プロローグ 残虐非道の女魔王にいきなりプロポーズする勇者
新連載です!
勇者を越える超勇者になりたい主人公と、それを邪魔する妹の物語です。
よろしくお願いいたします!
-女魔王視点-
アタシは勇者と対峙していた。
その回りには、すでに死んだアタシの配下たちと、同じく死んだ勇者の仲間たち。
「お互い役に立たない部下を持つと苦労するわね。あなたもそう思うでしょう?」
アタシは自分のために命を懸けて死んだ部下をさらに言葉で鞭打つ。
「私の仲間たちは役立たずではない。それはあなたの部下も同じでした。今、ここで立っているのは私たちだけなのだから」
そんな勇者の言葉にも不快感しか感じないわ。
「偽善者ね。勇者って人種は魔王と変わらないのよ。なんでも自分の思い通りにしようとするものなのよ」
誰にでも心の闇はあるわ。
この真面目な勇者を言葉で揺さぶって、本性を暴き出してやるわよ。
「今はアタシたちだけよ。もっと言いたいこと言ってみたらどうなのよ?」
「…そうだな。もう俺たち以外誰も居ない。そろそろ好きにさせてもらおうか」
アタシはあっさり勇者の口調が変わったのに驚く。
「ふうん、それがあなたの本性な訳ね」
「そうだ」
「それで、これからどうするの?このまま戦ってアタシを八つ裂きにしたいの?それとも、アタシに従ってこの世界を手中に納めるの?それとも、」
アタシは長い舌で唇をエロチックに舐め回し、
「このアタシを自分のものにしたいのかしら?」
誘惑するように問いかけてみる。
さあ、なんと答える?
アタシは勇者の言葉を期待して待った。
「全部だ」
「………え?ええっ?」
思わず魔王らしからぬ声をあげてしまうアタシ。
何?
アタシを八つ裂きにして、一緒に世界を支配して、アタシを自分のものにしたい?
意味がわからないわ。
「全部だが順番が違う。この崩壊寸前の世界をお前と一緒に救う。その過程で国を建て直すから、一時的に世界を支配することになるだろう。そして世界が平和になったら、お前を衆人の前で処刑する」
アタシと一緒に世界を救う?
そんな事アタシがするわけないわ!
それに世界を平和にしてから処刑されるって冗談じゃないわ!
殺すならさっさと殺しなさいよ!
「それより先にしないといけないことがある」
勇者はアタシの前に片ひざをつく。
「はっ?やっぱりアタシに従う気なのね?」
勇者は異次元箱からなにやら小さな箱を取り出し、それを開いた。
殺気もなにもなく、あまりにスムーズな動きに、ついその行動を許してしまったわ。
「俺と結婚してくれ」
「はああっ?!」
その箱の中には輝く指輪が入っているわ。
えええええええええええっ!!!!
待って、ワケわかんない。
アタシ、コイツの仲間どころか、部下に命じて両親と最愛の妹も殺させたのよ。
陰謀であいつの国の王族を殺させたこともあったわ。
そこの王女とコイツが恋仲って話があったから、心を折ろうとして殺したのよ。
それなのにコイツがアタシを好きになる要素とかあるわけないわ。
アタシ、自分で言うのもなんだけど、絶世の美女よ。
求婚相手には事欠かなかったわ。
でも、殺すことが快感なのよ。
気に食わないなら部下すら殺したわ。
気に入った部下でも八つ当たりで殺したこともあったわね。
いつの間にか魔王になって、アタシの本性を知って求婚も無くなったわ。
結婚なんて元々する気はないし、それより人が苦しむ様子を見る方が楽しいわ。
全てはアタシが強いから許されたのよ。
魔王の一族でもないアタシがこの国を奪えたのは全てこの圧倒的な力のお陰よ!
「はん、何?こんなアタシの何処に惚れたワケ?」
「外見だ」
「はあっ?!」
ま、まあ確かにそうなるわよね。
アタシ、残虐非道な魔王ですもの。
「その長いまつげと大きな瞳。魅惑的な唇。大きくて形の良い胸」
勇者が大きくて形の良い胸とか言わないでっ!
「引き締まったウエスト。その大きくて丸い尻。まさに最高の女性像だ」
「はいはいはい。気持ち悪いからその辺にして。何よ、外見さえ良ければ何でもいいってことね。じゃあ、アタシより美人が現れたらどうするのよ」
「お前が世界一の美女じゃないのか?」
「そうよ!だけどもしもの話よ!」
そんなこともわからないのかしら?
脳筋の勇者ね。
「俺はあの日に誓った。世界一の美女が悪事を働いたらそれを倒して更正させて、妻にしてみせると!」
ん?
どこかで聞いた話ね。
…
…
ああっ!
