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第23話「屋根裏にて」


「ほう、これはなかなか、秘密基地のようでわくわくするな」


 俺の牙城、唯一の安息地――すなわち屋根裏部屋へと踏み込んだシャロンは実に能天気に言った。

 俺は愛想笑いを返しながら、内心気が気でない。


 この狭い屋根裏部屋に、シャロンがいる。

 他でもない、俺がかつて手にかけた大勇者ルグルス・ヘルティアの娘が、だ!

 ついていないどころの騒ぎではない、最悪だ!

 もしも何かの間違いで彼女に正体がバレてみろ、十中八九、全てが水の泡である!


「どうした少年? 遠慮などしなくていいのだぞ」


 などとやっていたら、シャロンはいつの間にか俺のベッドに腰をかけていた。

 お前は少しぐらい遠慮しろ!

 などとは当然、口が裂けても言えるはずもなく。


「ど、どうぞお構いなく……」


 自分の部屋なのにそんな台詞まで吐いてしまう始末だ。

 屈辱である……

 あまりの情けなさに溜息のひとつでも吐きそうになっていたところ、シャロンは何がおかしいのか「ふふ」と微笑んだ。


「君は、あれだな、若いのに苦労人だな」


 他でもない、今まさに苦労を振りまく元凶がよくも言えたものである。


「……そんなことありませんよ、苦労なんて知りません」


「謙遜するところもまたな、君は子どもらしくない」


「いけませんか」


「いいや、いい意味でだよ」


 シャロンはいかにも思わせぶりに笑って、そして


「改めて礼を言いたい、助かったよ、君はあえて彼らに呪いのことを伏せてくれたね」


「……なんのことですか」


「はは、少しは誇ってくれ、呪いを解いてくれたのは君だろう?」


「……」


「いや、答えたくないのなら深く詮索はしない、何か事情があるのだろうな、しかし本当に助かったのだ」


「……呪いを伏せたことがですか」


「そうだ、クロエ殿やグルカス殿のように善良な人間を巻き込むわけにはいかないからな」


「……何があったのか聞いても?」


 彼女はちらとこちらの表情を窺って、それから一つ嘆息した。


「知っての通り、私の父ルグルス・ヘルティアは勇者であった、そして自らの天命に従い魔王討伐の旅に出たが、道半ばにして魔王軍の最高幹部の手にかかり殺されてしまったのだ」


「……寝物語に聞いたことがあります」


 本当は俺がルグルスを討った張本人だが、とりあえずそういうことにしておく。


「ルグルスの一人娘であった私は、父の意志を引き継ぐべく武者修行の旅に出た、そしてその道中でヤツらに襲われたのだ」


「ヤツらとは?」


「不気味な……得体のしれない二人組だ」


 自分で気付いているのかいないのか、シャロンの握りしめた拳は震えていた。


「自分で言うのもなんだが、私は自らの剣の腕にはそれなりに覚えがある」


「それは、分かります」


 腰に提げた業物や隙のない立ち振る舞いもさることながら、なんせ彼女はBランク冒険者だ。

 Bランク冒険者といえば、冒険者ギルドにおける上位10%。

 低級のものなら悪魔や竜ですら相手取れる、掛け値なしの強者である。


「しかし、ヤツらは強かった……いや、ヤツというよりは片割れの女が、だな、まるで歯が立たなかった」


「……シャロンさんを圧倒するとなればAランク冒険者ですかね、となればそれなりに名も知れてると思いますが、心当たりは?」


 シャロンはふるふると首を振った。


「分かったのは彼女が魔術師であるということだけだ、顔は、その……」


「なんです」


「――隠れていたのだ、仮面で、だから分からない」


 仮面、のワードに虫たちがぴくりと反応する。


「……それはまた不気味ですね」


「不気味なのはそれだけじゃない、彼女は様子がおかしかった、彼女からは、なんだか自分の身体の動かし方に慣れていないような、そんな印象を受けたのだ」


「身体の動かし方に、慣れていない……」


「……まあそんな者に負けてしまった挙句、呪いまで植え付けられて、情けない限りだが」


 シャロンはどこかバツが悪そうに自嘲する。

 一方で俺は思案していた。


 仮面、そして様子のおかしい二人組。

 まさか、まさかな……


 ――そんな時である。

 突如、全身を浮遊感が襲う。

 何事かと思えば、俺の身体はシャロンによって、高々と抱え上げられていた。


「なっ――!?」


 あまりにも突然すぎる出来事に思考が停止する。

 シャロンは無言のまま、こちらを見つめていた。


 まさか正体がバレた!? このタイミングで!?

 やむを得ん、始末するしかない――!


 我に返った俺は、慌てて懐から香炉を取り出す。

 しかし彼女はその動作に先んじて動き出し、次の瞬間――抱きしめられた。


「なっ」


 豊かな乳房を顔面に押し当てられ、再び思考が停止する。

 何が起きたのか分からない、分かりたくもない!

 しかしそんな思惑とは裏腹に気付いてしまう。

 俺の頭の形をなぞる肌の感覚――俺はまさか今、頭を撫でられている(・・・・・・・・・)のか!?


「悪いな少年、少年が聞き上手なものだからついつまらない話をしてしまった、お詫びに頭を撫でてやろう」


「む――っっ!!!?」


 何をトチ狂ってるんだ!?

 全力で抗議しようとするが、彼女の乳房による、いっそ暴力的なまでの圧力に負けて声が出せない!

 せめてもの抗議として、この拘束から抜け出そうと暴れるが、すぐに抑え込まれてしまう。


「こらこら恥ずかしがるな、せめて今日ぐらいは大人ぶる(・・・・)のをやめて、私を姉だと思って存分に甘えるといい、よしよし」


 恥ずかしがっている? 違う! 全力で拒絶しているのだ!

 くそ、何を勘違いしているんだこの女は!

 大人ぶっているのではない、実際にお前よりもずっと年を重ねているのだ!


 不敬! 不敬だ!

 俺は魔王軍四天王の一人! 怪蟲神官ガガルジ!

 決してこのような扱いを受けるような男では――


「何を隠そう私は大の子ども好きでな……お姉ちゃんと呼んでくれ」


「むうううううううっ!!」


 俺の必死の懇願は言葉にならず、屋根裏部屋にむなしく響いた。


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