知ってる?ヤンデレの実は
ヤンデレってのは本当に神出鬼没だ。「じゃ」とだけ言って帰って行く伊澄。もう今日は濃厚な一日だったし、よっぽどのことが無い限りは驚きやしない。
「……とは言っても、一人は寂しいのであった」
「そうっすよねぇ」
俺が座るベンチの横に、いつの間にか緑のロングヘアにヘッドホンを付けてにやにやと笑う眼鏡の女の子が座っていた。……面識は、無いはずだけど。
「どもども。センパイ、木森林っす」
「あっ……クセ名字の」
「それ本人前にして言います?けらけら」
「んで、何用」
「集金っすね。前の情報代三万」
なるほど。そうゆうことならしっかりしないとな。財布を開くと諭吉どころか紙幣が見当たらなかった。
……そう言えばこのモールで私利私欲を満たしまくった記憶が……。
表情から察したのか、木森林は頭を抱えてから俺を見つめてくる。
「うへーマジっすか。金欠さんっすね」
「そうっすね……」
「それじゃあチャンスあげるっす。
今から言うことに驚いたり反応したら、負けっすからね」
平常心でいろと?そんなこと俺にはお茶の子さいさいさぁ。見てろよ、クセ名字。俺のポーカーフェイス、そしてクールな主人公の煌めきを!!
「妹さん、基本毎日告白されてるっすね」
「あとでリスト作って送れ。そいつらに兄の天罰を下してやる」
「うへーシスコンキモ怖いっすわー」
はっ。つい怒りを露わに……だが無表情だったしセーフだろう、うんセーフ。
木森林はにやけて「次っすね」と続ける。
「幼なじみさん。ファンクラブあって、プロマイドは高額で取引されてますがほとんどが盗撮っす」
「リストを送れ、幼なじみの天罰を……はっ」
「へへぇ。幼なじみ想いなんですねぇ」
別料金ですよ?と言われたので頷いておいた。天罰は必要だろうし。
これもセーフにされた。なんというか手の平の上で遊ばれている気分だ。掴み所が見当たらない。
「うらきら姉妹っすが。許嫁がざっと十一人います」
「十一人居るっ!?……こほん。へぇええ」
「けらけら面白いっすねぇ。じゃあ、ラスト」
最早反応出来ていない話など無いけれど、ここまで来たら最後だけはびしっと決めてみせる。
それが主人公である、俺。石動良也ってもんよ!!
「フルネームまだっすよね。木森林の後」
「あ、うん」
「木々って書いて『きき』っす」
「大クセ名前!!」
思い切り反応してしまった俺を木々は指をさして笑っていた。




