛の巣のような…まさか?!
見えないほど細い糸でできた網が私に絡み付いている。
「降参しろ。この鋼線は蜘蛛の糸のように細く、鋼より強い」
「まさか縄と一緒に蜘蛛の糸のように細い鋼線を網のように投げていたなんてね。でもあなたがこの鋼線に触らなければこれを赤熱化することなんて…ああっ!」
見えてしまった。
あいつの手元に光る糸が集まっているのを。
全て切れていなかったの?!
そうか!広範囲に糸を撒いていたのね!
「赤熱化される前に全てを切り裂けば!」
「お父さん!」
なぜか父上に呼び掛けるアム。
まさか自分が勝ったから止めてとでも言う気なの?
ズバッ!
ふふっ、あいつにつながると思われる全ての糸を切り裂いたわ。
ん?
なに?
体が熱い?
まさか赤熱化?
違う、これは私の全身から血が吹き出して…
どうして…
-双子の兄アム(勇者アム)視点-
「お父さん!どうして止めてくれなかったの!」
「とどめをためらったら逆に殺されることもある」
「でも!今のは」
「絶対に逃げられない、か?」
「う、うん」
赤熱化は距離に関係なく、繋がっていれば一瞬。
そうでなくても、あの鋼線の一部は『刃鋼線』。
切り裂こうとしたら柔軟性のある刃のごとき鋼線に引っ張られ、ああやって全身が切り刻まれる。
「戦いは終わってみないとわからない。俺が止めるといったのは、このシステムを壊すほどの戦いになって、怪我が治せなくなったり死んだりするのを回避するときだけだ」
「でも!」
「心に傷は負うだろうが、それはアムが癒してやれ。モニカの兄としてな」
そうか。
そうだよな。
あれで止められていたら、きっとモニカは敗けを認めなかった。
すごく痛かっただろうけど、これからは兄妹として仲良くできたら…。
でも、エリに『負けたら言うことを聞け』なんて言ったのは許せないけどな。
-魔族モニカ(女神ミュール)視点-
私、負けたの?
油断…いいえ。
油断して人間に捕まった時点で私に油断は無くなった。
だから、これは私の実力。
アムとの力の差。
「アム。私の負けだ。約束通り、何でも言うことを聞く。あとで私の部屋に来てくれ」
「え?ああ、わかった」
アム…エリ様の兄にふさわしい強さだった。
それに気づかず、このような恥をさらした私だ。
アムに何を言われても、絶対に断るまい。
-双子の妹エリ(女魔王ステラ)視点-
やっぱりアムお兄様が勝ったよ!
でも、どうしてこうなったの?
モニカが負けたら、わたしの言うことを聞いてもらうつもりだったのに!
(アニキを騙したバチじゃないの?)
ううっ。
お兄様、何を頼むんだろ?
(相手はすごい可愛い娘なのよ)
まさか初夜?!
(ぶぶっ!)
添い寝する気ね!
(お前ら、兄妹揃って初夜ってそういう認識なの?)
違うの?
(いや、まあ違わないわ)
ううう。
あとで何したか聞き出すんだからっ!
お読みいただきありがとうございます。
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