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余は魔王である  作者: 白ヤギ
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ここでずっと応援してますよ 

 


「あははは! ねえねえ彼はどんな反応をするかな? 一番最初になにを言うと思う? やっぱり「な、なんだこの体は!」 かな?」



 ――こんなに面白くて楽しいのは初めてだ! これからもっと楽しくなるぞ! 



 アーロンは返事がないと分かっていながらもミユに話しかけ、ニコニコと笑みを作りながら自分の体から真球を取り出し覗き込む。

 

 

真球とは神が生まれた時から持っている一つの世界であり、自分の分身であり、アーロンにとっての玩具箱だった。



 なぜ自分は神なのか? なぜ生まれたのか? 神とはなんなのか?

 

 自分の存在について考えたことがあるが答えは出なかったし、きっと答えが出せないように作られているのだろう。 僕達神もあの魔王のように箱庭の生き物かもしれない。 だけどアーロンは別にそれでいいと思っている。楽しく生きれればそれで満足じゃないか。



 アーロンが生まれたのもこの場所であり、生まれた瞬間には最低限の知識が植え付けられ、やらなければならない責務が課せられていた。 それは――真球を育てること。

 


 植え付けられていた知識は。


 「転生を選ばず死ねば真球も壊れ、真球が壊れれば自分は死ぬ」

 

 「神同士で殺し合えば相打ちでお互いに消滅する」

 

 ……他にも沢山あるから後は自分で調べてね。




 とゆうものであり、最後のは説明するのが面倒だから省略したとしか思えないような知識。 こんなことしか分からずいきなりこんな場所に産み落とされれば誰だって混乱するだろう。 実際にアーロンはただ立ちつくしこの状況を飲み込むのに必死だった。 

 


 「やあやあこんにちは。 私の名前はミユって言うの、よろしくね。 私のことは覚えてないだろうけど言葉は分かるよね?」



 困り果てていた頃に僕の前任者が交流していた他の神がわざわざ来てくれて色々と教えてくれた。 それが今のミユの前任者である。



「まずは真球を出すことから始めようか。「出ろ」って思いながら体に力を入れてごらん」



 言われるがままにアーロンは力を込めるとそれは簡単に体の中から現れた。 見た瞬間にこれが真球だと理解出来た。

 


 「いいね、いいね。 じゃあそれを触ってみて、それで大体理解できるはずだから」

 


 そして次も言われるがままにアーロンは真球に触れてみる。 するとその瞬間にこれの使い方が理解できたし「ルールは自分で調べろ」の意味も分かった。



 神のルールは自分から動くか誰かからの干渉で分かることがある。 例えば火に近づけば「熱い」と感じるし、誰かに押されて水に触れば押された時の「感触」と水の「冷たさ」を感じる。 そうゆうことなのだと理解できた。



 そうと分かれは実践あるのみ。 アーロンは様々なことを体験して理解していく。

 エデンの中を「走れる」ことを知り走ると「疲れる」ことを理解し、真球の中に入れることを知り。 人間になって食べ物を食べると、食べ物には「甘い物」や「辛い物」があることを理解した。



そんなことをアーロンがしている内に仲良くしていたミユが寿命を迎えて消滅してしまい、新しいミユが生まれた。 神同士が仲良くするルールはないが前のミユに対して多少なり恩を感じていたアーロンはここのルールの理解の仕方を、自分が教わったように新しいミユにも教えたのだった。



 そしてアーロンは自分の真球を地球と名付ける。 この名前は自分で考えたものではなく真球の中にいる人間ががそう呼んでいたので自分もそう呼ぶことにしたのだ。 特に意味はないが名前を付けたとこで愛着がわいたのはいいことだ。





 アーロンからしみてれば地球は水槽だった。 自分の好きなように地形を変えられるし滅ぼすこともできる。 でも地球の神であるアーロンでも出来ないことがある。 それは違う種類を増やすことだ。

 

 今いる種を進化させて違う生き物にすることは出来るがそれは何十年と年月が掛かる作業であり、しかもすぐに死ぬ失敗作が生まれる可能性もあった。 こらえ性のないアーロンはそんなの耐えられない自信がある。



