第9話 妹(聖)はエリちゃん。妹(魔)はエリさん
エリちゃん可愛い。エリさんも可愛いところがある。
-双子の兄アム(勇者アム)視点-
やっとエリが目を覚ましてくれた。
もうお昼前だよ。
朝ごはんどころじゃなかったし、お昼はしっかり食べないと。
でも、俺はあんまり料理は得意じゃないんだよな。
「アニキ…アムお兄様は何が食べたい?」
いつの間にかお母さんのエプロンを身にまとったエリが俺に聞いてきた。
「エリって料理したことないだろ?大丈夫か?」
「大丈夫よ。知識ならあるから」
エリが料理しているところなんて見たことないのに?
もしかして『全知』の神様の影響で知識があるからか?
それなら、どんなものでも作れるかもしれないな。
うわさに聞くメリケン大陸の食べ物とかどうだろうか?
「『はんばーがー』ってのを食べたいんだけど」
「ハンバーガーね…えっと、あれは確か…が…で…」
あの様子は『全知』の膨大な知識を閲覧しているのかな?
「材料は…あるわね。じゃあアムお兄様はそこに座って待ってて」
「30分くらいかかるなら、調理中に引き寄せられると危ないから、俺もそばにいるよ」
「じゃあ、手伝ってちょうだい」
-女魔王ステラ(双子の妹エリ)視点-
追隣町の小料理屋のエイムがメリケン大陸出身で、ソイツの追体験をした時にハンバーガーを作ったことがあるのよ。
肉は細かく叩いて…香辛料はあるかしら?
さすが勇者の家ね。
いい香辛料がたくさんあるわ。
そもそもアタシは魔王になっても自炊していたのよ。
だって成り上がって魔王になったから、毒殺とか怖いじゃない。
「これを刻むのか?」
ざくざくざく
アニキ!手つきが危ないわよ!
ま、怪我をしてもいいわ。
聖女の治癒力で直してあげるから。
ざくざくザクッ
「痛っ!」
ふふっ、やったわね。
「もう、アムお兄様は不器用ね」
「すまん」
「でも大丈夫よ。わたしにまかせて!」
さあ、初めて聖女のスキルを使うわよ。
…
…
あれ?
スキルが頭に浮かんでこないわ。
(ステラお姉様、『癒しの手』です!)
そうなのね。
「『癒しの手』よ!」
しーん
「あら?」
「エリ?」
「『癒しの手』よ!」
しーん
どどどどどうして、聖女のスキルが使えないのよ。
もしかして、アタシだから?
意識がこの子の時だけしか使えないとか?
たぶんそうだわ。
「エリ、無理しなくていいんだぞ。たいした怪我じゃないんだから」
「それならこうするわ!」
ちゅぽん
アニキの指を咥えるわ。
「いっ?!」
ふふっ、アニキったら面食らっているわね。
これも追体験のうちにあった『舐めて消毒』ってヤツよ。
好きな人にされると嬉しいけど、そうじゃないと嫌だったり恥ずかしかったりするのよ。
「も、もう血は止まったと思うから」
ちゅぱちゅぱ
「も、もういいから!」
ふふふ、嫌がっているわね。
嫌が…え?うそ…
どうして意識が…
-双子の妹エリ(女魔王ステラ)視点-
えーっ?!
どうしてわたしの意識が出ちゃうの?
ステラお姉様の番じゃないの?
なでなでされてないよね?
それに、今、アムお兄様の指を舐めてて…
ちゅぱちゅぱ
んー美味なの。
「エリ、もういいから」
「もーひょっと(もーちょっと)」
「いいから!」
しゅぽん
無理やり抜かれちゃった。
「いてて」
ほら、まだ血が出てる。
わたしはアムお兄様の手を取って、スキルを使うの!
「『癒しの手』!」
ほら、見る見る怪我が治っていくでしょ!
「おお!」
アムお兄様もびっくりしてるわ。
「はい、これでいいよ」
「ありがとう。何だ、ちゃんと聖女のスキル使えるじゃないか」
「えへへ。さっきはちょっと緊張していたんだ」
-双子の兄アム(勇者アム)視点-
エリに指を舐められて、なんだかすごいドキドキした。
この大人っぽいエリって、何だかちょっと艶めかしくって。
でも、気が付いたら幼児退行していたエリになってた。
どういうこと?
それで、エリは聖女のスキルで怪我を治してくれた。
「ありがとう。何だ、ちゃんと聖女のスキル使えるじゃないか」
「えへへ。さっきはちょっと緊張していたんだ」
色んなことが有り過ぎて、頭の整理がつかないや。
お父さんたちが帰ってきたら報告しよう。
…指を舐められたのとか、言いにくいな。
「じゃあ、料理がんばるね!」
「ああ」
俺は邪魔になるから、見ているだけにしよう。
ざくざくざくざく
ん?
音が変だな。さっきと違うような。
ざくざくざくグキッ!
「いたいのーっ!」
包丁を滑らせて、平の部分で指先を潰したみたいだ。
赤くなってるけど、血が出なくて良かったな。
でも、どうして急に下手になるんだよ!
幼児退行したエリになったせい?
「エリ、大丈夫か?」
「んーと、ちぇーんじ!」
「えっ?何?」
-双子の妹エリ(女魔王ステラ)視点-
だめだめだめだめ。
わたし、包丁なんて使ったことないもん!
