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004.ダンデライオン

作者: 砂糖菓子

004.ダンデライオン


あの子が来るのをぼくは待っている。ぼくらが花ひらいて、花が閉じて、またひらいて、閉じて――人間の言葉ではそれを「いちにち」とか「あした」とか「あさって」とか、なんだかいろいろな言い方をするみたい――その間に、あの子はぼくに会いに来る。

あの子はおおきい人につれられていたり、おおきい人にはさまれていたりする。一人でやってくることはない。たくさんのちいさい人たちがわーわー歓声を上げているところにしばらくいて、それからぼくのほうへやってくる。


人間はぼくらきょうだいに手を伸ばして、ひっぱって、きょうだいを別のところに連れて行く。たいていはそのまま、さよならだ。二度ときょうだいたちに会うことはない。だけどもたまに、白いふわふわがぼくに話しかけてくることがある。

どうやら黄色い花を咲かせ終わったきょうだいたちは、白いふわふわになるようだ。ちいさい人間がその白いふわふわを宙に浮かべているところを見たことがある。白いふわふわは風に乗って、やがてどこか遠くへ行く。

たまたまぼくの近くに落ちた白いふわふわのきょうだい――きょうだいだった、白いふわふわ?――は、ここが好きで離れたくないのだと言った。


あの子はぼくをひっぱったりしない。おおきな瞳でぼくを見つめて、にこーっと笑って、それだけだ。どうしてあの子がぼくをひっぱらないのか、ぼくにはそれはわからない。でもぼくはひっぱられたくないから、それでかまわなかった。


ぼくたちはおひさまがのぼったら黄色い花をひらく。そしておひさまがいなくなったら花を閉じる。それをなんかいもなんかいもくり返す。まわりにはきょうだいがいる。ときどきは風とも話す。

同じまいにちをくり返して、時が来れば黄色い花から白いふわふわに変身する。そしてさらに時が来れば、風に乗ってどこか遠くに飛んでいく。そのさきは――よくわからない。きょうだいたちに聞いても、だれも知らなかった。


なんかいもおひさまがのぼって、いなくなった。ぼくは黄色い花を開いて、閉じて、それをくり返した。あの子はやってこなかった。ぼくの前をとおるのは知らない子ばっかりだった。

そのうちぼくも白いふわふわになってしまった。変わるところを、あの子に見せてあげたかったのに。ふわふわになる日は決められていて、ぼくがなんとかできるものじゃなかった。黄色い花のままでいられるようにちょっとはがんばったけれど、どうにもならなかった。

知らない子がやってきた。ぼくに手を伸ばす。

やめて。

ぼくはちからのかぎり叫んだけれど、その子には当然ぼくのこえなんか聞こえやしない。

ぶちっと音がして、ぼくはひっぱられた。その子が白いふわふわになったぼくを宙に浮かべる。ぼくは風に乗って飛んでいった。


風のうえから見る世界は、いままでのものとぜんぜんちがった。ふわふわと風をただようのは、とてもきもちがいい。きょうだいたちといたときよりも、もっとずっとたくさんのものが見える。

あっ、あの子だ。おねがい、おろして。

思わずそうさけぶと、ぼくのきもちが伝わったのかどうかはわからないけど、風がやんだ。

あの子はいつものようにおおきな人間につれられていた。呼んでもぼくのこえは届かないから、うまくからだをちょうせいして、おおきい人間の肩のところにくっつくようにした。あの子のからだはちいさすぎて、ちゃんとのれる自信がなかったから。

おおきい人間とあの子はぶらぶらとしばらく歩いて、そのうち家に入ろうとした。たぶんここがあの子のおうちなんだ。

ぼくはえいやっとからだをゆらして、おおきい人間の肩からとびおりた。はじめてにしてはわりあいじょうずに、つちのうえに着地できた。

からだが土についたとたん、わかった。白いふわふわになったぼくはここで根っこを張る。そして次のはるが来たら、また黄色い花をひらくんだ。ここで花をひらけば、きっとずっとあの子と一緒にいられる。たまにはあの子もここに来て、ぼくのことを見つめてくれるだろう。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  蒲公英が擬人法によって、感情豊かで生き生きとした様子が伝わってきました。  "おおきな瞳で僕を見つめて、にこーっと笑って"私はこの1文がとても好きです。読んだ瞬間に、太陽に照らされた蒲公…
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