思い出は美しくありたい
「パンツの一つや二つどうってことないと思うぞ」
「…………」
「見せたくなくても見られることはあるだろう」
「…………」
ナディルの慰めなのか何なのかわからない言葉を聞きながら鼻をすする。
「う、う、う……私の美しい初恋が終わったぁ……」
「そんな何年も前のことで泣くなよ」
「うううう……きっとあの子の記憶では私は痴女なんだぁ……」
「子供が子供パンツ見てそんなこと思うか」
「ひどいぃ……可愛いくまちゃんパンツ履いてたもん……」
「子供パンツだろうが」
子供パンツでもパンツだもん……。
グシグシ泣く私をどうしたらいいのかわからない様子のナディルは落ち着かない様子で部屋を歩き回っている。
ふう、と息を吐いて、歩くのを不意にやめたナディルは、私の頭から被っている毛布をはぎ取った。
「きゃー! 返してよ!」
「断る」
「横暴よー!」
何とか取り返そうと毛布を引っ張るも、ナディルの力に敵わずナディルに近づくだけの結果に終わった。
「うぅ……泣いた不細工な顔見ないでよう……」
「何度も見てる」
「そこは嘘でも可愛いって言うところでしょうが……」
ずびっと鼻をナディルの服にこすりつける。ふん、不快な思いをするがいい!
「ちょっと傷心しているだけよ……美しい思い出がとんでもない破廉恥な思い出だったのを思い出しただけだから……」
まだお気に入りのくまちゃんパンツを履いてたのでよかったと思うべきなのだ。
でも涙は止まらない。乙女心は複雑なのだ。
「どんなパンツでもいいだろう」
「うぅ……見られたことが問題なのぉ」
お嫁にいけない……とメソメソする私の頭をナディルが撫でる。ナディルはいつの間にかベッドに腰かけていた。
「だから……」
ナディルはそこで言い淀んだ。何度か口を動かすと意を決したようにこちらを真っすぐ見てくる。うっ、やめてよ、あんた顔だけはいいんだから!
不覚にもときめいた心を隠すように心臓に手を当ててナディルの言葉を待つ。ごくり、と唾を飲む声が聞こえた。
「いけなかったらもらってやる」
「……何?」
「……昔そう言った」
むかし……昔……。
ナディルは頬を赤らめ、でもこちらから視線を逸らさない。それは誰かの姿と重なる。誰だっけ?
そうだ、あれは、あの子もこんな表情で……。
「え?」
そういえば、髪の色も、こんなで……。
「え?」
目の色もこんなで恥ずかしさで少し潤んでて……。
「え?」
驚きで涙は引っ込んだ。
初恋の君がこんな近くにいるだなんて聞いてない!




