『1』傷はいつか、癒えるもの
きららと深鈴のいがみ合いはとりあえず今回はきららに軍配が上がったようで。
「お兄さん。きららさんに襲われそうになったら叫んでくださいね。すぐに駆けつけます」
「わたくしがそれ程、野生的だと言いたいのかしら?」
「そうですけど。気付きました?」
「「むー!!!!」」
仲良いように見えるのは、彼女たちの心情的変化なのだろう。今まではお互いを消そうとする野蛮な空気が絶えなかった。
「もう、こんなことしてないでわたし達の新しい家を手配したらどうですか」
「良也くんの意見も聞かないとでしょう?
わたくしと、良也くんの愛の巣なのですから」
「愛の巣って言い方は古いと思いますけど」
「真実に古いも新しいもありませんわ」
「……もう、きららさんたら。頼みますよ?」
「……はぁ。任せてくださいませ。捻くれ妹」
深鈴は俺の頬に唇を当てて、ひらひらと手を振ってから部屋へと戻っていった。〆切が近いと言っていたからな……無理ないように、して欲しいが。
「良也くんっ!!あなたわたくし達の争いをただ見てるだけとは何なのです……か……」
俺を怒鳴るのをやめて、頬を赤く染めながら手を伸ばしてくる。……どうゆうこと?
「察しが悪い人ですわ!!あの、その、わたくしがハグしてっあげると言ってますのよ!?」
「言っては、無いだろ。……どうしてだ?」
「ふん。そんな顔されたらぎゅっとしてあげたくなります。わたくしは、貴方の……妙に自信があって、強かな部分を、好きになったのです。
変化には気付きますし、支えたいとも感じていますわ」
……はぁ。出来た婚約者を、俺はどれだけ持ってしまったのか。
隠せない俺も俺だが、見抜くのも凄いと思う。
でもそれは俺を思っての事で。
「ありがと、きらら」
「お礼は、良いですから。ほ、ら。さっさと済ませますわよ」
「……おう」
抱き締めると嫌でもすぐに胸板で潰れる二つの大きな柔らかいものに意識が根刮ぎ奪われて行く。
「良也くん」
「な、何だ?」
「鼻息、凄いですけれど」
「……きららとぎゅーして、興奮したのかな」
「……なら、許します。わたくしで、して下さったのなら」
きららの身体を名残惜しく離すと、頬を膨らませる。初めて見せる可愛げのある姿に思わず吹き出してしまった。
「なっ!?なんですのー!!」
「いやっ……ふふっ、可愛いなぁって」
「いっ今更ですわよ!?わたくしを誰だと思っていますの?」
「……少し強がりで意地っ張りで、それでも可愛げがあって……大好きな俺の婚約者だよ」
「ーーーーっ!?」
声にならない叫びを上げて、きららはふらふらと歩いて行ってしまう。
……はは。本当に、目ざといというか。
一人一人に励まされてしまって、少しずつ心が癒されて行くような感じがする。
……俺はふと見えた弓月の背中を無意識に追った。




