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出会い【ナディル視点】



 さすが寂れた孤児院。柵もボロボロで簡単に裏から入れた。

 中に入ってから何をしているのかと冷静になるが、今馬車に戻るのも気が引ける。

 子供たちの声がしないほうへと進むと、中庭らしき場所に出た。そこに座り込んでため息を吐く。


「何をしているんだ俺は……」


 うっかり楽しそうな子供の声にひかれて来てしまった。

 正面から堂々と入るわけにもいかず、こうして潜り込んでいる。

 本当に何をしているんだ俺。

 はあ、ともう一つため息を吐く。


「ねえ」


 突然の声に驚いてビクリと体を震わせる。おそるおそる声のした方を振り返ると、自分より少し年下そうな子供がいた。髪は短く、一瞬少年かと思ったが、スカートを履いていたので少女だとわかった。


「あなた誰? どこから来たの?」

「……お前に関係ないだろ」

「私ここに住んでるから関係あるわ」

「…………」


 少女の言葉に答えず、地面を睨みつけた。放っておいてほしい。


「あなた、暗いのね」

「……は?」


 少女の言葉を不快に思い、再び顔を上げる。


「何か悩み事があるんでしょう」

「どうしてそう思う?」

「そんな綺麗な服を着た坊ちゃんが、こんな寂れた孤児院に入り込むんだから、そうとしか考えられないと思って。ただ迷っただけなら誰かに声かけてすぐ帰るだろうし」

「…………」


 何もかも見透かされていて黙り込んだ。肯定もしたくない。無言を貫いていると、子供が増えた。最悪だ。


「アナ、誰そいつ」

「んー、友達?」

「はあ!?」


 会ったばっかりで友達など冗談じゃない!

 声を荒げる俺に覆いかぶさるように近寄ってきた少女は、小声で話してくる。


「友達ってことにでもしておかないと、すぐにここから放り出されちゃうわよ?」

「…………」


 それは困る。少女は黙り込む俺の手を握ると強引に立たせた。


「お、おい!」

「なーにをうじうじしてるかわからないけど、じーっとしてるからいけないのよ! 体動かしたらそんなこと考えてる時間もないわ! ということであなた鬼ね!」

「は!?」

「逃げろー!」


 少女は、十数えてねー、と言いながら走り去っていく。


「おい!」


 抗議の声を上げるも誰も聞いてくれない。再び聞こえた、十数えてー、という声に渋々数を数えた。

 これは知っている。鬼ごっこというやつだ。誰かに触ればいいはずだ。

 追いかけた子供に近づいて、指先でツン、と触ると不思議そうな顔をされた。近くにいた少女が大声で笑う。


「鬼ごっこしたことないの? こうしてタッチするの!」


 そういうと、パン、と俺の背中を叩いた。


「そ、そんなに思い切り触るのか……」

「そうよ。ほら、タッチ!」


 俺たちのやり取りときょとんとしながら見ていた子供を少女に言われたように、タッチする。


「で、逃げる!」

「あ、ああ」


 言われて走り出す。クスクス少女が笑う。俺も楽しくなってきて笑った。ああ、久々に笑った気がする。

 いくつか遊びをして、少女が滑り台を教えてくれることになった。


「いい? ちゃんと見ててよー!」

「わかった」


 少女が滑り台の上から声を上げる。俺の言葉を聞いて大きく頷いた。


「じゃあ、いっきまーす!」


 元気よく声を出して少女は滑り台を滑る。こんなスイスイ滑るものなのかと感心していると、少女が近づいてきた。

 あれ、これ……。


「きゃー! どいてどいて!」


 案の定、滑り台の下にいた俺に少女がぶつかる。その勢いのまま倒れこんだ。下は砂場だが痛い。あと上に乗った少女が重い。


「おい、どいて……」


 くれ、と続く言葉はどこかに消えた。

 少女の、スカートが。捲れて。

 捲れて。見えて。


 くまが見える。


「うぅ、痛い……」


 少女の声で我に返った。


「だ、大丈夫か?」

「うん、ごめん……」


 謝りながら、少女はようやく自分の体勢に気付いたようだ。みるみる真っ赤になる顔は面白かった。

 でもその後はいただけない。


「ば、ばかぁ!」


 バチン、と手痛いのをもらった。



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