少女と約束【ナディル視点】
『妃教育から逃げたい私2 〜没落寸前だけど結婚したい私〜』2020年3/27発売決定しました!
コミカライズ2020年3/25~開始です!
詳しくは活動報告をどうぞ!
真っ赤に腫れた頬を冷やす。
「ごめんねごめんね! つい!」
少女が泣きそうな顔をする。
「いや、大丈夫だ」
ちょっと痛いだけで。
「今日、久々にスカート履かなきゃよかった」
普段履かないからスカートなことをすっかり忘れていたと少女は言う。ということは普段はズボン派なんだなと覚えておいた。
「パンツは結婚相手にしか見せたらいけないってママが言ってたのに……」
じんわり、と少女の目に涙が浮かぶ。
「不可抗力なんだから仕方ないだろ」
「……うん」
少女は目尻に滲んだ涙を拭った。
「あー、楽しかった!」
にこりと笑って言う。もう夕方だ。俺が帰る時間だとわかったのだろう。
「あ、あの……」
妙に緊張して俯いた。
「なに?」
「……今日はありがとう。すっきりした」
小さな声ながらも、礼を述べると、少女は屈託のない笑みを浮かべた。
「どういたしまして!」
その顔があまりにも可愛らしくて、顔が赤らんでいくのがわかった。
「その……」
「ん?」
「お前、好きなやつとか、いるのか……?」
「好きなやつ……?」
少女は逡巡するも、何か思い浮かんだようでぱっと顔を上げた。
「王子様!」
「おうじさま……?」
「物語の王子様はかっこいいの! お金持ちで大きなお城に住んで、顔も綺麗で! やっぱ結婚するなら王子様よね!」
俺は上がった機嫌が急激に低下するのがわかった。
「王子様と結婚できるわけないだろう」
俺の言葉に少女はムッとして頬を膨らませた。
「できるもん! 迎えにきてくれるもん!」
「ありえないな。王子様が庶民を相手にするか」
「物語では下町育ちの子が結婚するもん!」
「無理だ!」
「ある!」
「無理!」
「ある!」
しばらく言い合いをし、お互い息切れしながら睨み合う。
睨み合いから先に視線を逸らしたのは俺だった。
「……俺が迎えに来てやる」
「え?」
勇気を出した声に少女は首を傾げた。
「王子様じゃないけど、それに近くなってやるからな」
待ってろ。
それだけ言うと、赤い顔をそのまま、御者が待つ馬車まで走って行った。真っ赤な顔の俺に御者は驚いた顔をしていたが、何も聞かず、家まで走って行ってくれた。
絶対、嫁にしてやる。
できた目標を胸に、家路についた。
◇◇◇
家に帰ると、俺の機嫌を直そうとした父の手によって作成された不備書類の山が用意されていた。
それに頭を悩ませている間に、少女がどこかへ引き取られたと知るのは、また少しあとである。




