雪と、ヤンデレ
目を開けるともう腕を取られていて、正直俺の技術と力じゃあ伊澄には勝てはしない。このホールドを力でねじ伏せるのも難しいだろう。
と、目の前に現れた選択肢に変化が生じていた。
さっきまで無かったはずの四つ目の選択肢が現れていたのだ。
こんな展開は予想してなかった。さっきの死んだターンの中で、何かフラグが広がるようなことがあったという事なのか。
まぁそれは最後に伊澄が呟いた言葉だろうけど。
『伊澄はどうしたいんだよ』という選択肢を選ぶ。これで、どう転ぶよ。さっきみたいには行かせないぞ。
「ボク、は。お嬢様方の幸せを願ってるさ。
それがボクの存在意義で生きる目的だ」
「それは、千堂院家の幸せだろ?
お前の『伊澄心』のしたいことを、聞いてんだ」
「ボク、のことを何も知らないだろ。軽々しくそんなことを言うなよ……!!」
「ああ。知らないさ。でも、俺には無理してるようにしか見えないぜ」
「う、るさいよっ!!」
伊澄が腕に力を込める。骨の軋む音を聞きながらも、俺は続ける。自分の事を、他人より優先させて自分を殺すような事を俺は認めるわけにはいかない。
「自分の気持ち、言ってみろってのっ!!ぐ、あっ……痛え、けど。折れないぞ……」
「折れるよ。てか、折るし」
「腕じゃねぇよ。心だ、精神の話」
「出会った頃からそうだよね、良くんは。
弱っちくて、何だか掴み所がなくて、純粋に友達になろうとうららさんに近付いて。
そんな君にいつしか憧れていたよ。ボクとは違う。ちゃんと心を持って、生きているそんな君に」
心を持って、だ?
次の瞬間、強烈な目眩と頭痛が襲う。
頭が割れそうに、痛え。これは、深鈴の時と同じ……!?
俺の意識はどこかに飛んで行く。
見えた景色は、雪が舞っていて。
巨大な豪邸の門の前に少女が一人今にも倒れそうな程虚ろに佇んでいた。