へるぷみー!
助けて、ステラお姉様!
「んーと、ちぇーんじ!」
「えっ?何?」
ステラお姉様に代わらないと!
キスじゃなくて、ナデナデでもなくて、どうしたら代われるの?!
何か分かりやすいヒントをくださいっ!
(え?なにこれ?)
この声、ステラお姉様?
(カードが出てきたわ)
カードって何?
(カードに『ハグ』って書いてあるのよ)
ん?
もしかして、入れ替わるヒント?
「アムお兄様!」
「ん?なんだ?」
「えいっ!」
わたしは思いっきり抱きついた。
「どうしたんだ、急に?」
「あれ?違う?」
(もしかしてアニキの方からじゃないか?)
そうね!
「アムお兄様、ちょっとぎゅっとして」
「え?」
「早く!」
「う、うん」
ぎゅっ
ああ、アムお兄様って暖かい…
-女魔王ステラ(双子の妹エリ)視点-
入れ替わったわ!
(またカードあるよ)
何て書いてあるの?
(『足を踏まれる』)
な、何それ?!
「もういいかな?」
あっ?
ハグしてもらっていたんだわ。
「ええ、十分よ」
「え?その口調は?」
「じゃあ、ちゃっちゃと作るわ」
「え?え?えっと、エリさんのほう?」
「何よ、その『エリさん』って?」
「いや、何だかさっきから幼いエリと、大人っぽいエリが交代している気がしてさ。だから、子どもっぽい方をエリちゃんって呼んで」
「今のアタシをエリさんって呼ぶことにしたのね」
いい考えね。これからアタシもこの子のこと、エリちゃんって呼ぶわ。
「ごめん、同じエリなのに」
「ううん、いいのよ。それでいいわ。とにかく、今のアタシに任せて」
トントントントン
ジュージュージュージュー
アタシに任せてくれれば、盛り付けだってお手の物よ!
-双子の兄アム(勇者アム)視点-
エリさんってすごく手際いいな。
もう二重人格としか思えないよ。
さっきお父さんたちが言っていた『最高神の二面性』ってこのことだったのかも。
エリにすごい守護神が付こうとしていて、そのせいで記憶が混乱したり、性格に二面性が出たりするんだ。
うん、きっとそうだ。
でも、どうやって切り替わるんだろ?
「お待たせ!」
熟練のウェイトレスの様な動作で給仕してくれるエリさん。
うん、やっぱりエリちゃんとは全然違う。
動作だけじゃなくて表情や雰囲気も。
「さあ、食べて」
「うん」
ぱく
う
う
「うまっ!すごい!」
「ふうん」
あれ?嬉しそうじゃないな。
「すごいよ!こんなおいしいの食べたことない!」
「そう。良かったわね」
そうそう、儀式の時からずっとこんなエリさんだった。
エリさんって、何かそっけないんだよな。
「じゃあ、おかわり作るわね(にやり)」
「ありがとう」
ん?
いまの表情は?
ああいう表情をした後は、必ず何か仕掛けてくるんだよな。
-女魔王ステラ(双子の妹エリ)視点-
そりゃ作ったものを美味しいって言ってもらえるのは嬉しいわよ。
でも、コイツを喜ばせるなんて嫌よ!
よーし、それならマスタードたっぷりのハンバーガーをあげるわ!
「じゃあ、おかわり作るわね(にやり)」
「ありがとう」
ふふっ、待ってなさいよ。
ハンバーグの上に、マスタード、マスタード、マスタード、ついでにマスタード。
「はい、どうぞ」
「ありがとう!」
ぱくっ!
「うっ!」
やった!
「うう、うまいっ!」
ええっ?!
-双子の兄アム(勇者アム)視点-
後ろからマスタードたくさん入れているのが丸見えなんだけどなあ。
エリさんはこうやって、俺をおちょくるのが楽しいみたいなんだよな。
でも、それはそれでいいコミュニケーションなんだけど。
「はい、アニキ」
「ありがとう!」
これってマスタードいっぱいなんだよな…。
どうしよう?
えーい!こうなったら!
ぱくっ!
「うっ!」
ニヤニヤして俺の顔を覗き込むエリさん。
でも、そうはいかないぞ!
「うう、うまいっ!」
耐えろ!耐えるんだ俺!
このくらいの辛さ、何とかなるから!
-女魔王ステラ(双子の妹エリ)視点-
うそよ!
そんなの辛いはずに決まっているわ!
ほら、汗だってすごいし。
そうか、やせ我慢ね。
「ねえ、アニキ。マスタード足りなかったかしら?」
「!」
「もっと、かけてあげるわね」
「こ、これ以上はやめてくれっ!」
「最初から辛いって言えばいいのよ」
「ごめんなさい、降参です」
「よろしい」
ああ、胸がスッとしたわ!
(えっと、アムお兄様はマスタードが苦手と)
あら?アタシの中でエリちゃんが何か言ってるわ。
(アムお兄様の苦手を克服するために、あとでちゃんと『復習』しないとねっ)
あらあら。
次にエリちゃんが出てきたときに、アニキはマスタード攻撃をくらうことになりそうね。
ふふっ、ご愁傷様。
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