同郷の子供
「というのが私の初恋」
ああ、甘酸っぱい思い出……。
あれ以来プロポーズは誰からもされていない。どうやらあれが私の唯一のモテ期だったらしい。悲しい。
私の話をナディルは遮らずに聞いていた。
「……もし、そいつに会えたらどうするんだ……?」
「会えたら?」
考えたこともなかった。
会えたらかぁ。
「とりあえず、私のこと覚えているか聞くかなあ」
「それから?」
「え? それだけ」
私の答えを聞いてナディルはびっくりした顔をしている。珍しい表情だ。
「結婚を迫ったりしないのか?」
「え? しないしない! 小さい頃に一度だけ遊んだだけよ? お互い、いい思い出でしょう。あの子の着ている服上等だったし、かなりのいいところの坊ちゃんだろうから、私じゃ力不足だろうし。どうせもう結婚してるか、婚約者がいるかでしょう」
残念ながら私はもういい年した女だ。夢と現実の違いぐらいわかっている。白馬の王子様が助けてくれるのは絵本の中だけだ。
「お前……」
ナディルが何か言いたそうに何度か口を開口させたが、最終的には大きなため息を吐いた。
「そうだよ……そういうやつだよお前は……」
「なんだろう、貶されてる気がする……」
今の流れで何でそうなったんだろう。私ただ昔話してただけなのに。
落胆した様子のナディルは、立ち上がって服に付いた草を払って一人で歩いて行ってしまった。あ、あれ、何で? 何かした覚え本当にないんだけど……。
追いかけてついていったほうがいいのか、よくわからないから放っておいたほうがいいのか考えあぐねていると、突然背中に衝撃を受けた。
「うわわわごめんなさいブリアナさん! 大丈夫ですか?」
子供と遊んでいたベンが座り込んでいる私に気付かずに衝突したらしい。
「痛いじゃない!」
「ごめんなさいごめんなさい! 悪気があったわけじゃないんです! 人は急には止まれないんです!」
「それを言うなら馬車でしょ!」
ベンに手を差し伸べられて立ち上がる。勢いよく当たった割に大きな怪我はない。背中に青痣ができる程度だろうか。
「気をつけなさいよね」
「すみません……ついはしゃいじゃって……」
ベンはしょんぼりと肩を落としている。
「ここ、俺がいた孤児院なんで、懐かしくて」
え?
「ベンがいた……孤児院……?」
ベンは十七歳……十二年前は五歳……五歳のベン……。
「は、鼻タレ小僧のベン!」
思わず叫ぶと、ベンはきょとんとした顔をしたあと、あ、と声を上げた。
「ア、アナ姉!?」