 何か大きな変化が欲しい。

 

 この水槽をもっと楽しく面白くしたい。




 そしてアーロンは思いつく。 違う種を育てるのではなく、違う世界から持って来ればいいのだと。




 だがいきなり異物を持ち込んで生態系を大きく崩すことはしたくない……だったら地球に似た他の世界で先に実験をすればいいじゃないか。 そう思いついたアーロンはミユの真球を利用することにしたのだ。


 

 ミユは真球を外から操作するのでなく、直接真球の中に入って動かしていた。 そのおかげで真球は無防備に浮いている状態でエデンに放置されている。 壊されれば死んでしまうが壊した相手も死ぬ制約神同士であるため油断していたのだろう、それともただ単にマヌケなだけだったのか。 


 ともあれミユの世界なら少しの間干渉出来条件がそろっていた。




 思い立ってからの実行は早く、アーロンはすぐに候補を探した。

 

 凶暴で性格の悪い奴を入れようと思ったがそれはミユがかわいそうなので、出来るだけ平和的な考えをもつ人間を送ることにして、すぐに死なれるとつまらないので加護をいくつか与え体も強化した。 

 神が他の神の真球に干渉できるのはほんの僅かだけであり、本気で拒まれたら干渉は出来ない。 だから送る人数は一人が限界だった。

 


 送り込む人選を済ませミユの世界に入れることは成功したがやはりすぐバレてしまい流石にこれは怒られると思ったのだが……予想を反してそうはならなかった。 

 

 ミユは今回のを許す代わりにミユが選んだ人間をアーロンの世界に送ることを条件に出し、

アーロンはそれを受け入れた。

 


 それからアーロンはミユの真球から送り込んだ人間を観察し始める。

 最初は戸惑っていた様子だったが次第に今の状況を理解し現地の人間と交流を深めていき、そして自分の力の大きさに気づいた彼はそれを弱い者の為に使い、弱い者は彼を勇者と呼んで称え始めた。




 勇者は様々な問題を知識と力で解決していき国を動かせるほど成長していく。 その後は自身の正義を貫くために他国を侵略し奴隷制度を敷いている魔王を倒したのだ。

 



 この結果は僕を満足させるには充分な成果だった。


 最初は孤立していてた勇者が信頼を勝ち取り。 仲間を得て冒険し。 国を動かせるほどの権力者になり。 他国を侵略し滅ぼす。


 アーロンが送り込んだ、たった一人の人間が世界を変えたのだ。 これなら自分の世界も面白くなるはずだとアーロンは確信が持てる。 ……まぁ今回と同じように力を与えすぎると滅茶苦茶になりそうだから地球に誰かを送るときは与える力を少し弱くするか。

 

 そうアーロンが思っていた時にミサが言ったのだ。

 


「約束を果たしてください、。 魔王をあなたの世界に」



 ミユは滅多に話すことがないので久しぶりに聞いた声にアーロンは驚いたが、その内容にも驚ろかされた。


 なぜ魔王を選んだのか? その理由を聞こうと思ったがそれはやめた。 元々アーロンが勝手に巻き込んだことだしそのことに対して負い目も多少感じているからだ。 なにせ一人の人間を送りだしたせいでミユの真球は大きく変わり、破壊され、まったく違う世界になろうとしているのだから。


 なのでアーロンはミユの人選に文句を言う資格はないと思っている。 それにこれは考えてみれば最良の選択だ。



 あの魔王なら自分の世界をきっと面白くしてくれるだろう。 そうだ! せっかくだから勇者が生まれ育った国に呼ぼう。 あの国を見て魔王は何を思い行動するのか想像するだけで笑いがこみ上げてくる。



 その後ミユは魔王を真球から引き揚げてエデンに呼び、少しだけ話をしてついさっき僕の地球に送り込んだ。

 

 

 「魔王君はどこにいるのですか?」


 「前もって準備していた部屋に飛ばしたよ、ちょうどいい使用人も置いておいたからしばらく様子を見よう」

 


 ――これからだ。 これから面白ことがたくさん始まる。 僕はこれを見るために生きていたんだ! 

