後悔後先に立たず
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「終わった……」
パーティーから一日経った今日。私は何をするでもなく、ドルマン邸で、自分に与えられた自室のベッドに寝そべっていた。
ベンが今日の仕事はしなくていいと言っていた。おそらくナディルが話したのだろう。気づかわし気な目をしていた。
「もう、婚約者役は終わりかしら……」
そうなると借金はどうなるのだろう。すでに返してくれているのか、まだなのか。すでに返してくれていたら、今度はナディルに返済を迫られるのだろうか。
「なんてことをしたの私」
いつもはどんなになじられても大丈夫だったのに。
最近のドルマン邸での好待遇に慣れてしまっていたようだ。あんな失態を犯すなんて。
ナディルは怒っているだろうか。怒っているに決まっている。
一世一代の大勝負だったのに!
ぐずぐずと鼻をすする。お母様とお父様になんて言おう。怒るかな。いや怒らないな。心配してくれるに違いない。そしてきっと苦労させたと泣くのだ。いやだな、泣かせたくないな。
コンコン、と扉をノックする音が聞こえた。私は鼻をかんで「どうぞ」と言った。
「ブリアナ、どうだ」
どうだとはどうだろう。
ナディルの言葉にどう返したものかと考えつつ、泣きはらした目で見た。ナディルが視線を逸らした。なんだ、見苦しいってことか。自分でもひどい顔なのはわかってる。
私は意を決して口を開いた。
「お金のことなんだけど」
「…………うん?」
想定していなかった言葉だったのか、ナディルがきょとんとする。無防備なその顔をうっかり可愛いと思ってしまったが、そんなことを思っている場合ではないと頭を振った。
「できれば肩代わりしてもらって、徐々に返していくって形でもいいでしょうか……」
「は?」
やはり図々しすぎただろうか。でもここで折れるわけにはいかないのだ。
「必ず返すから。お願いします!」
そうしなければ実家は終わりだ。私はベッドから降りて、ナディルに頭を下げた。頭上からナディルのため息が聞こえた。
「あのなぁ……」
ビクリ、と肩が震えてしまった。
「婚約はそのままだ」
「……へ?」
ナディルの言葉に顔を上げると、困ったように頭を撫でられた。
「あのぐらいどうってことない」
いや結構なことをしたと思う。
ナディルに撫でられたまま、訝し気に見つめると、また視線を逸らされた。
「むしろでかした」
でかした?
私はますます訳がわからなくなり、首を傾げた。
「こんなに早くことが進むとは思わなかった」
ナディルは私を撫でながらにこりと笑う。なんだろう。想定していた反応と違う。
混乱する私とは別に、ナディルは機嫌がよさそうだ。
「坊ちゃん、エイベル様がいらっしゃいましたよ」
「通せ」
ベンは相変わらずノックをせずに部屋に入ってきた。ナディルは頷く。
……待って? 誰が来るって?
コンコン、と扉がノックされ、ナディルが返事をした。待って、嘘でしょう。今来なくてもいいじゃない。
私の気持ちを置いて、無情にも扉は開く。そこに立っているのはもちろん、昨日私が胸倉を掴んでしまったエイベルだ。
さあ、と血の気の引く私とは裏腹にナディルは楽しそうだ。
エイベルは垂れ目でこちらを見る。そして視界から消えた。
「すみませんでした!!」
見事な土下座だった。




