ここから始めよ?ヤンデレっ
『excellent!!貴方はヤンデレ付人『伊澄心』を完全攻略いたしました。これからは『伊澄心』に殺害されても残機は減ることはありません。
残機を五体減らし、『伊澄心』の復活システムを実行しますか?』
当たり前だろ。五体くらい軽いもんさ。
……完全攻略ということはだ。今、伊澄は俺にデレている訳で。よし、名前で呼んでみよう。
「心」
「……っ!?ちょ、良くん。止めて。今自覚してすっごい恥ずかしい時だから。言ったことを後悔してるくらいだから」
「こーころっ」
「どっかで聞いたようにやってもダメだから」
「伊澄?」
「あ、なんだろうちょっと傷付く。やっぱり名前で」
「こーころ」
「いや、ちゃんと呼んでよね」
手を取って、目を合わせて。
自分で自分の本当にやりたいことを選んだ心とちゃんと、向き合う。
「心」
「恥ずかしいわっ!!」
「どぐべっ!?」
鳩尾を息もつかせぬ三連突き!?
吹き飛んで、壁に激突する俺に慌てて手を伸ばす心。反射だよね……?そうだよね?
「……ごめんね、良くん。そんなつもりは」
「大丈夫、だよ。お見事だわ」
「でしょ」
「褒めてねぇよ皮肉だよ」
「もう一回行く?」
「さーせんした」
……心はヤンデレの中でも異質な感じだ。
誰かが好きだから、その人の為なら何でもござれじゃなくて。大切な人だから病的なまでに固執して害なす全てを振り払う。
深鈴とかとはベクトルが違う。でも、害が及ぶなら腕を折っても壁に頭を何十回も叩きつけてもいとわないのだから、まぁ病んではいるわな。
「……良くん。手、握って」
「お、おう」
「お嬢様に、連絡する」
「わかった。うららにしといた方がいいんじゃないか?あっちならまだ沸点高そう」
「どっちでも、同じ。ボクは初めて、この今日。君の為に命令を遂行しなかった。出来なかったじゃない、しなかったんだ。
それを言われて、どうなるんだろう。ボク捨てられ?……どこに、行ってどうすれば?ボクはどう生きていけば?」
大切な人を失うと考えた時のこの動揺はみんな似たような感じなんだな。
震える手を、ぎゅっと握って心に声を掛ける。
「大丈夫だよ」
「根拠は?」
「ない。でも、何とかなるよ大丈夫」
「はは。全く、元気でたよ」
携帯を取り出して、電話をかけるとすぐに出た。
『わたくしよ。どうしたの、心。良也くんの了承は得たんでしょうね』
きららじゃねぇかー!!
テンパって間違えた。とジェスチャーされる。
とりあえず言うしかねぇよ!!と口パクすると頷いて。
「きららお嬢様っ!!」
『何かしら』
「あの、ボク。良くんが好きです。だから、答えを、了承を得ることが出来ません。ごめんなさい」
『ふぅーん。そっか』
それだけ言って、きららは黙ってしまう。
涙目になる心の髪を撫でると照れ隠しかハイキックでぶっ飛ばされる。お見事パート2!!
『仕方ないわね。はぁ……落ちすぎじゃない?
わたくし達これで全員じゃないの。そんなに魅力がある訳でもないのにね、あれ』
あれ……って。
「でも、その。真っ直ぐで、嘘がない人です」
『心』
「はい」
『思ってること、言えるようになったのね。
お姉様といつも考えていたわ。あなたはあの日以来、心を閉ざしたから』
優しい声のきららに、心は涙を流していた。
隣に居る俺まで涙腺崩壊直前なんですが!!
『良かったわ、心。
正直なところ言ってしまうとね。わたくし達は、あなたと腹を割って話したいことが沢山あるのよ。あなたの意見を、あなたの口からね』
「お、お嬢様っ……」
『それも、止めよっか。わたくしはきらら。せめてきらら様くらいから始めよ?』
「は、はいっ!!きらら様っ」
「うおぉおお!!!!感動的だああぁああっ!!!!」
「良くん!?」
『って良也くん居るの!?』
慌てて向こうで電話を切ったようだった。
俺、弱いのよ。こうゆう家族の、絆系のやーつ。
冷たい目で俺を見る心をよそに、俺は数分間泣き続けたのだった。




