ブリアナ実家でのお泊りについて
「アナ姉ってこの間坊ちゃんと実家帰ったとき同室だったんだよね? 結婚しちゃってるのに聞くのもなんだけど、どうだった? ドキドキハプニングとか起こった?」
「ブッ」
口に含んでいた紅茶を盛大に噴出した私に、ベンがあーあと言いながらハンカチを差し出してきた。
「全然公爵家の嫁ができてないじゃん。はいこれ」
「ありがとう……って今のはあんたのせいでしょうが! 普段はちゃんとできてます!」
口元を拭ってベンに返す。自分で汚したので自分で洗いたいところだが、これも使用人の仕事。貧乏生活が長かったため、女主人としての振る舞いにまだまだ戸惑うところも多いが、時間が解決するだろう。
一言で言うと慣れるしかないのである。
「で、結局どうだったの?」
「しつこいわね!」
私からハンカチを受け取ったベンは、胸ポケットにそれをしまった。……結構紅茶で汚れちゃったのだけど、いいのかしら……
「だってー、あれからすぐに結婚決まったじゃん。そしたらあそこで何かあったんだなーと思うでしょ?」
「うっ……」
確かに実家から公爵家に戻ってすぐに結婚の準備を始めた。一応婚約期間も形式上設けたけど、成婚まで三か月という短さだった。
結婚の準備を始めた、と言っているが、それは私側の認識であって、ナディルはとっくのとうに準備に取り掛かっていた。そうでなければ三か月で結婚式など挙げられない。
「うぅ……何かあったというか……なんというか……」
「その言い方がすでに何かあったって言っているようなものだけど」
「うるさいわね!」
照れを隠して怒鳴るも、ベンは続きを聞きたそうに待っている。
ふん! どんなに待たれても話してやるもんか!
開き直ってソファーで踏ん反り返っていると、ふとベンが私の背後を見た。
……嫌な予感がする。
恐る恐る振り返ると、そこには予想通りナディルがいた。
い、いつからいたのだろうか……
ナディルは顎に手を当てて思案する仕草をする。
「ブリアナの実家に帰ったときの話か」
初めから聞いていらっしゃる!
私はナディルが何を口走るかと気が気でなく、冷や汗をかいた。
というか、初めからいたならもっと早く出てきなさいよ!
「そうだな……」
私とベンはごくりと生唾を飲み込んだ。
「プロポーズをした」
それが何か? と言いたげな表情のナディルに、思わず私とベンは顔を見合わせた。
「それだけ?」
「そうだが」
訊ねたベンに肯定の意を伝えるナディルに、ベンは不満げな表情をする。
「そ、そうなの! そこでプロポーズされたの!」
遅れてナディルに合わせるように言葉を紡いだ私を、ベンは胡散臭そうな目で見つめてきた。
そ、そんな目で見てもダメなんだから!
これ以上口を開かないと決意している私にあきらめたのか、ベンは「おかしいなあ」と言いながら部屋を出て行った。
私はほっと胸を撫で下ろし、後ろにいるナディルを振り返る。
「は、話合わせてくれてありがとう」
「いや……」
ナディルは微笑んで私の肩に手を置いた。
「お前のくまちゃんパンツは俺だけの秘密だからな」
……くまちゃん。
「ち、ちが、それもだけど、ちがーう!」
ブリアナ実家お泊り、書籍で加筆し、ラブシーンを増やしております。
二人に何があったのか気になる方は、書籍でお楽しみいただければ幸いです。




