ヤンデレは、愛の為なら。
ボクらは庶民らしく、頑張って動きながら色々なアトラクションに乗ることが出来て。
きららさんの笑顔を見ると、楽しんでいるのがとても良くわかる。良くんもいつも通りツッコミやらなんやら忙しそうではあったけれど。
うん。いつもの、ボクの好きな良くんだ。
「並んでてくれ!!なんか、軽食買ってくるわ。並ぶの三十分くらいなら食いきれそうなの!!」
「ありがとう、良也くん。領収書を貰っておいてもいいですのよ」
「いやぁー!!なんか場違いになる!!払うよー!!」
駆け出して行ってしまう背中を二人で見送って、微笑みを向けていたきららさんに視線を戻すと咳払いで誤魔化された。いやいや、どう見ても今のは恋する乙女の表情ですって。
「楽しい、ですわね。心」
「はい。こうゆうのも、いいですね」
「お姉様が来れなくて残念ですわ……」
「えっとフェンシングの大会ですね」
「まぁ優勝でしょうから……だと、言ってもほんの少し痛みます」
「……きららさんも、ですか」
うららさんは初めて出逢った時に、もう良くんの事を好きになっていた。
真っ直ぐに接してくれる、特別扱いもなくただ女の子として見てくれる。そんな視線とあの笑顔にやられてしまったのだ。
だからこそ、ボクときららさんは良くんを軽い気持ちで近付かせまいとした。
ボクときららさんの大事な人を、傷付ける可能性はゼロじゃなかったから。
ミイラ取りがミイラとは良く言ったもので。
うららさんが好きな男を監視し、関わり、話して、触れ合っていたら好きになっていた。
誰かを大切に思う気持ちにブレーキが効き辛くなるように、誰かを好きになる気持ちにも歯止めがかからない。
「どうしましょう、ね。わたくしはお姉様と、貴女にも幸せになってほしいのよ」
「ボクは、お二人の幸せを願っています。叶えます。だけど、望んでしまうのも、確かです」
「平行線ね。多分お姉様はわたくし達の幸せをと言ってくれるでしょうし」
考えれば考えるほど、沼にはまって行くような感覚に襲われる。
列も動き、来るはずの良くんが少し遅いなぁと思い始めた時だった。きららさんが手を打ち、なにかを思い付いたかのように微笑む。
「そうですわ。責任取って貰いましょう」
「責任、とは?」
「わたくし達をたぶらかしたのは事実です。
ですから、わたくし達を幸せにして貰いましょう。ちょっと、待ってくださいね」
「ど、どうするつもりですか?」
「法律を、変えます。
お姉様とわたくしと心が幸せになる為に、一夫多妻にでもしましょうか」
どこかに電話を掛けようとするきららさんを止めることが、出来ない。
頭のどこかで何て提案だ。と浮かびながらも、否定出来ない声が響く。
幸せになれるなら、法律くらい。大切な人の為なら、法律くらい。
そうゆう声が、頭の中に響き渡る。
「まぁ、もし幸せにしてくれないなら。死んでもらいますけどね」
「……そりゃあそうですね」
「命を賭けて愛して貰いましょう。
良也くん、ふふふふふふふふ。逃がしませんわ」
こうして、日本の法律は変わったのだ。
ある一人の男性に愛して貰い、幸せにしてしまう為だけに。
ある種、歪み切った愛情で。
良くんの人生は、狂い変わって行く。




