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パーティー準備



 なんだかんだとあっという間に二週間過ぎてしまった。

 この家で働いて二週間。ナディルの着替えにも慣れ、本人に盛大に悪態を吐かれたのは三日前だ。

 慣れて効率よくなったのに怒られるとはこれいかに。

 三日前、手の震えもなく、落ち着いて着替えを手伝えたというのに、「もっと緊張感を持て」だの、「自分に対して失礼だ」だのとよくわからない罵倒を頂いた。相当気に入らなかったのか、ついに下まで脱ごうとしてきたので悲鳴を上げて逃げ出した。解せない。


 そんなこんなで何とかやり過ごしている私の主な仕事は、ナディルを起こすこと、ナディルを着替えさせること、お見送り、お出迎え、ナディルの部屋の掃除、ナディルの服の洗濯……と見事にナディル尽くしだった。仕事の内容に、悪意しか感じない。

 まあでも過酷な労働環境ではないので恵まれていると思いながら、ナディルのベッドシーツを代えていた。

 ――のだが、ベンが突然ナディルの部屋に来た。何回言われたらノックを覚えるのだろう。


「ブリアナさん! 仕事です!」

「現在進行形で仕事中なんだけど」


 仕事を増やすつもりなのかと睨んでみると、ベンは違う違うと首を横に振った。


「婚約者の仕事! 忘れてたでしょう!」


 忘れてた。

 あんまりにもメイド生活に慣れすぎて、これが仕事の全てだと思っていたけど、もとを正せば偽物の婚約者をするというのが始まりだったのだった。


「今夜パーティーがあるそうです! 準備するから、それ終わったらブリアナさんのお部屋に戻ってくださいね!」

「はぁーい……」


 婚約者としてパーティーか……気乗りしない……でもやらなければいけない……。

 私はできる限り時間をかけてシーツを綺麗に整え、自室に向かった。こんな数分などただの悪あがきだが、少しぐらい悪あがきしても許されるはずだ。

 自室の扉を開けると、ナディルがいた。


「なぜいる!?」

「パーティーのためだ」


 いや説明になってない! 説明になってないわよ!

 てっきり部屋で侍女さんあたりが待ち構えていると思っていたのに、いたのはまさかのナディル。仕事どうした。


「さあドレスを選ぶぞ。何色にするかな……」

「え、なにこの大量のドレス」

「事前に作らせておいた」

「こんなに!?」


 ナディルは何てことないように言うが、部屋に持ち込まれているドレスは十数着あるように思える。もちろんどれも上等な品だ。しかもナディルは作らせたと言った。既製品ではなく、特注品なのだろう。

 そしてなぜ私のサイズを知っているのかそろそろ聞いてみたほうがいいのだろうか。いやだめだやめておこう。


「婚約者のフリをするだけなのにこんなに用意したの? お金の無駄遣いだわ!」

「無駄じゃない。使う」


 何回パーティーに連れて行く気なのだろう。


「少ししかここにはないが、他にもあるぞ」

「いくつ作ったの!?」

「必要な分だけだ」


 絶対そんなに必要ない! ああ、このドレス一着だけで、実家がどれだけ賄えるか……。

 婚約者役するのが終わったらこれもらって帰れるかしら。私のサイズで作ってるし、退職金としてもらいたい。辞めるときに交渉しよう。


「うん、今日は青だな」


 一人で納得してドレスを決めたナディルは、今度はテーブルに広げているアクセサリーに手を伸ばした。そこに置いてあるのももちろん一級品であろう輝きを放っている。


「……まさかこれも買ったの?」

「ああ、必要だからな」


 私からしたらありえない数の宝石が広がっている。

 さすがにこれは退職金にしてもらうのはやめよう。額がとんでもなさそうだ。未来の奥様に差し上げるといい。ドレスはサイズを私用に仕立て直しているから、奥様には無理だろう。捨てるぐらいなら絶対もらう。


「金持ちのお金の使い方が理解できない……」

「普段はこんな使い方はしない」

「どうだか」


 アクセサリーを私に当ててナディルはどれにするか選んでいる。


「お前にあげたいと思っただけだ」


 唐突なナディルの言葉に私は固まった。

 やめて! 死んだ乙女心をくすぐる言葉を急に放たないで! 甘い言葉なんて言われ慣れていないから、些細なことでときめいてしまうのよ!

 顔を赤くして動かなくなった私を見て、ナディルも自分の言葉に気付いたのか、ネックレスをテーブルに戻して沈黙した。

 気まずい。なぜ行動を止めるの。

 ナディルはテーブルに広げた宝石たちと手で遊びながら、眉間にしわを寄せた。


「お前は高級なものなど見たことないだろうからな。今のうちに存分に味わうがいい」

「ああ、わかってた! あんたはそういうやつだってわかってた!」


 ときめいた私が馬鹿だった!

 憤慨する私を楽しそうに見るナディルは、アクセサリーを決めたようで、侍女を呼んだ。

 気付かなかったが、部屋の隅に侍女がいた。よかった! そうよね着替えはさすがにナディルしないわよね!

 ほっとした私を尻目に、ナディルは侍女に告げる。


「このドレスとこのネックレスに合う靴をいくつか持ってきてくれ」

「かしこまりました」


 侍女はさっと部屋を出ていった。

 ドレスも着ていない。化粧もしていない。髪型も整えていない。現在、靴を見繕っている最中だ。

 ……パーティーまでまだまだ遠そうである。



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