おじゃまします、ヤンデレ
目を開けると自分の部屋だった。
窓の外でこっちを見つめるひーたんを横目で確認して死角へと逃げる。
「っだぁ!!!!!!」
行き場のないなにかを叫んで発散する。
まぁ、それでは消えないけれど。選ぶ選択肢はもちろん『見て見ぬ振り』で。これでとりあえず弓月の死亡フラグは回避出来た。
もっと適したひーたんとの遭遇を狙わたいと行けないのか。それはまたシビアな状況で。
「りょーたん」
そう、こう呼ぶ彼女をどうにか手綱を握れるようにしないと。少しでも不安を感じたら周りも自分も殺しかねない。
「りょーたんっ」
忘れようにも忘れられない。笑顔で弓月と俺を殺したあの可憐な女の子を。
「りょーたんっ」
そうそう今俺の目の前にいる女の子……て!?
「ひーたん!?」
「そう。ひーたんだよぉ。えへへ」
「な、んでここに?」
家の戸締りは確認したはず。ヤンデレが攻め込んで来ないように用心してたはずなのに!?
「合鍵だよぉ」
「う、わーお」
そこまでだとは想像出来なかった俺の乏しい脳みそのバカ!!新たな、展開だ!!
油断するなよ俺。目の前で可愛い微笑みを見せてる女の子はさっきのターンで俺と弓月、そして自分をも殺した奴だぞ!?
「ねぇ、りょーたん?」
「な、ぁに?」
「好きだよぉ。だーい好きっ」
「へへぇ」
照れんなよ!!今までこんな真っ正面から可愛い子に告られた事ないんですよ!!しょうがないしょうがないっ!!
赤くなった俺を見て、柔らかく微笑む。
「えっとね、わたしね。りょーたんに聞きたいことがあってね」
「お、おう。何でも聞いてくれ」
「優しいなぁ、りょーたん。こほん、問題です」
問題!?聞きたいことって問題!?
それは聞いてほしい事ではないのだろうか!?
心の中でツッコミを入れてる場合か俺。この問題は恐らく重要なんだろう。
自分の命と、ひーたんの命を守る為だ。
真剣に考えろ俺!!
「わたしはりょーたんのどこが好きなのでしょうか。えっと五個答えてくださーい」
「がっ」
学校でイチャイチャカップルがやってるクッソくっだらねぇと思っていた謎のクイズが俺にキター!!!!
知らないよ、自分の魅力を答えなさいみたいな恥ずかしさ満点の質問ですね!!
息詰まった俺を見てカッターをカチカチしないで!!そういうのを世の中では脅しって言うの!!
「か、かっこいいところ」
「うんうん。正解っ」
「優しい、ところ」
「そうゆうところ大好きなんだあ」
「……か、顔」
「運命感じたよぉ」
「気が、合うとか?」
「ベストマッチだねぇ」
殺すなら殺せっ!!恥ずかしくて恥死するわ!!……恥死ってなんだよ!?
……恥ずかしいノリツッコミをしている場合か。精神力をすり減らしてなんとか四つは当てたけど。他にあるか?俺なんかに目を向ける理由。
「ぶっぶー時間切れです」
「マジか」
笑いながら、カッターを太ももに突き立てる。
思わず呼吸も止まる突然の痛みに頭がフリーズする。
「わたしのことを好きなところでしょ?なんでわからないの。好きな人のことは全部わからないと、いけないんだよ。覚えてねりょーたん。わたしを知って?わたしのことを考えて?」
「わ、わかった。ごめん、な」
「いいの。りょーたん。今、手当てしてあげるね」
それから、弓月と深鈴が帰ってくるまでひーたんは俺にカッターをチラつかせながら手を繋いだり、恋人らしいことを強制させた。
満足したのか窓から飛び降りて行く様を見て、心臓が鼓動を思い出したように高鳴り出す。
「生きた心地がしないってこのことか」
良かったぁ。体力も、もう大丈夫。包帯を外すと血は止まり傷は塞がっていた。化け物だなぁ普通に。
「お兄さん。ただいまです」
「おかえり深鈴」
「……お兄さん」
「ん?」
「女の匂いがしますね」
生きた心地がパート2!!!!
そのあと俺は死なない程度に刺されながらなんとかうやむやにすることで生き延びたのだった。