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『2』時を越えて

時間は、もう日付が変わる頃だった。

全く、本当に全然触れてはいなかったけれどもう夏休みも近く夜でも少しの暑さを感じてしまう。

それよりも、今はひーたんに会いたい。



丘の上の公園には展望台があり、そこからこの加賀美市を見渡すことが出来るような場所でよくカップルのデートスポットとして利用されている。

が、時間も時間だ。誰もいないだろうから、ひーたんと話すのに丁度いい。



記憶を頼りにひーたんの家に走っていると、少し離れた場所で小さい人影が俺に手を振っていた。



「りょーたーんっ」


「ひ、ひーたんっ!!!!」



駆け寄って、汗だくなのも忘れて抱き締める。

生きてる、死んでない。冷たくないし、温かい。

それだけで涙が溢れ出てくる。

服を濡らす涙に気付いたのか、ひーたんは優しく頭を撫でてくれた。



「何だか、よくわからないけど。

大丈夫だよ。りょーたん。わたしはここだよ?」


「うん、うん……!!」


「えへへ。何だろう、夢みたい。りょーたんがこんなにわたしを思ってくれてる」


「俺も、夢みたいだよ。ひーたん」



手を握って、何度も確かめる。うん。ここに居る。



「ここじゃ、駄目なの?話って」


「駄目じゃないけど。来てほしいな」


「……うん、わかったよ」



手を繋いだまま二人で歩き出す。

不思議と展望台まで俺とひーたんは一言も交わさなかった。

でも、何だろう。この空気、ヤンデレ特有の肺に重くのしかかる物じゃない。ふわふわとした、心地良さを感じる。



「着いたね」


「うん、はは。暗いや」


「だねぇ……でも、星は綺麗だよ?」


「本当だ……ねぇ、ひーたん。俺は、夢を見たんだ」



実際に見たとは口が裂けても言えない。

ならこの切り口しか俺には思い浮かばなかった。



「君が、死ぬ夢だ。自分で、自分を殺して」


「うん」


「俺は、泣いて悲しんで、無力だって思い知らされて、みんなを幸せになんて息巻いて。

ひーたんを、死なせてしまった」



ベンチに座りながら、ただひーたんは黙って俺の手を握ってくれていた。どんな表情なのかは一つしかない街灯の下で話しているからか、暗くてよくは見えなくて。



「だから俺は心配で、来たんだよ」


「あはは……凄いねぇ夢って」


「……ひーたん」


「もう少しで、正夢だったね」



冗談でもなく、ただ俺から視線を外したままそう答える。それが本気だと知っているからこそ俺も反応を素直にできなかった。



そして、ひーたんは重い口を開く。

聞けなかった事を俺も聞かないと、一杯あるんだよ。生きている君に。

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