第10話 魔王に転生した女神はまだ寝覚めない
主要キャラがこれで出揃いました。
-下級魔族ステラ(女神ミュール)視点-
私はステラ。
下級魔族の娘。
12歳になったから、そろそろ自分の行く先を決めなければならない。
下級魔族の多くは人間の国との国境で小競り合いをするのが仕事。
毎日のように死ぬ。
魔族も人間も。
私も下級魔族だからそうなるはずだった。
でも、そうしなくていいと言われた。
なぜなら、私が10歳の時に行った『魔告の儀式』で、私が『魔王であり神でもある』と言われたため。
『魔告の儀式』は10歳になったら魔族の誰もが受ける儀式。
儀式では、自分がどのような魔族に成る適正があるかを告げられる。
それこそ人間の言う天啓のように、直接頭の中に告げられるのだ。
そして私に魔王と神の両方のスキルがもたらされた。
それと共に『覇王気』が身に宿った。
儀式を行った高位魔族が言ったわ。
『その覇王気を持つお前の未来は下級魔族ではない。12歳になるまでに自分の未来を決めて、好きに生きろ』
そう言われた者の多くは魔族の国の中心に行って自分の力を示し、高位の魔族になり、果ては魔王にすら成り上がるのだと。
でも、私はまだ悩んでいる。
何をしてもいいと言うのなら、もっと違う道があるかも。
だって私は魔王でありながら神でもあるのだから。
「ガアアッ!」
国境にいる魔物は知能の低いものが多く、人間だけでなく魔族にも襲いかかってくることがある。
私のような子供だと尚更だ。
でも、
「『覇王槌』!」
私が拳を振り下ろすだけで、魔物の半身があっさりと潰れる。
「アギャアアア!」
「『神治癒』」
手のひらをかざすだけで瀕死の魔物は再生されて傷ひとつなくなる。
「まだやる?」
「ガ、ガ、アウ…キュウウン」
子犬のような声で私に媚びてくる魔物。
つまらない。
こいつらは弱すぎる。
殺す価値もない。
じゃあ、高位魔族がいる魔族の国の中心に行って、高位魔族を、そして魔王を狩る?
気が乗らない。
負ける気がしないから。
人間の国には魔王を倒せる『勇者』がいるらしい。
そっちと戦う方が面白そう。
そう思って、ひとりで国境を越えた。
それがいかに甘かったか。
私は今、牢屋の中にいる。
牢屋といっても簡素なもので本来の私なら簡単に壊せる。
でも、今の私は力が出せない。
罠にかかり、体に『封魔の呪印』を刻まれたから。
神の力は完全には目覚めていなくて治癒能力しかない。
だから私は呪印を解呪出来ない。
強かったなんて幻想。
私は自分の力に振り回されて、人間の知恵に負けた。
未来を選ぶことなんてことはもう出来ない。
私の未来は人間の好事家の手に渡って慰みものになることだけ…。
-双子の兄アム(勇者アム)視点-
「アム、エリ、ちょっと来い」
「お父さん、何でしょうか?」
「いったい何かしら?」
すごく改まって、大事な話かな?
「実はな、国境で魔族が生け捕りにされた」
「珍しいですね。普通は殺されるか自決するのに」
「うまく『封魔の呪印』が効いたらしい。何でもまだ子供の魔族らしくてな」
子供だから罠に引っ掛かったのか。
「それが子供と思えない美しい魔族でな、今売りに出されている」
「まさか?!」
「どうした、エリ?」
「な、何でもないわ。そうね、きっといやらしい人間が買うのね」
-女魔王ステラ(双子の妹エリ)視点-
それって、アタシのことだわ!
このあと、アニキがお父さんに言われて、アタシを助けにいくのね!
「それでな、お前たちに頼みがある」
お前たち?
そっか、アタシの病気が治っているから、少し未来が変わって二人で逃がしに行くのね。
「お前たちがその子と友達に成りたいから買ってほしいって言ったって、お母さんに証言してくれ!」
「え?」
「え?」
どういうこと?
「あんまり可愛いんでな、つい衝動買いしてしまった」
「ええーっ!」
「なにしてるのよーっ!」
それって全然話が違うじゃないのよ!
「い、言っておくがいやらしい気持ちで買ったんじゃないぞ。おまえたちと同い年くらいの子供が人間の慰みものにされるのを見るに忍びなくてだな」
お父さんったらアタシが「いやらしい人間が買うのね」なんて言ったから必死に弁明してるわ。
前の時もアタシを逃がそうとしてくれてたくらいだから、下心が無いのはわかっているわよ。
そもそもアタシはお父さんの人生も追体験しているのよね。
いつもヘラヘラしてるくせに本当は真面目なのよこれが。
「使ったのは俺が貯めていたお金だけで、家のお金には手を付けていないからな。だから頼む!お母さんを一緒に説得してくれ!」
よくそんなお金あったわね。
もしかしてこれってアタシの病気が治ったせい?
