勤務初日から大変です
「ナディル様ー! 起きて下さい!」
紙に書かれていた仕事の一つ目をこなすため、ナディルの部屋の扉をコンコン叩きながら声をかける。しかし反応はない。
うーん、どうやって起こすべきか書いてなかったんだよなぁ。部屋に入っていいのかなぁ。
しかし、いきなり部屋に入ると機嫌を悪くする可能性もある。私はもう一度扉を叩いた。
「ナディル様ー! 朝ですよー!」
ドンドンドンと叩く。低血圧なのだろうかと考えていると、中から声がした。が、扉越しなのではっきり聞こえない。私は扉に耳を当てた。
「もっと近くで起こしに来ないと起きない」
子供か!
「ナディル様!」
本人の言う通り、近くで大声でも出してやろうと乗り込んだ。
「うっ……」
朝の陽ざしを浴びるナディルを見て一瞬言葉を詰まらせる。
性格の悪さですっかり忘れていたけど、こいつ見た目はいいんだったわ!
キラキラと顔に朝日を受ける様は、うっかり見惚れてしまうものだった。
私は必死で自分に言い聞かせた。
――こいつの性格最悪最悪最悪最悪……よし、ただの悪魔に見えてきた!
「ナディル様! 起きて下さい!」
耳元で叫ぶと、ピクンと反応した。しかし目を開けない。
「というか起きてるでしょ! さっき声出してたじゃない!」
「ちっ」
嫌々目を開けたナディルは毛布を捲って体を起こした。
「次からはもっと色っぽく起こせ」
「はぁ?」
何言ってるんだ、こいつ!
「そんなサービスありません! ほら、さっさと起きて!」
「おい、言葉遣い」
「え、ああ、すみません。つい」
「そっちじゃない」
うっかり乱暴な言葉遣いになってしまい、慌てて言い直す。しかし、ナディルが言っているのは敬語のことではないらしい。
「普通に話せ」
「え? でも一応メイドなので、敬語の方が……」
「普通に話せ」
「わ、わかったから一々肩掴んで凄んでこないでよ!」
何か言いたいことがあるときの癖なのだろうか。肩を掴む片手に手を重ね、離せと振り払った。
「様付けもするな」
「え? でも」
「いいな?」
「わかったわかった!」
再び肩を掴まれすぐに返事をした。ナディルは満足したのかベッドから立ち上がる。
「おい」
「何?」
「着替え」
うっ……本当にするのか……。
昨日もらった紙に書かれていた内容の一つ。『着替えの手伝い』をしろと言っているのだろう。
「ねえ、これ執事さんにやってもらって、私は慣れた掃除とかの方が」
「着替え」
聞いちゃいない。
私は渋々用意された服をナディルに手渡した。ナディルが怪訝な顔をする。
「何よ?」
その顔の意味がわからず訊ねる。
「脱がせ」
「はあ?」
「手伝うというのは服を手渡すことじゃない。脱がせて着せろ」