目覚めたら、ヤンデレ達
「ん」
目を開けると、深鈴が居て瞳が合うと涙を流し始めた。え、え?何した俺!?
記憶を洗ってみる。えーと、水族館でうららのパーティに襲撃されて……ん、その先が無いな。
抱き付いて俺が着ている病院服を大いに涙で濡らしている深鈴に聞いてみるとしよう。
「深鈴?俺、どうしてたんだ?」
「もう、お兄さんたら!!心配をかけないで貰えますか!!わたしは、一人になっちゃうと、お兄さんが居なくなったらわたし……」
「ご、ごめん、深鈴。何がどうなってるんだ?」
「わかりませんの?良也くん」
「……きららと、弓月も。ここまで揃ってるってことはよっぽどだったんだ」
身体をよく見てみれば点滴や心電図、色々身体に付いていた。残機は、減ってない。34のままということは死んではいないようだ。
「冠水状態でしたのよ、良也さんっ」
「お姉様、根菜状態ですわ」
「うらちゃん、きらちゃん。昏睡ね?」
うらちゃん、きらちゃん!?
仲良くなってるの!?俺の記憶だと二人はヤクザの抗争も真っ青な空気だったのに。
今じゃあ、友達になっているように、見えるが。
「お医者様の話だと、脳に負担がかかっているらしいですわ。特に記憶を司る部分に」
「何かっ……すん、思い当たることはありません、か?お兄さん」
「あーと」
あり過ぎるわ。
多分この死に戻りを繰り返している事によって蓄積された記憶が負担をかけているのだろう。『俺』が石動良也になる前の記憶もたまに流れ込んでくるし……はは、知らない間にそんなことになっていたとは。
「わかりませんな」
「ふざけましたね」
「「ふざけましたわね」」
「ふざけんな、良也」
一斉攻撃怖いよぉ。
でも、誤魔化す以外にないだろう。
俺はお前ら全員と付き合って、自分の人生に戻りたい。なんて、言えるわけがない。
例え口が裂けても。
「三日も寝たきりでしたの……あんまり寝るもんですから、皆さんと和解してしまいましたわ」
「和解?」
「大丈夫ですよ、お兄さん。
わたしは皆さんを殺したりしませんから」
「あたしも。そうしたら、良也がまた倒れちゃうからね」
「わたくしは特にそのような感情はありませんので普通に結婚してくだされば」
「わたくしは、ありますが。もう、こんな気持ちは懲り懲りですからね」
女の子同士で何を話してどう仲良くなったのかは、知らないけれど。とりあえずカーテンやら床やらに掃除し切れてない血痕があるのは、見なかった事にしておく。
「あれ、心は?」
「彼女は、優秀です。今はこの全員分の結婚に必要な資料を集めて貰っています。その内帰ってくるでしょう」
はぁー!!マジかっ!!
と言うことはみんなヤンデレじゃなくて共存出来るヤンデレになったんだー!!やったぁー!!
万歳したい感情を抑えきれない俺の前に、深鈴が一枚の紙を差し出してくる。
「これは?」
「わたし達の契約書です」
「契約書……」
目を通して行くと、ふむふむ。うらきらで俺達専用の家を用意してくれるのか。そんな色々な決まりが書いてあって。
そして、目を止めてしまったのは最後の項目。
「……これ、って」
「あ。気付きました?」
そこにはこう書いてあった。
『花嫁同士の殺害は禁止。ただ半殺しまでなら可とする。病院に搬送後死亡した場合は、離婚する事』
半殺し、って。何だよ、それ。
「お前、らっ!?」
言葉が、喉でせき止められる。
俺は何を見ていたのか。仲良し、なのではない。
全員の笑顔の裏に、気付いてしまう。
半殺し、じゃあ済ませない。
そう書いてあるのがわかった。
俺と居たいから、仲良くしているのか。
殺意を抱いても、俺と居たいから。俺と結婚する為に、耐える事を選んだ。
「お兄さん。わかりましたか……?」
「なにを、だよ」
「覚悟ですわ」
「そ。ここまでするんだもん。
一緒に居たいから、邪魔を残して『あげる』んだよ?殺したら良也悲しむしねぇ」
安堵した俺は大馬鹿だ。
こうして、結ばれる事になる。
恐らく日本で最初で、最後の多妻婚約が。




