おまけでメイドにもなりました
「よし話はついたな」
こちらとしてはやや不本意だけどね……。
むっすりしていると、ナディルが布を投げつけてきた。
「ちょっと……!」
「それに着替えてこい」
頭から被り、抗議しようとした声は遮られた。布だと思った物は服だった。それも白と黒がメインの、メイド服だ。
「……本当にメイドをさせる気なのね」
「そう言っているだろうが」
渋々受け取ったメイド服を手に持つ。
「どこで着替えればいいの?」
「ここを出て右隣を使え」
メイド服と共に部屋を出ていき、言われた通り右の部屋に入る。ベッドと机、一人掛けの椅子に小さなタンス。見た感じ使用人部屋だけど、やけに広い。それこそ、隣のナディルの部屋と広さとしては同じぐらいだ。
「何か変ね……」
使用人は普通もっと小さな部屋で、主人とは離れたところに住むはずだ。こんな真隣などありえるか?
まあ、細かいことを考えたらキリがないと頭を振り、メイド服を広げた。
「なっ……」
メイド服の全貌が明らかになった私は絶句する。あ、あいつ……!
私は部屋を出てナディルのもとへ戻った。
「ちょっと、これは何よ!」
メイド服を手に持って戻った私を見て、ナディルは舌打ちした。
「ちっ、着なかったか」
「当たり前でしょう!?」
私は顔を赤くして怒鳴る。手に持っているのは、フリルがふんだんに使われたメイド服。その裾はとても短く、着用して少し屈めば下着が見えること間違いなしだ。
明らかに仕事用ではない。
「こんなの着て働けって言うわけ!? とんだセクハラだわ!」
「いや、ちょっと一回着ているのを見たかっただけだ」
「それで着た私を笑う気なのね? この性悪!」
このメイド服はとても可愛らしい。清楚な少女が着ればさぞ癒しになるだろう。
それが一転、私が着ればあら不思議、驚くほどにその服の良さを消す。
つまり全く似合わないのだ。これは体にメリハリのある人間には向かない。
「それ、お前が売っていた服だろうが」
「うっ」
そう、なぜこのメイド服にこんなに詳しいかと言うと、これは私が利子を返すためにしていた商売の一つだったからだ。結構売れた。
「これは実用向きではないのよ……」
言いながらメイド服を返す。
「そうか……残念だな……」
何が?
「ほら、じゃあこれを着ろ。これなら問題ないだろ」
新しく別のメイド服を渡され、今度は部屋を出る前に形を確かめる。裏返しにしたりして確認するが、どこからどう見ても普通のメイド服だ。
ほっとしてそれを胸に抱えて部屋を出る。隣の部屋に入り、服を脱いで、メイド服に袖を通す。服のボタンを首筋までしっかり閉める。サイズも問題なさそうで、安心した。
「胸だけ入らないことがあるのよね」
中々理解されない苦労を一人呟き、ナディルのもとへ戻った。
「ばっちりだったわ!」
「ああ」
ナディルは着替えを済ませた私を上から下まで舐めるように見た。
「ぴったりか……」
「何?」
やや残念そうな声音がしたがよく聞こえず訊ねるも、ナディルは何でもないと首を振った。
「あとは部屋だが、今着替えた部屋を使え」
「ああ、やっぱりそうなのね。急ごしらえした感じの使用人部屋だと思ったのよね」
広い部屋に対して質素な家具。大きさもあってなくてちぐはぐだった。元々使用人部屋じゃないところに、家具だけ使用人用に揃えた様子だった。
「あれ? でも隣でいいの?」
「ああ、問題はない」
ナディルは椅子に座ったままほくそ笑んだ。
「そのほうが都合がいいからな」