りょーたんとヤンデレ
息を整える。相手は、ヤンデレだ。集中して急な攻撃にも対処出来るように。ただ傷付けるなよ俺。それが男としての最低限のマナーってもんだ。
偶然を装え……!!相手はまだ俺の部屋を凝視してるぞ。
「すいませんっ」
相手からのコンタクト!!
落ち着け、俺。これくらいは想定内だっ!!
「なんべしょり」
噛みまくってるぞ!!落ち着いてないし、想定内でもなさそうね!!
日比野さんはじぃっと俺を見て、可愛く普通の子のように笑った。思わず見入ってしまうと恥ずかしそうに視線を逸らす。
「あの、わたし。日比野陽菜っていいます」
「あぁ、俺は「石動良也さん。ですね」
当たり前のように名前を言ってくる。
まぁ、そりゃあ知ってるよな。これは、驚かない。
「わたしのことは陽菜、もしくはひーたんとお呼びください。お呼びくださいなんてやだぁまるで付き合いたてみたいじゃ、ないですかぁ。わたし的にはひーたんと呼んでくれるのがやはり可愛さがありますからその方が嬉しいですけれど。そうしたらわたしも良也さん、よりもりょーたんと呼んだ方がいいですよね、いいよね。そうだよね。クラスは違うけれど同じ学年だもんね、敬語は良くない。距離が出来ちゃうから。距離はいらないもんね、わたしとりょーたんの仲だもん。それにしてもりょーたん今日は学校お休み?いつもみたいにあのド腐れ占い女と一緒に行くのかなぁって思ったのに出てこなかったから心配で心配で心配で心配で心配で心配で、仕方なかったんだから。体調悪いの?気分が悪いの?誰かに何かされてるの?何かあるなら言ってね?わたしはりょーたんの為なら何でもするよ。誰でも殺してあげるからね」
「おうっ」
じゃねぇよ!!半端ねぇな!!何というか重いというかこの質量と圧と思い込みというか、でも何だろうこれぞ!!だね!?本当にそうなんだね!?
ひーたんと、呼ぶしかないんだろうな。命が危ないし。ひーたん……黒髪のボブカットで、顔はただただ可愛い。小さめの身体は守ってあげたくなるような……こんな普通に可愛い子がやべーいなんて。
「良也?」
背筋が凍る。油断大敵だ。
まさか戻ってくるなんて思わないだろう。
振り返ると、弓月が金属バットを持って虚ろに佇んでいた。
まともに弓月の姿を見たのは、初めてなのにこんな恐怖映像でお届けしていいものか。
赤い髪が夕日を受けて輝き、その鋭い瞳には闇を感じる。細く引き締まり出るところは出ている、そんな美少女が金属バットを持って俺を睨みつける。
「なんで、出てるの?」
「いや、その弓月。これはえっと」
「あれだけ、言ったのに「うるさいよ、ド腐れ」
一瞬のうちにひーたんは俺の後ろから駆け出し、弓月の一撃を躱してひゅん。と何かを一振りした。
「りょーたんを傷付けないで。わたしの運命の人……わたしの将来を捧げる人……幼なじみだから大目に見てたけど」
弓月の首から確実に致死量の血が吹き出す。
手で抑えようとも動脈を切られているのか止まる気配はない。
「りょーたん。大好きだよぉ」
血に塗れたカッターを仕舞いながら、弓月の血を浴びて。
ひーたんは確かに妖艶に歪に笑っていた。