 

 自分でもおかしいと思うほど興奮し地球を眺めているアーロンは、ミユの変化に気づかなかった。









 「ならあなたの役割は終わりです」









 冷たく言い放れた言葉と同時にアーロンの体に激しい痛みが走る。



 「がっ・・・あ?」



 何をされたのかわからない。 



 視線を下げると自分の体が貫かれ血塗られた手が生えている。 その見慣れた手をアーロンは知っている。

 


 「ミユ、なぜ・・なんで?」


 「その「なぜ」はどのなぜですか? あなたを殺す理由? こんなことをする理由?」



 ミユはアーロンの胸から腕を引き抜き崩れ落ちる頭をつかんで持ち上げ自分と向かい合わせた。       

 そしてミユの顔を見てアーロンは理解する。

 


「・・・おまえ、堕ちてたのか」






 ミユの両目が開いている。 

 

 それは堕天の証。 

 

 穢れた証。




 「堕ちたなんて言わないでください。 これは愛が芽生えた証拠ですよ。 愛の為に私は魔王君の国が亡ぶのを見ていた。 そしてあなたが魔王君を地球に召喚するのを待っていた。 魔王君・・・あああああああああああ魔王君魔王君魔王君!      様。 この名前を口にするだけでわたくしの体が熱くなっていく」

 


 今まで見たことのないミユの表情。 微笑んでいるような、恥じらしくしていようなとても狂喜じみている表情。 

 


 「僕が死ねば魔王がいる地球は亡ぶぞ。 そしてお前も死ぬ」


 「地球は滅びませんしわたくしは死にません」

 


 神同士で殺しあえば必ず共倒れになる、それが絶対的なルールだ。 ――だが殺したのが普通の神でなく堕ちている神なら? そもそもなぜ自分は心臓を貫けられたのにまだ生きている?



 「わたくしの世界をあなたに埋め込みます、代わりにあなたの世界はわたくしがが貰い受けます」

 


 は? 何を言っているんだこいつは? 



 言葉を理解委する前にミユはアーロンの体にあいた風穴にミユの真球をねじ込んだ。 



 「な……なにを」


 「交換したのよ。 あなたと私の世界を」


 「お、お前・・・ずっと守ってきた世界を、捨てるつもりか」


 「ええ。 愛ゆえに」

 


 もう用はないと言わんばかりにミユはアーロンを無造作に投げ飛ばす。

 

 

 「取れないぃ、取れないいいいい!」


 アーロンは必死に胸をかきむしって埋め込まれたミユの真球を取ろうとするが体の穴は完全に塞がり、取り出せない。 爪を立ててもう一度自分で穴を開けて取り出そうとしたが力が徐々に抜けていく。 そしてアーロンは無理やり理解させられた。


 神が他人の真球を体に埋め込むと、それが毒となり体を蝕み死にいたる。 そう理解してしまった。

 


「こんなこと・・・ありえない」



 ようやく手に入れた玩具。 これから僕の地球は面白くなるのに、どうして……僕が何をした? 僕はただ楽しめればよかった、ただそれだけなのに。



 「私はただ魔王君を愛したい。 ただそれだけの理由でことを起こしの。 行動の原理はあなたと同じですからきっと理解してくれるでしょう?」 


 「許さない……呪ってやるぞミユぅぅぅぅぅ!」


 「どうぞご勝手に。 あなたはこれから死ぬことも出来ず二百年掛けて痛みを受け続け、そして死ぬ。 その時にはわたくしもとっくに死んでるでしょうね」



 自分の真球になった地球をのぞき込みミユは微笑む。



 「さあ魔王君。 ここからあなた様の新たな道を切り開きましょう。 私しはずっとここで見ていますからね」



 地球の神となったミユは召喚された魔王の能力を操作しミユの世界にいた時と同じ能力を与えているのが見える。

 


 ――やめろ! そんなことしたら地球のバランスが壊れて滅んでしまう! 


 もはや声も出すことが出来ず。 アーロンはただ弄られていく地球を見上げることしか出来なかった。 


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