九月一日
今月もまた繰り返す。
今日は九月三十日。今日僕は死ぬ。
僕は学校から帰る途中に通り魔事件の被害者に会い死ぬ。違う道を通れば交通事故。
また違う道なら暴行事件。
等、自分の思いつく限りの行動を試しても、必ずこの日に死ぬことがわかった。
一度僕は学校にも行かず、家で、自分の布団でゴロゴロと過ごしていたことがあった。
飯は食べた。トイレにも行った。飲み物も飲んだ。
しかし僕は心臓発作で死んだ。
もう死なないルートなどは無いだろうと思いながら僕はこのマンションの屋上から飛び降りた。
「ハハッ。空がきれいだ」
僕は目を覚ます。見慣れた天井、嗅ぎなれた家の匂い、聞き慣れた時計の8時を指すアラームの音、8月の終わりは窓を開けていたからか風の通る音。どれもが何度も体験したことと同じだった。
僕は目を覚ますと少々肌寒く感じたため、すぐに窓へ向かい、二重の窓を閉じる。
僕は布団をたたみ、机を出し、キッチンへと向かう。
今日のご飯は納豆ご飯。
僕の誕生日の次の日だから、逆に何も持っていない。食べるものもほぼないし金もない。だから僕は納豆ご飯を食べている。はずだ。
しかし僕は九月三十日までは絶対に死なないことを知っている。だから最悪そこらの草でも食べていよう。
九月三日に給料が12万と3450円入る。そして親からの仕送りが二十一日。3万円だ。
毎月15万3450円で過ごしている高校生なんて他にはいないだろう。と考えながら僕はいつの間にか納豆ご飯を食べ終わっていた。
何度も繰り返した動作すぎて完全に癖となってしまっていた。
学校に向かう準備をする。
8時45分。僕は家の鍵を開け表へと出る。
誰もいない家、誰かいた気がする家へ「行ってきます」と声をかけ、いつも通り学校へ向かう。
僕はこの日からいじめられる。
誰かの仕向けた、「下着泥棒事件」の加害者にされるのだ。
それのせいでクラスカーストは最悪になる。
これは、体育のタイミング、下着を変える女子が数名いるため、その際に僕の机に突っ込む、というものだからとても悪質だ。
僕は1,2時限目の国語の授業を軽く受け流しつつ聞き、3,4時限目の体育へと突入する。
僕は「たまたま」お腹を痛くして、授業を途中で抜け出した。
ジャージのポケットにピンポン玉と、スマホを入れた状態で出たため、スマホが入っているとは先生にはバレない。
だから僕は教室へと向かい、カメラを起動したスマホを掲げた。
そこにはまだ誰もいなかった。
机を確認するも何も入っていない。
僕は机の上にあるカバンに、周りからは見えづらいようにスマホをおいた。
それはムービーで撮ってある。
僕は体育館へと向かった。
体育が終わり、着替えが終わり、教室へと向かっていると女子の叫び声がした。
今回は僕は途中で抜けていたため、後片付けをされていたから、遅れてしまったんだ。
教室のドアを開けると僕に向けられる数々の視線。これがまぁいつもいつも痛い。
僕の机の中からいくつもの下着が見え隠れしている。
僕は「ハァ」と溜め息を付き明らかな棒読みで「やってませーん」と声を上げる。
僕は一人の女子にビンタされ、女子はドアを開けて教室を出る。
男子一人に胸ぐらを捕まれ壁に押し付けられ殴られる。
見慣れた光景、慣れた痛みがいつも可笑しすぎて少し微笑んでしまう。「何笑ってるんだよ」と言われるが僕はいつもこういう。「君たちが滑稽すぎて……かな」そう言うといつも他の男子も混ざり殴られる。
僕はその日早退をした。
流石にいつもより煽りすぎて、殴られすぎた。
身体中が痛い。
何故かは知らないが、繰り返しているうちにどんな怪我でも一度寝れば治ることがわかったので気にはしないがまぁ痛い。
僕は家に着き、私服へと着替え、畳んだ布団の上にあぐらをかいて座る。
そしてスマホのロックを解除して、録画していた動画を見た。
時間は、4時間目の中盤くらい。
僕の机の前に立つ男が現れた。
そして下着を僕の机に入れる際に顔が見えた。
それは、僕にとても似ていた。というか正直自分だと勘違いしてしまうほどに。
考察を回すほどその時の頭は働いていなかった。なので僕はとりあえず寝た。
一生ここで繰り返すことになるのだから。