私は夢見る花嫁さん
すごく今更なんですけど、ナディルの妹、レティシアの話は「妃教育から逃げたい私」という題名で本になっています。気になる方はぜひ。
ネット版はシリーズから飛べます。
「なんで、どうして、兄の何がいいの?」
友人であり婚約者の妹は控室に来ると真っ先にそう言った。
「結婚式当日にそれ言う……?」
「いやだって私には兄の良さは欠片ほどもわからないんだけど」
大体やり方が気にくわない、とレティシアはギリギリとハンカチを噛んでいた。
「ブリっ子、兄のところで住み込みでメイドしてたって? それ絶対ぜーったい自分を男として意識させるために違いないわよ! どうせあれでしょ? 着替え手伝わされたり入浴手伝わされたりしたんでしょう?」
「入浴まではしてない!」
「着替えの手伝いかー」
しまった。誘導された。
「あの兄が、自分の利益になること大好きなあの兄が、婚約者作らない時点でおかしいとは思ってたのよね。人には政略結婚させるくせに。人には政略結婚させるくせに」
根に持っている。二回も言うほど根に持っている。
「結果的には恋愛結婚だからいいだろうが」
「式前に花嫁を見ると逃げられるらしいわよ」
「勝手に変な迷信作るな」
ナディルはいつもと違い、白のタキシード姿だ。髪も撫でつけ、普段より気合の入った格好だ。それもそのはず、今日の主役なんだから。
「一応あれは、お前が王子のこと好きになったから進めたんだぞ」
「でもその後がひどかった!」
「お前が父上に甘やかされてなにもできなかったからだろうが! お前、あのままじゃかなり早い段階で婚約破棄されていたぞ」
「なんにもできなくない! 木に登れた!」
「木登りする王太子妃がどこにいる!」
「現在進行形でここにいる!」
なんだかんだ仲良いわよね。
「メイドさせていたのも、そういうのだけが目的じゃない。うちの状況を内部から見て知ってもらって、あまり苦労しないで女主人となりやすいようにするためだ」
「何で妹にはその優しさ出さないの? あとそういうのだけじゃって言っている時点で意識させようとしたことバレバレだからね」
「惚れた女と妹なら態度が違って当たり前だろう」
「あーあーあー! 兄の惚気ほど聞きたくないことはない! じゃあねブリっ子! またあとで!」
レティシアは言いたいことだけ言うと去って行った。嵐みたいな女だ。あれでも表に出るとしっかりと上品な王太子妃に変わるのだから驚きだ。
そういうところ、やっぱり兄妹よねえ、と思いながら、座っていた椅子から立ち上がる。
「ねえ、私に惚れてるの?」
「前からずっとな」
さらりとそういうことを言うのだから私は堪ったものではない。真っ赤になった私を楽しそうに見ながら、ナディルは笑う。
「私、役に立つ公爵夫人になれるかしら」
「役に立たなくてもいい」
でも、とナディルは続ける。
「お前の次期男爵家当主として培った知識を活かして隣で一緒に歩いてくれるとありがたいな」
「まかせてよ!」
どうせなら、支え合える関係のほうがいい。
コンコン、と扉を叩かれる。時間だ。
「では、お手をどうぞ、花嫁さん」
「ええ、行きましょう、花婿さん」
差し出された手を取って、一緒に一歩歩き出す。
借金持ちになったり、色々あったけど、でもきっとどれも無駄じゃない。それも全部含めて幸せな人生だったと言ってみせる。
あなたの隣でね。
これでひとまず完結です! 番外編など、今後は不定期に更新したいなー、と思っています。
ご拝読ありがとうございました!




