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余は魔王である  作者: 白ヤギ
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魔王は勇者に殺された。 めでたしめでたし   のその後


 「ここはどこだ?」



 周りを見渡しても何もない空間。 立っている感覚はあるが地面が―そもそも足場がない。 見渡す限り白く明るい場所だった。



 「俺は……そうだ。 余は戦っていた」



 この空間に一人ポツンと立っている男は記憶を思い出すために目を瞑った。 


 男の年は五十を過ぎている。 強面で顔には多くの傷があり髪には白髪が混じっているが老いを感じさせない身体つきをしていて、まさに歴戦の騎士とは彼のことを指すのだととゆう風貌がある。



 そんな彼ついさきまで戦っていた。



 剣を振るい、魔法を放ち、怒声を上げて戦っていた。 そして最後には首を切られ自分は死んだはず。


 首を手に当てて確かめるが傷跡もなく繋がったまま。 だが確かに切られたのは覚えている。 切り離され、転がった頭で勇者を見上げていたはずだ。



 「やあやあ、ようこそ魔王様。 ここは神の住む場所。 僕達はここをエデンと呼んでいる」



 突然聞こえた声。 声の主は男――魔王を見下すように上空に浮いていてゆっくりと降りてきている。 まるで神が下界に降りるような神々しさを出しながらその存在は言った。



 「僕は地球の管理者をしていてね、君達の言葉でゆうところの神様だ。 親しみを込めてアーロンちゃんって呼んでくれていいよ♪」

 


 ニッコリと笑みを作ってアーロンは魔王と同じ目線になると落下を止める。

 中性的な顔立ちで着ているのは質素な一枚布で作られたローブだけ。 両目は閉じられているがそれでもこちらのことをしっかりと見ているのを感魔王は感じていた。

 


 ――こやつ見た目は人間だが中身は違うな。 だが魔物の擬態にも思えん。 何者だ?



 神を名乗る者が目の前に現れたからといって信じる魔王ではない。 


 神の使徒だと名乗る者を魔王は何人も出会ってきたが、その全ての首を魔王は切り落としてきた。

 

 出合った使徒に本物はいなかった。

 

 剣で殺せる相手が使徒のはずがない。

 

 そして自分も首を落とされて死んだはず。

 


 目の前の神は信じられないが、自分が死んだのは確信が持てる。 だったらまずそのことについて確認しなければならない。

 

 

 「余は……死んだはずだ。 死人はみなここにくるのか? 死霊の里なのかここは?」


 「死霊の里? ああ、僕の世界でゆうところの黄泉の世界ね。 違う違う。 言っただろここは神のいる場所だって死霊の里じゃない」


 「ならなぜ余はここにいる? 余に何か用があるのか?」




 魔王の揺らぎない視線で言い放つ言葉に対してアーロンは少し目を見開き、すぐに微笑みを作った。



 「ふふふ。 さすが魔王だね、自分の死を否定しないんだ。 理解が早くて助かるよ、だけど楽しみが減っちゃたな~「実は君はもう死んでいるんだ」って言って驚かせようと思ってたのに」



 ニカっと笑ったと思ったら今度は肩を落とし残念そうな顔をするアーロン。 感情を隠そうとせずころころと表情を変える仕草はとても可愛らしいのだが、目の前の存在はそんな生易しい者ではないと魔王の勘が警告している。



 「君は確かに死んだけどそれはミユの世界での話でね。 君を僕の世界に招待したいから生き返させたのさ」



 生き返らせた? 招待? アーロンの言葉が理解できない魔王だったが、ひとつだけわかる名前がある。

 


 「ミユ? まさか唯一神ミユ・ユズハ様のことを言っているのか?」


 「おやおや流石の知名度だね。 まあ君たちの世界での神だから知らないわけないよね。 おーいミユー! こっちに降りて来いよー」

 


 アーロンが口に手を当てて上に向かって大声で叫ぶ。 そしてそれは上から降りてくれのではなく、魔王の近くに突然姿を現した。


 背は魔王より高く、着ているのはアーロンと同じ一枚布の服で両目もつぶっている。  アーロンと違い美しい女性だとわかる体の作りをしていてその姿を見た瞬間――魔王は膝をつき頭を下げた。




 この方は本物だ。




 命を得た瞬間から印を魂に刻み込まれているのだと理解した。


 目の前の存在には逆らえないと。 この方こそが神なのだと理解した。 




 魔王のいた世界はファルガルスと呼ばれ、いくつもの国が存在し数え切れない種族が生きていた。 

 勿論それだけの数があれば言葉や習慣も違うのも当然だが、ただ一つだけ共通の認識として存在するものがある。 


 それがミユ・ユズハ。 ファルガスを作り上げ命を創造した神の名だ。



 言葉が通じなくてもミユ・ユズハとゆう名は通じる、口を揃えてミユ・ユズハは神だと言う。 それはファルガスの生き物にとって不思議なことではないし当然のことだった。

 言い伝えによれば神はミユ・ユズハ以外にも存在していてそれぞれが違う世界を治めているらしい。 一人の神が一つの世界を守護し、お互いに干渉しない。 それが神々の作った掟なのだとか。



「ミユ・ユズハ様。 失礼を承知でお聞きしたいことがあります」



 あのミユ・ユズハ様が目の前にいる。 


 ファルガスの守護者がここにいる。


 ならば問いだしたいことがある。 ファルガスに住む人間として、国を治めていた王として聞かなければならいことがある。



 「なぜあのような者を召喚なさったですか? 知らぬうちに我らが失礼な働きをしたのでしょうか? それとも我らの世界を見限ったのですか? どうかお答えいただきたいミユ・ユズハ様!」



 秩序が保たれていたファルガスに突如現れた異物。 その者は自らを勇者と名乗りこう口にしていた。



 「奴は言っていました「神に異世界召喚されたからここにいる」と。 なぜあのような者を呼んだのですか!」



 ファルガスを混乱の渦に巻き込み、魔王の国を滅ぼした憎き相手。 そんな者をなぜ召喚したのか? 



 「……」



 ミユ・ユズハは魔王を見下ろし、魔王はじっと答えを待った。 








 そして。


 魔王の問いに対して口を開いたのは、違う神だった。

 


「聞く相手を間違えてるよ魔王。 僕が頼んでユズハの世界に勇者を送ったんだよ。 彼は予想以上に僕を楽しませてくれたんだ。 感謝しなくちゃね」

 


 アーロンがニッコリと悪気のない無邪気な笑みを浮かべながら魔王の肩に手を乗せ――魔王はその手を払いのけ鬼の形相でアーロンの首めがけて剣を振り下ろした。 



 まさにそれは一瞬の出来事。



 神の使途を名乗る相手を何人も殺してきた剣はアーロンの首を正確に捉えていたが――その首は落とせなかった。

 


 剣で殺せぬ相手。 

 

 それが神なのだと魔王は知ることになる。






不定期投降です。

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