ベンの立ち位置
ストックがなくなってしまいましたが、できれば毎日更新を続けたい所存。
「ナディル!」
走ってナディルのもとに行くと、ナディルは子供たちに群がられていた。うわぁ、普段とのギャップがすごい。頭にも乗られている。
「何だ?」
まだ機嫌が悪そうだ。だがきっとすぐによくなる。ふふふ、と笑いながら、私はナディルの頭に乗っている子供を引っぺがした。
「もう、早く言ってよね」
「……何をだ?」
ナディルが何か期待するように私を見つめる。
「あなたが欲しがっていた子供は私よ!」
自分を指さしながら胸を張って言ったが、ナディルは無視して子供と戯れだした。
「ちょ、ちょっと! ねえ、ほら、ベンより優秀な子供!」
「その言い方はないよアナ姉ぇ!」
はあはあ息切れしながらようやく私に追いついたベンが不満の声を漏らす。
ナディルは仕方なさそうに膝の上に乗っていた子供を降ろした。
「それがどうした」
「だから、こいつの仕事を私にさせるといいわ!」
ナディルがあきれ果てた顔をしてまたさっきの子供を膝に戻した。
抗議の声を出したのはベンだ。
「アナ姉そりゃないよ!」
「元々私を雇いたかったんだし、ここはさっくりベンに辞めてもらって、私がその仕事をやればベンの分の人件費は浮くし、私はあんたに恩を売れるし、一石二鳥よ!」
「お前は恩を返せ」
「うっ、そうね、返すほうが先だったわ……」
先に恩をもらっていたわね……。
「ならその恩を返すためにもベンにはさくっと辞めてもらって」
「さっきからそのさくっとって何? さくっとやめるわけないよね! 俺絶対辞めないから! 居座るから!」
ベンはナディルの膝にいた子供を降ろし、そこに自らの頭を突っ込んで、ナディルのお腹に頭を擦り付けている。
「坊ちゃん! 俺のこと捨てないですよね! 俺今更よそで生きていけないですよ! だって仕事できないですもん! 馬鹿ですもん! ね、捨てないですよね!?」
「現在進行形で捨てたくなってきた」
「どうして!?」
しっかりしがみ付きながら、ナディルのお腹に頭つけてグリグリやっているからじゃないだろうか。
「俺が五歳からの仲じゃないですかー! 拾ったら最後まで責任とってくださいよー!」
ベンは変わらず頭をグリグリしている。ナディルはふう、と息を吐いた。
「あー……一応俺はベンを捨てる予定はない」
その声にベンはガバリと顔を上げ、キラキラした目でナディルを見る。
「一度拾ったからには責任を持つつもりだ。雑に扱えるしな」
「坊ちゃん!」
感動したようにベンが胸の前で手を組んだ。雑に扱うってはっきり言われているけどいいのだろうか。
「えー……経費減らせてお互いにとってもいい案だと思ったんだけど」
「これでもここまで育てたからな」
ベンは未だにナディルの膝にいる。それを見て私は掌をポンと叩いた。そうか、ベンは執事というより――
「ペット枠ね!」
ベンの口から「俺の扱い……」と漏れたのは聞こえなかったフリをした。




