ひと段落だねヤンデレ
深鈴がすっと実印とペンを出してくる。
用意周到、ね。……婚姻届って初めて見た。しかも五人名前の書いてあるやつ。……って駄目だろ。
枠はもう一つある。そこを埋めないと、俺は本当のクリアを迎える事は出来ない。
「ちょ、っと待って。もう一人、居るから」
「なんですって?」
あぁー殺気がめちゃくちゃ痛いくらいに肌を刺してくる。ただ、その中できららだけは呆れたような微笑みを浮かべていた。
「日比野陽菜さんね?」
「そ、そう。彼女もだ」
「え?なんで良くんその子にだけ積極的なの?ボク達の求婚は首を傾げていたのに?なんでなんで?ねぇわかるように説明してよ」
句読点入れて喋ってよ怖いから!!
理由を説明しようとする俺の口を、きららが手で塞ぐ。そんなことをしたら喋れませんが。
「皆さん、聞いてください」
「さっさとしてよ、きらちゃん」
「日比野陽菜、彼女もわたくし達と同じですわ。
壊れて、歪んでいるからこそ、良也くんが必要なのです」
壊れて、歪んでいる。自覚してたんかい。
……完全攻略したヤンデレ達はダメかセーフかの線引きが少し出て来たからか。それぞれ凶器を仕舞う。
「良也くん。今日は様子を見て入院なさって。
明日、日比野陽菜のお宅の住所を教えますわ」
「ありがと、きらら」
「どういたしまして。では、皆さん。その、わたくし話がありますので」
随分と素直に出て行くんだな。
病室には俺ときららだけになり、一気に静けさを取り戻す。……あっと、話とは。
「良也くん。わかっていますね」
「ん?何が?」
「はぁ……そこまで鈍くて、良く生きてこれましたわね。ここまで来たんですのよ、わたくし」
「うん」
「つまり、ですね。その」
きららの過去は、寝ている時に見た気がする。振り返るきららの横で客観的に見ていたと、思う。
俺は、奴等のような家柄で人を見る奴じゃない。いくら大財閥のお嬢様だろうが、うららときららは俺の友達で、その、婚約者だ。
「あなたの、ことが」
袖を握って、俯き頬を染めながら微笑む。
思わず見惚れてしまうが目は逸らさない。今は、真っ直ぐきららを見つめる。
「す、好きれすっ」
「……きらら?」
「言わないで下さいっ!!今、わたくしは別に噛んでないし!!違いますわっ!!」
「はははっ……大丈夫、伝わってるよ」
「ううー笑わないで欲しいですわぁ!!」
『excellent!!貴方はヤンデレ双子姉妹『千堂院うららときらら』を完全攻略いたしました。これからは『千堂院うららときらら』に殺害されても残機は減ることはありません。
残機を五体減らし、『千堂院うららときらら』の復活リボーンシステムを実行しますか?』
姉妹セットなんだな。勿論、実行する。
これで残りはひーたんのみ。
一番の砦を最後に回すことが果たして凶なのか吉なのかはわからないけれど。とりあえず、ひと段落。
「ね、ねぇ良也くん」
「ん?」
「その、皆さん退室したことですし」
「うん」
「とりあえず既成事実を作ってよろしいですか?」
「うーん、よろしくないねぇー」
ひと段落は、もう少し先のことのようだった。




