夜会に参加する
時系列が1話目に戻ります。
――なーんて思っていた時期もありました。
私はその後もあきらめずに何度かナディルに迫ったが、痛いしっぺ返しをもらって終わった。
一度であきらめず何度も迫ったのはやはり逃すには惜しい物件だったからである。性格は最悪だけど。
しかし手ごたえはまるでない。返済期日も迫っている。一か八かにかけられる時間もないため、渋々あきらめた。
あと、何度か迫ってしっぺ返しをいくつも受ける中、これは結婚したら精神的に蛇のように締め付けられじわじわ絞殺されるのではないかと恐怖を感じたのも、あきらめた理由の一つではある。結婚したら地獄見る。
ちなみに迫りはしたが、痴女ではない。決して。
それから妹とはそれなりに仲良くしているが、彼本人とはあまり関りがないはずだった。
なぜ呼ばれた? と疑問に思うも、夜会は貴重な出会いの場。
参加表明を出し、今日はドルマン公爵家での夜会当日である。
「ブリアナ様ですね。どうぞこちらへ」
あれ? いつもの夜会ではそのまま会場へ連れていかれるだけなのに。
不思議に思いながらも、騒いで目立つのもいやなので、案内についていく。夜会会場から少し離れた一室の前に招待されると、案内してくれた人は去って行った。
自分で勝手に入れってことか? なぜ開けてくれない……。
不満に思いながら、恐る恐る扉を開ければ、そこには一人の男性が立っていた。
今回の夜会主催者の息子、ドルマン公爵嫡男、ナディル・ドルマンである。
彼は無表情でこちらを見たかと思うと、一瞬でその表情を不機嫌なものに変えた。
「扉はノックをしろ」
もっともであるが、勝手にここまで呼んでおいてその言い草。
むっとして口をつぐんだ私を彼は一瞥する。
そして言った。
「乳がでかすぎる」
これにはさすがの私も開口した。
「は、はあ!?」
「でかい乳をそんなに見えるようにするのは下品だ。おい」
ナディルが声をかけると、すっ、と使用人がショールを差し出した。
「これを肩から掛けろ。まったく、はしたない女だ」
「は、はしたなくないわよ!」
抗議しながらも、やや肌寒かったので素直にショールを羽織る。上質な生地で、きっと私は今後このような布を触る機会はないだろうと思い、何度か撫で摩った。
「よし、行くぞ」
「え、どこによ」
私が羽織るのを満足気に見ていた男が、勝手に歩き出したため、慌ててそれについていく。
「どこって……今日は夜会だろう」
「それは知ってるわよ!」
「夜会会場に行く」
「え?」
夜会会場にこのまま行く?
待って待ってそれって。
「夜会のパートナーってこと?」
「そうだ」
そうだって! そうだじゃないでしょう!
「困る! 私結婚相手探さなきゃいけないの!」
「勝手に探せばいい」
「パートナーとしてあなたが隣にいるのに? 無理だわ!」
「じゃああきらめるんだな」
さらりと彼は言う。こちらは毎回の夜会を文字通り決死の思いで挑んでいるというのに!
拒否の意を伝えるために立ち止まったら、右手を掴まれてずるずる引きずられていく。
「周りが身を固めろとうるさくなってきた。報酬はやるから大人しくしろ」
「無理! 無理! 代役だとしても身分が低すぎて釣り合い取れないからやめたほうがいいわよ!」
「残念ながら俺の親は身分を気にしない恋愛主義者だから、十分誤魔化せる」
「うそー!」
拒否を続けるも、あっけなく会場前に着いてしまった。
「前に俺を襲ってきた女とは思えないな」
「だってあのときは既成事実作ればなんとかなるかと思ったの!」
もちろん今はそんなことは思っていない。できれば距離を置きたいと思っている。自分の見ていない遠くで勝手にやってくれるぐらいの距離感がいい。
私の気持ちを知っているはずなのに、ナディルは口の端を上げた。
「よかったな、これで俺の相手だと思われるぞ」
「いやー!」
叫んで拒否しても、所詮男と女。勝負はあっけなくついた。
徐々に開いていく夜会の扉に、人々の熱気に反比例して私の血の気は引いた。
隣で美丈夫と言える男がにやりと笑った。