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望む心

前とは、違う。その事実はすぐにわかった。

深鈴の時は記憶を追体験するような形だった。が今は、第三者としてその記憶を『見ている』。色々なパターンがあるんだな、と胡座をかいて見ていると。



その女の子が、伊澄だとわかる。

雪が足首まで積もっているのに裸足で、服も雪の降るこの夜じゃあ心許ない薄着だった。

手を伸ばそうにも空を切るばかりで、助けられない。……てか記憶だから大丈夫か。



幼い伊澄はじぃっと門を見て、ゆっくりと白い雪に倒れて行く。

ぴくりとも動かないその身体を見て何も出来ないと知りつつも、思わず動悸が激しくなる。



「大丈夫ですの!?」



少女に誰かが駆け寄った。

雪の中でさしていた傘を放り投げて、高そうなドレスが雪で濡れる事も気にせずに膝をついて伊澄を抱きかかえた。



「あなたっ!?大丈夫ですの!?こんな、雪の中で……一体……」



被っていたフードを取ると、その誰かは幼いうららで。携帯で誰かに連絡を取っていた。



「一度でいいから、したいことをしてみたかった」



伊澄の呟きと同時にフラッシュバックする。

借金だらけの両親に命令され、遊べずしたいことも出来ずに結局二人は事故で亡くなった。一人残された伊澄は、途方に暮れ彷徨いまるでお城のような憧れの場所を見つけたのだ。



「きれいでいいなぁ。したいことをできるんだろうなぁ。つらいこと、ないんだろうなぁ。

しにたいなんてかんがえないんだろうなぁ」


「あなた、諦めてはいけませんわ」


「そうよ。わたくしたちの家の前で死なないでくれるかしら?」


「きらら、言い方が悪いですわ」



変わらず育ったんだなぁ。

きららも膝をついて、力を無くした伊澄の手を握る。



「今はしたいこと、あるんでしょ?」


「そうです。あなたがしたいことをわたくし達はしてあげられます」


「……きたい」


「はっきり、言うの」


「生きたいよぉ……死にたくないよぉ……」


「「聞き受けた」」



待っていたように白衣の大人が数人伊澄を抱えて走って行く。

……この後、助かったんだろうな。今があるという事だし。良かった良かった。



そして季節は過ぎて、体調も戻り健康体となった伊澄はうららときららに土下座していた。



「わたしを、おじょうさまがたにつかえさせて下さい」


「ちょ、あなた?なんの真似ですの?」


「いのちの、恩人。死んでたはずなのに生きてる。いのちをかけておれいしたいの」



真剣な、伊澄の瞳にうららは頷いていた。

それから色々と訓練を行い、伊澄は成長していった。今まで出来なかった分やりたいことを。



わたしの、いや。ボクの人生を掛けてお礼をするんだ。



一番のしたいことは、してもらった。生かしてもらった。

これからは望まず考えず、お嬢様方のしたいことがボクの望み。



命を掛けて。

お守りいたします。

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