遊具の使用には気を付けて
「本当に何もないんだな」
「じゃあ帰ったらいいんじゃないの」
部屋にいてもすることがないと騒ぎ出したので、家の周りを散歩することにした。
何もないというが、まったくないわけじゃない。ただ、うちの領地のメイン産業が農産業だから、自然が多いのだ。農産業でも十分収益が出ている。そんな状態でも切羽詰まったのは借金のせいだ。それがなければ小金持ちぐらいだった。
家の裏にある山の少し開けたところに着く。椅子もあるので、多少はのんびりできるだろうと思い案内した。
「ここは?」
「私の小さい頃の遊び場。義父母が作ってくれたの」
木に垂れたブランコ。砂場。小さな池。義父母は私が飽きないようにと作ってくれた。懐かしい気持ちで、ブランコに腰を掛ける。
「おい、壊れるぞ」
「失礼ね、そこまで重くないわよ!」
というものの、確かにブランコは劣化しているはずなので、漕ぐのはやめた。
「私、遊具ならブランコが一番すきだったのよね」
てっぺん近くまで漕いで、ジャンプしたものだ。今はできない。大けがのリスクの方が高い。
「お前今滑り台するのはやめておけよ」
「何で?」
「ケツがつっかえる」
「失礼ね!」
確かに子供用だが、私のお尻はそこまで大きくない!
「ふん! 見てなさいよ! 華麗に滑ってみせるから!」
「あ、馬鹿!」
ナディルの制止を振り切って、滑り台へ駆け上る。子供の頃はとても高く見えたのに、今登ってみれば大したことない。
ナディルは滑り台の下であきれた顔をしている。
何よ! 滑れるわよ!
滑り台から滑るために腰を下ろす。多少窮屈だが、大丈夫だ。問題ない。私がそのまま手を離すと、するすると滑っていく。
ほら、大丈夫じゃない!
勝ち誇った顔をナディルに見せる。ナディルは未だにあきれた顔をしている。
するすると滑る滑り台。大人になってもなかなか楽しい。
童心に戻っていると、するすると滑っていたのが、ずるずるに変わっていった。
あ、あれ……?
嫌な予感に顔を青ざめても遅い。滑り台の真ん中で動きはぴったりととまった。
「…………」
「…………」
ナディルと顔を見合わせた。
「言わんこっちゃない……」
「うっ……」
反論の余地もない。
もぞもぞ動くも、うまく嵌ってしまったようで、抜けない。
「ナ、ナディル……」
「何だ?」
「抜けないの……」
「……馬鹿なのか?」
そうよ! 馬鹿なのよ!
泣きそうになりながらナディルを見下ろす。こんな状況でなければナディルを見下ろすという貴重な環境を楽しんでいたはずなのに……。
「お願い、助けて……」
「本当にお前は……」
相変わらずあきれた顔をしながらもナディルが手を差し出してくれた。その手を握り、一気に引っ張り上げられる。
「わ、わ!」
そのまま勢いで下に落ちていく。下は砂場になっているが、それでも痛い物は痛い。
「うっ、痛……」
「どこか打ったか?」
ナディルのお腹の上に乗った私の声に反応して、ナディルが顔を上げた。
が、すぐに固まった。
「ナディル?」
「スカート……」
「え?」
スカート?
ハッとして自分の下半身を見る。見事にスカートがめくれあがっているし、膝を立てる形で座ってしまっている。
つまり、ナディルから丸見えなのである。
何がって……スカートの中身が。
「きゃー!」
慌ててスカートを直して足を閉じる。うう、嫁入り前なのにぃ!
「ううぅ……お嫁にいけない……」
「……嫁にはいけるだろ」
「……?」
よくわからなくて首を傾げるとナディルが顔を背けた。あれ、なんだろう、こんなこと前にもあったような……。
『いけなかったらもらってやる』
「あ、あー!」
いきなり叫んだ私にナディルがビクリと体を震わせた。
「あ、あ、あ」
何てこと!
「私、初恋の子にもパンツ見られてるー!」
うわーん! と私の泣き声が響いた。




