『1』ヤンデレの為に、前を向いて
ひーたんの家から出ると、うららが居た。
俺を心配しているのだろうか視線に優しさが感じられて、微笑みで返す。
「あの、良也、さん」
「大丈夫だよ、うらら」
「そうですか。好きです」
「うん、大丈……ん?」
今、さらっと告らなかった?
そんな軽ーく言う?他の、まぁ攻略対象達は一大イベントだったからアレだけれど。
すっげぇさらっと……流石うららと言うべきなのか。
「うらら?えっと……告白した?」
「え、はい。忘れてたなーって」
「ああ、そっか」
「はい、それで返事は?」
「あ、俺も好きです」
「はーい。じゃあ、これで公式カップリングですね?」
「うーんちょっと意味が変わってくるなぁ……正式にカップルで、いいんじゃないの?」
「アベックですね」
「それ死語だから」
とか、いつものように振る舞う。
思ったよりも難しい。誰かを忘れようと、努力するなんてのは初めてだから。
「良也さん。どうしました?顔がくるぶしみたいにくちゃくちゃです」
「初めて聞く表現だ!!……ごめん、少し考え事してた」
「わたくしとの将来ですよね、わかります。
これで日本の経済は全て良也さんの手の上ですね」
「え」
「千堂院家の跡取りというのはそうゆうことですわ」
……そっか、娘二人と婚約しているわけだから。
俺が財閥のトップに?いやいや、無理無理。
表情で心情を察したのか、うららは俺の手を取って恋人繋ぎをしてくる。
女の子の手って小さくて、何だか全然違う。緊張、してしまう俺にうららは優しい声で語りかけてくれた。
「大丈夫ですっ!!わたくしも、きららも。それに良也さんには沢山のお嫁さんが!!
これで頑張れない訳はないでしょう?」
「そう、だな。みんなの人生、幸せにしないと」
「そうですその意気です!!これから、もっと大変ですよー?わたくしときららの婚約者候補が次から次へと挑んで来ますから」
「え、マジ?」
「はい。眠れない毎日をお過ごし下さい」
「ははっ。頑張るよ」
角を曲がる前に、ひーたんの家を振り返って目に焼き付ける。俺が救えなかった彼女の家を。
でも、思い返すのはこれが、最後にする。
少しでも思い出すと心が壊れてしまいそうだから。自分や、誰かを逆恨みする事だけは避けないといけない。
そんな歪んだ末路は、絶対に。
俺は踵を返して歩き出す。うららは俺の横顔を見て、笑顔を作り横に並んだ。