確かお父さんの人生の追体験では治療に莫大なお金を使っていたのよね。
だからアタシを買い取れなかったけど、アニキに助けに行かせたのだったわ。
アタシの病気が治ってお金に余裕が出来たから買ったってこと?
ど、どうするのよこれ?
ここに来るのよね?
魔王退治の時に復讐するつもりだったけど、まだ何の準備もしてないわよ。
それに女神はもう覚醒してるのかしら?
いえ、それなら封魔の呪印で捕まったりはしないわよね。
とにかく、えーと、
(ステラお姉様、落ち着いて。わたしに代わって)
そうね、交代してゆっくり考えるわ。
それで今日の『交代カード』にはなんて書いてあるの?
(んとね、アムお兄様にほっぺをつまんでもらうの。ぷにぷにと)
そんな恥ずかしいこと頼めないわっ!
(大丈夫、こう言って)
「あ、アニキ」
「どうした、エリ?」
「お父さんがそんなバカなことするはずないよね。きっとこれは夢なのよ」
「いや、夢じゃないみたいだぞ」
「じゃあ、アタシのほっぺたをつねって!」
「何でだよ!そんなことしたら痛いじゃないか!」
「やらないなら、アニキの股間を蹴って痛いか痛くないかで夢か調べる…って」
エリちゃん!アタシになに言わせるの!
「わかったよ」
ぷに
「こうか?」
ぷにぷに
そんなんじゃあちっとも痛くないわよ。
もう、やっぱり優しい…んだから…
-双子の妹エリ(女魔王ステラ)視点-
エリちゃん降臨っ!
「うん、痛い痛い。やっぱり夢じゃないねっ」
「あれ?お前、エリちゃんのほうか?」
「アタシはエリさんだよ。それでその子はどこにいるの?」
「隣の部屋だ。現金即決で連れてきた」
「早っ!」
アムお兄様の目が点になっているけど、わたしはすぐに部屋を飛び出して隣の部屋に行くの。
そこには椅子に座っている、すごく綺麗な女の子が居た。
これが魔族なの?
角とか牙とかは?
(そういうのは引っ込められるし、そもそも封魔の呪印で魔族らしい部分は出せなくなっているのよ)
そうなんだ!
「ねえねえ、わたしエリ!あなたは?」
「…」
「名前が無いの?」
「言うもんか」
「じゃあ、名前がわかるまで『タマ』って呼ぶね!」
「猫みたいな名前で呼ぶな!私はステラだっ!」
(お前ら本当に兄妹そっくりね!)
何のこと?
(こっちの話よ!)
でも、ステラお姉様と同じ名前なのね。
なんとなく顔も似てない?
(ステラなんて魔族ではありきたりの名前だからな。見た目もアタシに似てて紛らわしいから、やっぱりタマって名前にしてやれ)
えーっ、それならもっと違う名前にするー。
「あのね、ステラさん。わたしの『真名』もステラなのよ」
(おいっ!)
「『6対の漆黒の翼と6対の純白の翼を持ちし黒曜の聖魔王女ステラフィル・エリシュオン』それがわたしの真名よ」
(勝手にアタシの名前を混ぜるな!それにそういうのって、すごく痛いからやめてくれ!)
え?
格好いいのになあ。
「だからこの家でのあなたはステラじゃないの。わたしが名前を付けてあげる。あなたは今日から」
(ミケは駄目よ!)
どうしてわかったの?!
じゃあ、
「あなたは今日からモニカよ」
(おっ、まともな名前じゃないか)
ふふん、お父さんが大好きなお酒の名前なの。
(まさかモニカ・クランベリー酒?!)
お父様ったら勇者の癖に甘いお酒しか飲めないのよねー。
勘がいいお母様なら気づくかも知れないわね。
この子はお父様の好みで買った子だって。
(お、おまえ意外と黒いな!)
だって、これはお父様がお母様に黙ってしたことだもの。
そのくらいのリスクがあってもいいのよ。
「モニカ…未来を失った私には新しい名前が丁度いいか」
(こっちはこっちで受け入れてるしっ!)
