表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
余は魔王である  作者: 白ヤギ
7/42

魔王が決意した日。



 山下公園。 市の運動場にも認定されているこの場所で魔王はベンチの上で横になり空を見上げていた。 ――全く違う世界なのに空は同じ青色なのだな。 などと珍しく感傷に浸っている。

 

 魔王が日本に転移させられて二日が経っていた。



 「空も。 太陽も。 風も。 人も。 余がいた世界と変わらない。 だがこの世界は……おかしい」



 いや。 おかしいとゆう表現は違う。 魔王のいた世界とこの世界が違い過ぎて頭が理解の範疇を越え、結果理解できない物として処理しようとしているのだ。

  


 時間が必要だ、この世界の常識を理解しなければ。

 

 

 「魔王様。 買ってきました」


 「ど、どうぞ」



 首から声を伝達する魔道具……スマホを下げている少女が手に飲み水を持ってやってきた。 

 ユリシスの姿はスマホに擬態していてこの国では誰が持っていても不思議ではないらしく、今は少女……ミズクが持っている。

 本来の名前は魔王が言いずらい言葉だったので勝手に魔王が名付けたのだ。 それに対して少女は新しい名前をすんなりと受け入れ今に至る。

 


 「うむ。 ご苦労」



 差し出された物を見て魔王は体を起こしてそれを受け取った。 この世界に来てから何度も使っている飲み物、ペットボトルの容器をじっと見つめる魔王。 



 「……変わった飲み物を買って来いといったが、これは飲めるのか? 真っ黒ではないか」


 「あ、えっと、それは・・・」


 「それはコーラとゆう物で口にれるとシュワシュワする甘い飲み物です。 急に多く飲むと危険ですので少しずつ口に含んでください」



 ユリシスの説明を聞き魔王はコーラを恐る恐る口に入れる。 その瞬間魔王の体に衝撃が走り目を見開いた。



 「な……なんだこれは。 口の中がビリビリするぞ。 ……だが良い! 美味であるぞ!」



 コーラを気に入った魔王はグイグイと満足げに飲み干していく。 それに安心した様子をするミズクは魔王の隣に座りペットボトルを開ける、中身はオレンジジュースだ。

 


 「奴隷の分際にも関わらず余の隣で飲食出来るのを光栄に、うえっぷ……光栄に思えよミズク」


 「はい。 こうえいですまおうさま」




 ――――



 最初は魔王との距離を測りかねていたミズクだったが、だんだんどのように接していけばわかってきていた。


 

 魔王様は「な! この人の多さは何だ! どこかで祭りでもやっているのか? それとも戦でも始まるのか!」外に出て人の多さに驚愕し、「こ、これは人が閉じ込められてる訳ではないようだが、どうなっているのだ?」テレビの画面に驚愕し、「おお! なんだこれは馬よりも早くて、そして乗り心地がよいぞ!」とタクシーに乗ってはしゃいでいた。



 口調は強くて偉そうでとても表情が豊かで、ミズクは自然と笑みを作っていた。 最初こそは電流を流され痛い目にあったが、それ以降魔王はミズクに優しく接してくれている。



「汚なすぎるぞ貴様の体! いったいどれだけ洗えば綺麗になるのだ!」と文句をいいながら何度も体を洗ってくれた。 「おいこら! ふらふらするでない、はぐれたらどうするのだ。 まさか貴様、余の奴隷になるのが嫌で逃げ出すつもりか? さっさと付いて来い」 初めて外に出てフラフラしていた私の手を魔王様はつなぎ歩いてくれた。「歩くのが疲れただと! 軟弱! 軟弱すぎるぞ貴様! そんなことでは余の奴隷としてまともに働くことも出来ないぞ!」そう怒りながら私を背負ってくれた魔王様。



温かい背中で眠気に誘われるほどミズクは初めての幸せを感じていた。 







 ――――

 


 「勇者はいったいどんな気持ちだったのだろうな」



 飲み物を飲み干し魔王は呟く。

 


 「勇者はきっと笑っていたのだろうな、あの戯れと同じよ」



 魔王の目線の先には小さな親子が言い争っていた。 言い争いといってもまだ帰りたくないと駄々をこねている子供を親がなだめているだけの構図。 その構図こそ勇者と魔王の戦いそのものだったのだろう。



 子供はおもちゃのバットを振り回し「まだ帰りたくない!」 と泣き叫び、それを困り顔を作りながらなだめる親。 最終的に親がお菓子を渡すことで子供は暴れるのを止めて笑顔を作って帰っていった。



 親にしてみれば可愛い子が怒る姿さえ愛おしいものだ。

 子は単純で非力。 甘い菓子を目の前に出されれば目が移り、いくら対抗しようが大人の力にはかなわない。



 魔王がこの世界で見てきた様々な物。 車や電車や飛行機、夜中に人々を照らす太陽を思わせる強い光。

 それらが普通にある日常。 魔王のいた世界ではありえない異常。



 「この世界からきた勇者にしてみれば余の世界はよほど異質に見えたのだろうな……いや、低俗で愚かな馬鹿な集団かの」



 文化の違いは価値観にも大きく影響する。



 「だが。 だからといって余の国を滅ぼしていいのか? そんなにも余の国が気に入らなかったのか?」



 魔王の目の前では平和に、楽しそうに遊んでいる人たちがいる。 この世界……勇者が生まれ育った国を見て歩いて、魔王は納得した。 こんな国に住んでいれば、魔王の国だけでなく、魔王の世界にある国々すべてが悪に見えるだろうと。



 「勇者はきっと自分が元いたこの世界が正しいと思い余の国を壊し、他の国々も侵略していったのだろうな、この国と同じような文明を築き平和を作りたかったのだろう。 だがそんな不条理なことがあっていいはずがない! そんな正義を余は認めぬ!」



 手に持っていたペットボトルが魔力によって握りつぶされ、燃えて溶けていく。



 「余のなすことは決まった。 ユリシス。 ミズク。 これから余の為に働いてもらうぞ」


 「どうぞご自由にお使いください魔王様」


 「はい、まおうさま」



 この世界で魔王が何をすべきか、それが決まった。




 「勇者は自分の正義を貫くために余の世界を壊した。 ならば余は、勇者の復讐の為にこの国を壊す」



 

 勇者に国を滅ぼされた魔王の復讐が勇者の手の届かない日本で始まろうとしていた。


ミズクとの関係性を現す話を一つ挟むべきかと悩み中

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