渡さないヤンデレ
背中の傷はそこまで深くはなさそうだった。
狂った感覚のお陰でこれくらいの傷だとまだ動けるようで、きららを庇うように立つ俺を見て深鈴が歯軋りをする。
「お兄さん、今度はそいつとくっつこうと?」
「深鈴落ち着いて。きららとは「まだ何もありませんわ!!」
うーん火に油ぁ!!
だらんと項垂れて、顔を上げるとその表情はとても悲しそうだった。
その、表情を俺は見たことがある気がする。
「お兄さん、は渡さないもん。
わたしの全て。わたしの唯一。
わたしの存在意義だもん」
口調が幼く変わってゆく。
いや、これが本来の深鈴だ。覚えてはいないのに、そう感じる。
「深鈴。大丈夫だよ、何があっても俺は家族だから」
「家族、かぁ。わたしはお兄さんの特別になりたいのに。そのハードルは高いなぁ」
「良也くん。妹さん、大丈夫ですの?」
「大丈夫。俺に任せて」
襲いかかって来る空気よりも、悲しみや苦しみ。マイナスの感情がひしひしと感じられる。
「渡さない渡さない渡さない渡さないっ!!
お兄さんが居るからわたしがある。わたしでいられる!!」
「ぐっ……」
「良也くん!?」
頭を思い切り金槌で叩かれたような鈍痛が襲う。
これは、なんだ。今までの記憶が流れ込んで来るのとは違う。
質が、思いが桁違いに深く重い。
「お兄さんが救ってくれたっ!!お兄さんが居てくれたっ!!わたし、は。わたしは!!」
これは、なんだ。
深鈴の記憶が、流れ込んで来る。