「よろしくね、モニカ!未来はこれから一緒に作ろうね!」
「どうしてだ?私は魔族だぞ。それも魔王の力を持っているんだぞ!」
「大丈夫!わたしは大魔王だから!」
そしてわたしはちょっとだけ『気』を解放した。
-双子の兄アム(勇者アム)視点-
「アム、頼むっ!お母さんにお前から言ってくれ!」
「わかったから離してよ!エリが魔族の所に行ったから、早く助けに行かないと何をされているか!」
「封魔の呪印があるから大丈夫だろ?」
「お父さんはわかってない!」
俺はお父さんを引きずって隣の部屋に行き、扉を開けた。
そこにはエリの前に跪いている女の子の姿が。
服従の証に、エリの足にキスをしている。
「こ、これは?」
「遅かったか…。だから、その子がエリに何をされているか心配だったのに」
エリさんの事だから、こうなる気がしたんだよなあ。
-魔族モニカ(女神ミュール)視点-
私は恐ろしい魔王の力を持っているのよ!
そんな私とどんな未来を見るって言うの?!
「どうして?私は魔族だぞ。それも魔王の力を持っているんだぞ!」
「大丈夫!わたしは大魔王だから!」
そう言った少女の体から『気』が吹き出してきた。
これは?!
私にはわかる。
これは魔王の覇王気!
いいえ、魔王の上に立つ大魔王の覇皇気!
どうして私と同い年くらいの少女が?
さっき言ってた『6対の漆黒の翼と6対の純白の翼を持ちし黒曜の聖魔王女ステラフィル・エリシュオン』って冗談じゃなかったの?!
気がつくと私は少女の前に跪いていた。
「ステラフィル・エリシュオン様、服従の誓いを」
「アタシの真名は伏せておきなさい。ここではエリですわ」
「はい、エリ様」
そして私はそのお御足に口づけた。
-双子の妹エリ(女魔王ステラ)視点-
ふふん、うまくいっちゃった。
(どうしてエリちゃんが覇皇気なんか出せるのよ!アタシでも覇王気までしか出せないのに!)
んーと、ちょっとしたコツ?
意識が外に出るようになってから、魔王らしいことが出来ないかなって試していたら出来たの。
でもね、わたしは闇魔法とか使えないから、そういうのはステラお姉様にかなわないわね。
(ちっともフォローになって無いわよ!覇皇気ってのは空間すらねじ曲げられるのよ!)
うん知ってる。
だから消ゴムを落としたときに方向変えて机に戻したり出来るよね。
躓いて転びかけた時に立ち直るとか、水の入ったコップをひっくり返したときにも…
(それ、覇皇気の使い方おかしいから!ドジの回避に使っているだけじゃないか!)
はいはい、もう大人しくしてて。
今はわたしのターンなの。
(わかったわよ。とりあえずこれからのことを考えておくわ)
バタン!
「あっ、お父様!アムお兄様!」
「こ、これは?」
「遅かったか…。だから、その子がエリに何をされているか心配だったのに」
アムお兄様にはお見通しだったのね。
でも、きっとエリさんの仕業と思っているのよね。
ふふーん。
わたしだって、いつまでも子供じゃないのよ。
ぺろぺろ
もう立派な大人よ。
ぺろぺろ
「きゃははははっ!だめ、そこは舐めないでっ!」
「でも魔族の服従の証はこうしないと」
「服従はいいから、ね!お友だちになろっ!」
「(小声で)大魔王のことは家族には内緒なのだな?」
「(小声で)そうなの」
「わかった。エリさん」
「エリでいいよ、モニカ」
「エリ、これからよろしく」
「うん、よろしくね!」
あら?
アムお兄様が固まっているわ。
わたしの足を舐めさせていたのにショックを受けたのかな?
それから帰って来たお母様が怒ると思いきや、モニカをすごく気に入ってしまい、好事家の魔手から少女を守ったとして、お父様が誉められていた。
『モニカ』がお父様の好きなお酒の名前って気づいてるのかな?
お母様なら気づいていても黙っているかも。
だって、わたしのお母様ですものね!
-双子の兄アム(勇者アム)視点-
こちらに顔を向けた魔族の少女は、少女と思えない美しさだった。
魔族だけど『神々しい』という美しさだ。
でも何だろう?
一目惚れとかしなかった。
俺はどちらかというと神々しいより妖艶な雰囲気で悪女っぽい女性の方が好みで…そう、エリさんのような…
って、なに考えているんだ!
妹だし、いつも俺にいたずらをしてくるのに!
「アムさんって呼べばいい?」
「いや、俺もアムって呼んでくれ。これからよろしく、モニカ」
「よろしく、アム」
するとモニカが急に顔を俺に近づけてきた。
えっ?何?
思わずどきっとする。
「(小声で)アム、お前は本当にエリの兄か?そんなに弱いのに」
な、な、なにを?
まさか俺が勇者じゃないと見抜いてる?!
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