「あの時の馬鹿な男の子!」
そう、アタシとコイツは昔出会っていた。
アタシが魔王になるという修羅の道に進む直前に。
アタシが12才の時。
まだ下級魔族の両親と暮らしていた頃。
アタシたち下級魔族の棲み家は人間の国の近くにあり、それは人間と小競り合いをするのが仕事だったせいだ。
その小競り合いで人間も魔族も容易く死んでいた。
そしてアタシは人間に捕まえられた。
自分の実力を見誤っていたために。
「子どもなのにすごく綺麗な魔族だな。これは高く売れるぞ」
「へへっ、味見してもいいっすかね?」
「商品に傷をつけるな。無傷だからいいんだよ」
「ちぇっ。どうせ同じ目に遭うのにさ」
そんな恐ろしい声が聞こえていた。
アタシはなぶりものにされる。
そんなのは絶対嫌だ。
10歳の時に『魔告の儀式』で私は『汝、魔王なり』と告げられて調子に乗っていたけど、『封魔の呪印』で一切の力が封じられているからなんの抵抗も出来ない。
死ぬこともできなくされている。
もうあきらめるしかないのね。
その時、アタシの捕まっていた牢屋の扉の前で、同い年くらいの男の子がこっちを覗きこんでいた。
これはチャンスだわ。
「お願い!助けて!何でもするから!」
どんなことをしてでも、とにかく逃げたかった。
そして、ソイツは鍵を持ってきてくれた。
裏口からソイツと一緒に抜け出し、どうにか魔族との国境線までたどり着いた。
この辺は山奥で、国境の関所も壁も無いところ。
だから、魔族も人間も自由に出入りできるところだった。
「ふう、助かった」
「そう、良かった。じゃあ、これを使うね」
ソイツは何かの魔道具を取り出すと、それを使ってアタシに掛けられた『封魔の呪印』を解いてくれたわ。
「助かったわ。これでやっと力が使える」
「よかった。じゃあ気をつけて帰ってね」
「せっかくだから、アンタを手土産に帰るわ」
「ごめん、もう行かなきゃ」
「逆らえると思っているの?!」
アタシは右手に闇の炎を呼び出す。
触れれば骨まで焼き尽くすほどの炎を。
「危ないよ」
しゅんっ
「え?」
ソイツの剣のひと振りで闇の炎はかき消された。
どういうこと?!
コイツ、実はとんでもなく強いの?
「お父さんが逃がしてこいって言ったから逃がすけど、悪さをしたらだめだよ」
それなら魅了魔法よ!
「さあ、アタシの言うことを聞きなさい。こっちへ来るのよ」
「もう夕食だから帰るね」
「ちょっと!この魅了魔法はそう簡単に防げないのよ!いったいどうやって防いだの?」
「え?うーん、多分、最初から君の美しさに魅了されていたからじゃないかな?」
何それ?
そんな理由で魅了されないとか無いわよ。
コイツ馬鹿なの?
「それにアタシをこのまま逃がしていいのかしら?アタシは魔族よ。ここまで逃がしてくれたアンタだって躊躇なく殺そうとしているのよ」
「うん。でも、僕は殺されないから」
すごい自信ね。
「もしそうだとしても、アタシはこれからすごく多くの人間を殺すわ。今のうちに殺しておいた方がいいわよ」
ここで殺される気なんて無いけどね。
「君がそんなことをするようになったら僕が倒しに行くから。だから」
「だから?」
「だから君の名前を教えて」
「いやよ。そうね、世界一の美女とでも名乗っておくわ」
「わかった。じゃあ、世界一の美女が悪さをしているって聞いたら止めに行く」
正気かしら?
「じゃあ、今は見逃してあげるわ。その時に殺してあげるから」
「うん。僕もその時に会ったら君を倒して、更正させてお嫁さんにするから」
お嫁さんっ?
「な、何言うのよ!」
「だって君は本当に綺麗だから、今の僕なんかじゃ釣り合わないし。その時までにもっと強く、君にふさわしい男なるから!」
「その時アタシはきっと残酷非道な魔王になっているわよ」
「僕がきちんと更正させてみせるから!」
馬鹿な子。
本当に馬鹿だわ。
あっ、向こうからアタシの仲間が来る気配がするわね。
このままだとコイツは殺されるか喰われるか、最低でも捕まるわね。
「早く消えて。アタシの仲間が来たわ」
「えっ?」
「アタシにはわかるのよ。逃がしてくれた礼よ。これで貸し借り無しよ!」
「ありがとう、君って本当は優しいんだね」
「うるさい!そんなのはこれで最後だ!もう誰にも優しくなんてしないからな!」
「ありがとう。さようなら。必ず会いに行くから!」
「来なくていいからな!来たら殺すぞ!」
…
そんなことがあったわね。
「まさかあの時の男の子が本当にアタシの所に来るなんてね」
「約束は守る。そして、必ずお前を妻にする」
「アタシも約束通り殺してあげるわ。さあ、アタシに勝って見事奪ってみなさいよ!」
アタシは散った部下たちに次々と手刀を突き刺すと、その力を吸収していく。
「そのままでアタシに勝てると思うの?お仲間の力を借りたほうがいいわよ」
ざくっ!ぶしゃっ!
