不要なヤンデレ
……一応死亡フラグは折った筈だけど。
ひーたんが帰らない。ずっと笑顔で俺の腕を取っていて、とりあえず普通にモールには来たけど。
「デートだねぇ。りょーたん」
「そうなるね。学校サボったけど」
「学校ってりょーたんに会うところだから別にいいかな。成績は、バッチリだし」
「ひーたん去年は、どうしてたの?」
全く触れては居なかったが、俺は高校二年生。深鈴は一年生。加賀美高等学校。まぁ頭が良くもなく悪くもなく、普通の高校。
……だいぶ病んでるのが集まっているとは思うけどね。
その中でどうしてたかが気になった。
俺に依存し、病的なひーたんの前を。
「引きこもってたよ」
「そ、うだったんだ」
「うん。りょーたんがわたしを出してくれたの。
りょーたん、がわたしを」
何かを思い出したようにして笑顔になる。
……あの日、俺を見ていたひーたんとは初対面だった筈だが。うーん思い出せないというか俺が『俺』に入った時より前の記憶は元々曖昧なものだった。
「……覚えがないのは、俺が悪いのかな」
「ううん。仕方ないよ。わたしが登校中のりょーたんをずっと窓から見てただけだから。覚えがなくて当然だよ」
窓から、見てた?
「見て、思ったから出たんだ。わたしの運命の人。わたしを助けてくれる人。この人なら全て捧げられるって本能が叫ぶような、衝撃だった」
勿論目に冗談も嘘も混じってはいない。
非常に純度の高いヤンデレ的理由である。
「話さなくてもわかったよ。この人ならわたしを受け止めてくれる愛してくれる好きだと言ってくれるわたしを肯定してくれるわたしを必要としてくれるって!!」
「必要と?」
「そう。わたしを必要と言ってくれる、よね。りょーたん、わたしはいらない子じゃあないよね」
その表情は初めて見た。
俺の前ではころころと感情を動かし、可愛げと狂気を上手くマッチさせたようなひーたんが。
今にも吹いて消えそうな程に不安と悲しみを込めて無理矢理に作った笑顔だった。
出会ってすぐなら気付かなかったろう。
でも、今は気付ける。ひーたんの抱えた闇を知らないと。
「いらない子なわけないでしょ。
少なくとも、俺が学生生活を送る事の中からひーたんがいなくなるなんて考えられない」
「っ!!あ、りがとうりょーたん」
涙を堪えて笑うひーたん。
さっきより数段に良くはなっているけれど。
まだぎこちない笑顔に、俺は上手く反応出来なかったのだった。




