恨めない。ヤンデレ
「とりあえず、結論。
あたしのお母さんは、お父さんを病院送りにして、別れたの」
「は、はぁ?いや、そんな……弓月の、ご両親……」
ここで記憶が頭に流れ込んでくる。
そう言えば、いつからか。弓月のご両親を見なくなっていた。授業参観や運動会など、俺と深鈴と居ることがほとんどだった。
仕事で忙しいんだなぁ。と思い込んでいたし、聞くこともしなかった、が。
「お父さん、浮気してて。まぁそれの報復だよ。
寝ている時にハンマーやらで叩いて、壊した」
ハンマーやら、か。
不謹慎な事を一瞬でも考えてしまった。俺は酷いやつだと、自分を責めて。震えながら話す弓月の手を取る。
「ありがと。あたしは思ったんだ。
壊したお母さんよりも、浮気して裏切ったお父さんが悪いんだって。
壊される理由を作ったのが、悪いんだ。好きな人を裏切るから悪いんだ。よそ見するから悪いんだ。離れようとしたのが悪いんだ、って頭の中がぐちゃぐちゃになるくらい考えちゃった」
その時か。
弓月が歪んでしまったのは。
「だからずっと良也が他の女の子と絡んでると許せなかった。あたしを裏切った、よそ見した、離れようとした。だから、許さない」
それは、身に染みてわかっている。
何度も何度も、この身に刻んだ事だ。
「でもね。良也。聞いて」
「聞いてるよ、大丈夫だから」
「あたしは、あたしは。
良也を恨みたくなる程好きだった。もう、良也しかいない。あたしを見て離さないでいてくれるって信じて信じて」
強く、手を握る。
俺は握り返さず、ただ心のままに話す弓月の言葉を受け止めた。逃げずに、視線を逸らさずに。
「殺したくなる時もあった。それが、あたしの普通だった。けど、もう駄目だ。
あたし、傷付けたくないんだ。
良也が好きだから。傷付けるより。一緒に居たいよ」
大粒の涙を流す弓月に、思わず身体が強張る。
弓月が泣いたのを記憶の限り見たことはなかったから。
反射的に抱き締めて、声を上げる弓月の涙を拭うしか出来なくて。
「良也、大好き、大好きだよぉ……!!
一緒に、居たいよぉ……」
「一緒だよ、俺と弓月はずっと一緒だから!!
大丈夫だから、な?」
「うん、うんっ!!」
『excellent!!貴方はツンヤンデレ幼なじみ『柏原崎弓月』を完全攻略いたしました。これからは『柏原崎弓月』に殺害されても残機は減ることはありません。
残機を五体減らし、『柏原崎弓月』の復活システムを実行しますか?』
当たり前だろ。
俺は、弓月をもう離さない。




