実家にお泊り
久々の我が家だ。
「ただいまぁー! お父様お母様!」
元気よく扉を開ける。手紙で事前に知らせていたので、義父母はすぐに玄関に駆けつけてくれた。
「おかえりなさい、ブリアナ」
温かく迎え入れてくれる義母の胸に飛び込む。遅れてきた義父はそれをにこやかに眺めていた。
「ナディル様も、ようこそおいでくださいました」
「急に来て申し訳ない」
「いえいえ、なにからなにまでしていただいて、こちらが感謝したいぐらいです」
義父の顔は、以前見た時よりふっくらしている。以前は碌に食べている余裕もなかったが、今はナディルが借金を肩代わりしてくれたので、ゆとりができたのだろう。
義母も、以前より少し肉付きがよくなった手で私を撫でると、家の中へ案内してくれた。
居間に着くと、メイドがお茶を淹れてくれた。
「メイドの手配までしていただいて、ありがとうございます」
「護衛の方まで……」
さすが元公爵家のメイド。私が淹れるのとはケタ違いの美味しさに舌鼓を打つ。
……ところで護衛って何?
メイドは聞いていたけどそれは初耳だ。
「おたくの大事なお嬢様を頂くのですから当たり前のことですよ。今後もこちらで手配させていただきますが、お気になさらず」
ナディルが外交用の笑顔を張り付けながら言うと、義父母は感謝を述べた。こいつ、私にはこんな爽やかな笑顔しないくせに……。
「それで、お泊りするお部屋なんですが……」
義母がおっとりとした仕草で頬に手を当てた。
「ブリアナと同じ部屋がいいとのことでしたが、よろしかったでしょうか?」
◇◇◇
「どういうことよ!」
用意された自分の自室で、私はナディルに詰め寄った。部屋は私がいた頃とほぼ変わらないが、一つだけ変わっている。
ベッドが大きくなってる。
義父あからさますぎだよ!
私に対して「夢の玉の輿ねブリアナ」「いい人だから逃がさないようになー」と言って去って行った義父母に対して開いた口がふさがらなかった。
「両親に私のこと本当の婚約者だっていうことで話してるでしょう!?」
でなければ話がおかしい。義父母は私がナディルと結婚するのが当たり前だと思っている。憤慨する私にナディルは部屋でくつろぎながらあっさり言う。
「当たり前だろう」
というか、そのベッドの上で堂々とくつろげるってどういう神経してるの!?
「何でよ! 誤解といてきてよ!」
「誤解されて困ることないだろう」
「現在進行形で困っているわよ!」
おかげでベッドが一つしかないもの!
「どこからどう話が漏れるかわからないんだ。騙すなら全部騙す」
「思考回路が悪党そのもの……」
似たようなことを、この間読んだサスペンス小説で犯人が言っていたわよ。
「あ、あと護衛って何?」
「護衛は護衛だ。お前は俺の婚約者となっている。公爵家子息の婚約者だぞ。危険は増えるし、実家に対して何かされるかもしれない」
言われてなるほど、と納得する。
「確かにそうね。疑って悪かったわ」
「疑うって何だ」
「いや、監視役でも置いてるのかなって……」
「お前の中の俺は何なんだ……」
はあ、とため息を吐いて、ナディルはベッドから起き上がった。
「まあ、そういうわけで、今夜は俺もここに泊まるぞ」
「……帰っていただくわけには」
「却下」
「ですよね」
期待を込めた一言を即座に否定され、部屋に備えてある椅子に座った。
「……一緒に寝ても何もしない?」
「しない」
「本当の本当の本当に?」
「本当の本当の本当だ」
肯定されて安心しているはずなのに、イラッとするのは何でだろう。
「まあ、そうよね。私なんかに食指動かないわよね!」
ムッとした感情を隠しながら言うと、ナディルが深いため息を吐いた。
ため息吐きたいのはこっちだわ!




