類は友を呼ぶ
パーティー準備だけで疲れ果ててしまった。
「どうしてあんなに時間かかるの……」
「俺の勝手だろう」
ええ、まあお金出しているのあなただからあなたの勝手だけれどね。
「だがこれからが本番だぞ。しっかりしろよ」
「わかってるわよ」
パーティーでは婚約者役をしっかりこなさなければいけない。
「よし、まかせなさい! お金の分だけはしっかり働くわよ!」
「頼もしいものだな」
私の気合の入った言葉に、ナディルはふわりと笑った。
「…………」
「どうした、急に固まって」
「……いえ、あなた、普通に笑えたんだなと思って」
「どういう意味だ」
一瞬でむっすり顔に戻ってしまった。今まで私の前では企んだ笑顔や、嫌味な笑顔ばかりだから驚いてしまった。
素の状態の笑顔のナディルは、普通の青年に見えた。
「あなたが人間だったのだと今安心したわ」
「何だと思っていたんだ」
「魔王」
「お前な!」
パーティー会場までの回廊をそんな会話をしながら歩いていると、ついに扉にたどりついてしまった。
使用人らしい人間が扉を開けようとするのを見ながら、目で頷き合う。
ここからが本番。
質のいい扉なのだろう、ぎい、という音もなく、静かに開く。その中をナディルと腕を組んで二人で歩く。
何人かの人間がこちらを見てひそひそ話をはじめた。想定内なので気にしない。
「やあ、ナディル、久しぶり」
「エイベル。久しぶりだな」
一人の男性が声をかけてきた。ナディルはにこりと微笑む。
「ブリアナ、昔なじみの、アランド侯爵子息、エイベルだ。エイベル、俺の婚約者のブリアナだ」
ナディルに促され、カーテシーを披露する。
「お初にお目にかかります、エイベル様。私はラリクエル男爵家の娘で、ブリアナと申します」
「はじめまして、ブリアナ嬢。私はエイベル、ナディルの友人だよ。よろしく」
エイベルは垂れ目を更に垂れさせて挨拶を返してくれた。すごい人の良さそうな人だ。こんな人とナディルが友人だなんて信じられない。
「君が婚約するだなんて、冗談だと思ってたんだけどな」
「冗談で公表するわけないだろう」
「ふうん? で、二人のラブロマンスを教えてくれるんだろう?」
馴れ初めと言ってほしい。なんだラブロマンスって。ラブなどない。
私はナディルと目配せした。
「小さい頃ナディル様に出会って、そこから疎遠だったのですが、最近再会しまして。私の初恋だったものですから」
もちろん嘘だ。
必ず聞かれる事項なので、ナディルから語る内容を決められていた。本当はもっと詳しく設定が練られていたけれど、わざわざそこまで話すこともない。
ところで、なぜ私の初恋設定なのだろう。やめてほしい。
「あー、なるほど。純愛だねえ」
「やめろ」
エイベルがナディルをからかうように肘で脇腹をつつくと、ナディルは不快そうにした。初め愛想笑いをしていたため、表面上の付き合いかと思ったが、そうではないようだ。
ナディル、友達なんて作れたのね。
妙に感心して見ていると、視線に気付いたのか、ナディルの眉間に皺がよったのが見えた。
「ナディル、飲み物持ってきてよ。私はブリアナ嬢と話してるから」
ナディルがこちらをちらりと見るので、大丈夫だという意味で頷くと、「すぐに戻る」と言って、その場を離れた。
エイベルはにこりと垂れ目でこちらを見る。
「で、どうやってナディルを誑し込んだの?」
あ、こいつ嫌なやつだ。