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弓のように、月のように
気持ちを、伝えてしまった。
隠していたものを。なんだか胸の奥にずっとあったもやもやが晴れて行く様な感覚に包まれる。
「はぁ。やりすぎたかなぁ」
良也は虚ろに返事してた。脳震盪やらなんやらでまもとにあたしの告白を聞いていたかもわからいけれど。伝えた、んだよね。
練習してた武術も役に立ったし、今度手取り足取り良也に教えてあげよう。あたしと同じことを共有してあたしと同じ気持ちにさせるんだから。
それにしても、モテすぎだよね。あの鈍感は滅多な事じゃあ擬似ハーレムだってのにも気付く事はないとは思うが、それはそれで、もどかしいなにかを感じてしまうのは惚れた弱みだろう。
「ま、負けないし引かないんだけどね。
誰が相手だろうが。真っ直ぐ、真っ直ぐ進むんだ」
誰でもなく、自分に言い聞かせるように呟く。
頑張れあたし。頑張れ。
お母さんとお父さんが付けてくれたこの名前のように。
弓のようにしなやかに、月のように綺麗に生きる。
それが、三日月の夜に生まれたあたしの、大好きな名前の由来だ。
「さて、と。女子力でも磨くかー」
あたしは身体を伸ばしながら、筋トレへと向かったのだった。