アタシは最後の一人、アタシの忠実な四天王のトップである実の妹の心臓をえぐりだし、かぶりついた。
実の妹でも躊躇なんてないわ。
ふふ?少しはこんなアタシを恐ろしいと感じたかしら?
「そうだな」
勇者は聖剣を捨てて、異空間から漆黒の剣を取り出した。
あれは…。
「昇魂烈破剣よ!この者たちの力を俺に!」
漆黒の剣から分身した黒い剣が、勇者の仲間たちの心臓を貫いて、魂の力を勇者に注いでいく。
コイツ、本気なの?!
「魂の力を根こそぎ奪ったら、もう高位の蘇生でも復活できないわよ!」
「心配は要らない。あの世に行けば、また来世に生まれ変われる」
「勇者が仲間を粗末にしていいワケ?」
「この世の平穏のためなら本望だろう。それにお前を手に入れるためなら俺は何だってする」
ダメだ。
コイツ、普通の勇者の思考じゃない。
アタシしか見えていないのね。
うふふ。
何?
コイツの狂気を見て、アタシは喜んでいる?
そんな事ないわ。
気に入らない。
アタシを一瞬でも迷わせたアンタは気に入らない!
「絶対殺してやる!」
「絶対に結婚してやる」
噛み合わない台詞とともに、アタシたちはぶつかり合った。
長い戦いの果てに、地面に這いつくばっていたのはアタシだった。
「アタシの負けよ。でも、アンタの思い通りになんてならない!最期にこの命を使って自爆…ってなにするのよっ!」
血と泥で汚れたアタシの顔を拭く勇者。
「やっぱり綺麗だ。俺はお前が本当に大好きだ」
「あ、アタシは大嫌いだからな!」
「そんな事は関係ない」
そう言って勇者はアタシの左手薬指に指輪を嵌める。
そして自身の左手薬指にも指輪を嵌めた。
キィン
コイツとアタシが繋がったのがわかる。
これは魂同士を結ぶ、『結魂の指輪』?!
「これでお前は未来永劫俺と離れられない。死んで転生したとしてもな」
くっ!
でもこのくらいの魔道具。
簡単に壊せ…ない?
「壊すことも出来ないし、俺に反抗もできない。勝手な行動も一切できない」
「まさか隷属の指輪でもあるのっ?!」
「結魂の指輪と隷属の指輪、その他束縛及び支配系のアイテムを駆使して作った特別製だ」
最悪!最悪だわ!
こんな狂った勇者の妻にされるなんて!
「さて、結婚して最初にすることは決まっているな」
「はい?」
いきなり何よ?
思わず間抜けな声を出してしまったわ。
「初夜だ」
「は?」
「よし、寝るぞ」
そう言ってアタシに覆い被さってくる勇者。
「いやああああああああっ!」
その時、アタシは生まれて初めて、女らしい情けない声をあげた。
チュンチュン
魔王城の広間。
アタシの隣には勇者が寝ている。
辺りには他に何もない。
そもそも敵味方の死体の中で初夜とか、絶対に普通じゃないわ。
だから、アタシはコイツが寝付いてから、死体を片付けたのよ。
この指輪で能力は制限されなかった。
ただ、コイツを害することも逃げることも、死ぬこともできないみたいね。
だいたい『初夜』って、一緒に寝るだけじゃないわよっ!
この勇者、実は不能なんじゃないの?
そう思って勇者を見ると、朝のせいかその股間にはあの昇魂烈破剣よりも凶悪そうなモノが、布越しにもわかるくらいに屹立していた。
あれをもし使われていたら、アタシって無事ですんだかしら?
死因が勇者のアレとか、魔王として最悪の死に方だわ。
とりあえず初夜の勘違いの件は触れないでおくべきね。
「ん…ああ。おはよう」
目を覚まして呑気に言う勇者。
「これからアタシをどうするつもりなのよ?!」
「予定は決まっている。まず魔王を支配下に置いたと言って連れ帰り、世界中を周り、謝罪と平和貢献をして回る」
「なにそれ最悪。絶対に謝らないし、平和貢献なんて下らないことしないわよ」
「慣れないことだろうが心配は要らない。その指輪の効果で強制的に体が動く」
なにそれ生き地獄だわ。
「世界の平和を見届けてから、お前を処刑する。それが死んだ人々への償いとなる」
「はっ!結局は殺すのね!そうよね、何をしても許されるはずないもの!」
「死んだら一緒に、お前が今までに殺した相手に転生する」
え?
