そんな話は聞いてない!
「は? 住み込み? 聞いてない!」
「今言った」
ナディルから聞かされた内容に驚愕の声を上げる私に対して、言った本人は涼しい顔をしている。
いや、おかしいとは思っていた。部屋にあったベッドは仮眠を取るにしては立派なものだったし、いくつかの服を仕舞えるタンスもあって、通いにしてはおかしいなと思っていたのだ。
「でも私義父母のお世話があるし……」
使用人みんな辞めてしまったからね……。
義母も家のことを少しはできるようになったが、元々していなかったために不慣れな上、年齢も年齢だ。家のことを任せて住み込みなどとてもではないが住めない。
「大丈夫だ、安心しろ」
不安な様子を見せる私にナディルは言った。
「お前の家には一人使用人を送った」
「は……?」
使用人を送られても、その人の分の給金出せないんだけど。
「元々うちの使用人だ。金は俺が出す」
「……いやそもそもその人呼び戻したら人手不足解消されるのでは?」
私の疑問はもっともだと思う。人手不足だから無償で働けと言われたが、これでは結局私と使用人を交換しただけで、金銭的にも労働力的にも何も変わらない。むしろ慣れない場所で働く分、労働力はマイナスである。
「まだわからないのか」
ナディルが鼻で笑った。
「ただの嫌がらせだ」
……はい?
「え? 何、ただの嫌がらせで私メイドさせられるの?」
「そうだ」
「私への嫌がらせってだけ?」
「そうだ」
「嫌がらせのためだけにわざわざ部屋用意したりしたの?」
「そうだと言っている」
何度も確認する私にナディルが多少苛ついた様子を見せる。
というか、本当にそれが理由なら――
「性格が悪い!」
「知っている」
私の罵倒も気にしない様子でナディルは紙束を渡してきた。
「何これ?」
「明日からのお前が担当する仕事についてと、この家での過ごし方が書いてある。わからないことは明日聞け。今日は風呂に入ってもう寝ろ」
そう言うと、私の背を押して自分の部屋から追い出した。
今日から扱き使われる覚悟だった私は多少拍子抜けしながらも、休んでいいと言われたのだからと与えられた自室に戻った。
仕事をしないなら今はメイド服を着ている意味はない。着替えようとタンスを開けた。
「あ、部屋着っぽいの発見」
動きやすそうな、簡素なワンピースを見つける。私はメイド服を脱いで早速それを身に着けた。
「あと中にあるのは……」
同じようなワンピースがもう二着。さっきのとは別のメイド服が二着。どうやって調べたのかわからないけど、私のサイズにあった下着が数点。
そして——
恐る恐るそれを取り出す。
「ネ、ネグリジェ……」
しかもスケスケタイプだ。
私はネグリジェを床に投げつける。くそお、小さな嫌がらせをしてくる!
「あ、あいつぅー!」
隣の部屋から笑い声が聞こえた気がした。