表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
余は魔王である  作者: 白ヤギ
6/42

魔王式調教術

  


 「……魔王様。 もうそのくらいにして下さい、手が使い物にならなくなります」

 



 どれくらい殴っていたのか。 魔王の両手は血に染まりアーロンの顔は元の形がわからないほどに崩されていた。

 


 「……そするか」

 

 「あなたは魔王様なのです。 落ち着いて優雅に行動し、皆の憧れになるべき存在なのです、だから――」

 

 「もういい。 黙っていろ」

 


 大きく息を吐いて天井を見上がる。

 もう大丈夫、気持ちは落ち着いた。 

 


 死んでいるアーロンから離れて、魔王はそれの存在を思い出す。

 


 「貴様、名前はなんだ?」

 


 部屋の隅にいた少女はいつのまにか体を起こし魔王のことをじっと見つめている。



 「こやつはアーロンが吾輩にあてつけた奴隷であったな?」

 

 「はい。 おそらく魔王様にこの世界の知識を与えるために連れてきたのでしょう」

  


 魔王は少女に近づき見下ろす。

 


 「貴様……臭いし汚いぞ? 身なりを整えられないほど低級の奴隷なのか? それとも教育を受けてないのか?」


 「あの……がっこうには、いってないです。 ひらがななら、よめます」


 「ほう、貴様奴隷のくせに文字が読めるのか、では上級の奴隷か? いやしかしそれならなぜそんなに汚いのだ」

 


 魔王の世界での奴隷は主に肉体労働を担う存在であり、話せなくても体が丈夫なら充分働かせることができる。 文字の読み書きは教える手間もあるのでそれを出来る奴隷は上級の奴隷として売られていた。



 「この国の住人は小さい頃から教育を受けています。 この子は学校にこそ行っていませんが普段の会話や日常で気に見る文字で覚えていったのでしょう」


 「最初から文字を教えているのか。 それなら読み書きを出来る奴隷が沢山いてこんな汚い扱いを受けるのも納得が出来る」


 血で汚れた手を伸ばし少女の髪をかき上げ顔を見る。 無垢でつぶらな瞳はまっすぐに魔王を見上げていた。

 


 「まぁまぁの顔だな。 大きくなれば上玉になりそうな資質がある。 おいユリシス! 体を洗う場所はどこだ、こいつを洗って綺麗にする。 あと新しい服もだ」

 

 「この位置から一番近い扉の中に浴槽があります」

 


 魔王は少女の腕を引っ張りカーペットの端を越えて指示された部屋に向かおうとしたのだが――

 


 「あ……いやああああああああああああ!」

 


 少女は甲高い悲鳴を上げて魔王の腕を振り払い部屋の隅に戻りうずくまった。

 


「ごめんなさいごめんなさい! わたしここからでませんからなぐらないでください!」

 


 さっきまで弱弱しかった少女が大きな声を上げて必死に隅から動かないようにうずくまり、ひたすか「ごめんなさい」と言い続ける。


 少女は自分の世界の領域から出たことで取り乱していることを魔王は知らないが――だがだいだいの予想はつく。



 「誰かがここから動くな、とでも言ったのか?」

 


 魔王の問いに対して小さく少女が頷く。

 

 少女の体は汚く殴られた跡もあり、ひどく痩せ細っている。 奴隷に命令を聞かせるための有効で簡単な調教方法は鞭で叩き痛みを教え込み、絶えず空腹にさせ追い込むのが基本だ。

 少女がこの場所を動こうとしないのは前の主が動くなと命令したからであり、奴隷としての本分に従っているだけなので褒められていることをしていると言ってもいい。 

 

 だが今の主は魔王であり、それを教え込まなければならない。



 「ふん!」



 魔王は縮こまっている少女を掴み―――投げた。

 


 「っつ!」

 


 投げられた少女は壁にぶつかり痛みで顔を歪ませるが、自分の世界の外にいることに気づくと急いで元いた部屋の隅に戻ろうとするが、それを魔王は阻止し床に押さえつける。



 「聞け! 余は魔王である! 貴様は余の奴隷であり余の命令だけ聞けばいい。 前の主の命は忘れよ!」

 

 「で、でも……おかあさんが」

 

 「忘れろと言っている! 余の言っていることが理解出来ないなら無理やりわからせるぞ」

 

 

 魔王はそう言うと右手を少女の目の前にかざす、すると右手はバチバチと音を出し放電し始め、その右手で魔王は少女の体に触れた。

 


 「ああああああああああ!」

 


 「これは雷の力を流用した魔法でな、少しの魔力で相手に大きなダメージを与える優れものだ」

 

 

 口から涎を流して痙攣する少女。 しばらくして魔法を解き意識があることを頬を叩いて確認する。

 


 「目が見えるな? 今お前の前にいる余が誰だか言ってみろ」


 「あ……ああっ」


 「言ってみろ! さもなければまた雷の痛みを味わうことになるぞ!」


 「ま、まおうさま」


 「もう一度大きな声で!」


 「まおうさま!」


 「お前の主は誰だ!」


 「まおうさまです!」


 「余の命令には従え、どんなことでもだ!」



 「は、はい!」

 


 ふむ。 と魔王は一呼吸おいて少女を掴むと――また放り投げた。 投げられた場所は少女が元いた部屋の隅。

 


 「ではさっそく命令だ。 余の近くに来い、今すぐに」

 


 投げ飛ばされた痛みから顔を歪ませながらもなんとか少女は立ち上がり足元を見る、視界に入っくるのはカーペットの端の線であり少女の世界の境界線。「ここでじっとしてなさい」母親の声が頭の中に響き足が進まない、だが急かすように魔王は再び手に電流を流しバチバチと音を出して急かしてくる。


 

 ――あれは嫌だ。 



 電流を流されたのは時間にして数秒だが、その数秒はとても長く、息ができずとても苦しかった。



 見えない心の境界線と、見えている恐怖。

 

 目をつぶり少女は見えている恐怖から逃げるために歩き出した。 一歩、さらに一歩と踏み出し三歩目で目を開け、四歩目で勢いよく後ろを振り返った



 「……あっ」



 見えるのはなんの変哲のない部屋の景色、当然境界線なんてあるはずもない。 


 そもそも少女は自分からあの世界の外に行こうと思ったことがなかった。 あの世界から出たとしても少女はやることがなかった、目的がなかった。 だから出る必要性を感じず、出てはならないとゆう意識だけが少女を縛っていた。 


 だが今は。


 

 「もう一度聞く。 貴様の主は誰だ?」


 「……まおうさま。……まおうさまです!」


 「よろしい。 さて、体を洗ってやるからこっちにこい」

 


 目の前にいる魔王のことを少女はよく知らない。 だけど魔王だけがこれからの少女にとっての新しい世界を教えていくれる大事な存在なんだと感じていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