待って、なにそれ?
転生?
一緒に?
誰と?
「結魂の指輪の効果で、お前を処刑すると俺も死ぬ。」
え?アタシと一緒に死ぬ気なの?
なんで?
「お前は最高の美しさを持つ女性だ。しかし、どうしようもないくらいに性格も魂も汚れている」
言いたい放題言うわね!
「だからお前が今までに殺してきた全ての相手に転生し、同じ苦しみや悲しみを味わってもらう。それはあの時にお前を逃がした俺も一緒にするべきだ」
「ま、まさか…」
アタシが指輪を見ると、そこには『35265570』という数字が刻まれている。
「それがお前が殺した者の数だ。その一人一人の人生を追体験し、お前の心と魂を浄化する」
つまり、アタシが殺した人間になって、最期はアタシ自身に殺されると。
それを3000万回以上も繰り返せって言うの?!
なんてエグいことを考える奴なの!
「その数字がゼロになる頃には、その唯一無二の美しさにふさわしい清らかな心と魂になっているだろう。そうしたら、最後はお前自身に転生する。その時、俺も俺自身に転生する」
「それで、一からやり直すつもり?それでこの世界を救うの?」
「いや、過去を変えてはいけない。この世界とそっくり同じ平行世界、異世界でほぼ同じ人生が再び始まる。そして、そこで救われるのは」
アタシに指を向ける。
「お前だ」
…
…
はっ?!
何このキザったらしい台詞。
一瞬意識が飛んだわ。
「アタシを本当に救いたいなら、さっさとアンタから解放しなさいよ!」
「その指輪は1人に転生してその人生の追体験を終えるとカウントが1減る」
「え?」
「それがゼロになったら、指輪は消える。そのあとは何にも束縛されることもない」
なにそれ?
アタシをずっと捕まえておきたいんじゃないの?
「その世界で人生をやり直して外見も内面も最高になったお前に俺はふさわしい男になって、改めて求婚する」
「ふ、ふん。やってみなさいよ。その時はアンタなんかよりずっとイイ男たちが周りに居るんだから」
「俺は絶対に誰にも負けない」
どこから来るのよ、その自信は。
確かになんとなく中性的でイイ男だけど、そんなのちょっとだけじゃないの!
こんな狂った変態なんか、絶対に好きになるもんですか!
「さて、まず最初の命令だ」
ガシッとアタシの両肩を掴み、顔を近づけてくる勇者。
「な、何だよ。アタシに目をつぶらせてキスでもしようって気?」
「お前の…」
じっと見つめてくる勇者。
何?
ちょっとだけ胸の鼓動が…
「お前の名前を教えろ」
はあっ?!
そう言えば、アタシは女魔王って呼ばれているだけで、誰にも本名を名乗ってないわ!
アタシの本名を知るような奴は魔王になった頃には妹以外は誰も生きてなかったし、知らないのも当然ね。
でも、初夜とかの前に相手の名前くらい聞きなさいよ!
子供の時に名前を聞けなかったなら、なおさら聞くはずじゃないの?!
「先に名乗るべきだな。俺の名前はアムール・フェニックス」
「知ってるわよ!家族の名前も全部ねっ」
勇者の身辺調査とか魔王として絶対にやることだわ!
双子の妹がエリーナとか、両親が実は兄妹とかまで知ってるわよ!
「絶対に教えないわ!」
「わかった」
「さっさと『教えろ』って命令すればいいじゃないのよ。あれ?さっき命令したわよね?もしかして、指輪壊れてるの?」
すると勇者アムールはアタシの目の前に右手のひらを出す。
「『お手』」
パシッ!
え?
「『お回り』」
くるくるくる
え?え?え?
「『伏せ!』」
ぺたん
「な、何させるのよっ!アタシは犬かっ!」
「命令は強制させる事もできるが、しないこともできる」
立ち上がり後ろを向くアムール。
「あの時と同じだ。俺はお前が教える気にならないなら、無理には聞かない」
な、何よ。
そんなこと言ってもアンタになびいたりしないんだから。
はっ?
何だかアタシの思考が乙女っぽくなってない?
アタシは残虐非道の魔王よ!
負けてもそのプライドは捨てないわ!
絶対コイツに名前なんか教えないんだから!
「名前がわかるまではお前を『ポチ』と呼ぶからな」
「ステラ・ルシフェリアよっ!だからポチはやめてっ!」
こうして、アタシと変態勇者アムールの十億年を超える旅が始まった。
お読みいただきありがとうございました。
始めの数話は連続更新します。




