起爆剤とヤンデレ
最近、何だろう。
すっげぇ楽だなぁ、と余裕を感じざるを得ない。
深鈴は対処を間違えなければ襲っては来ないし、占いにしたがっていれば弓月は大丈夫。
ひーたんにはたまーに殺されてはいるけども、瞬殺してくれるからまだいい。うららときらら、そして伊澄の攻略も順調な気がする。
「この分なら、楽に行けるかな……?」
「お兄さん。独り言ですか?」
「あぁなんか口に出てたの?」
「これなら楽に深鈴を口説けると」
「……本当か?」
微笑みで誤魔化された。そして刺された。
これくらいの攻撃なら涙を堪えて回復を待てるくらいにはなってきたし。多分、俺の頭の中で大事なネジが外れておかしくなって来てるんだろうけど。
「あのっ」
通学路で女の子が声を掛けてきた。
深鈴の友達?と目線を送ると首を横にして否定する。……てかあれクラスメートじゃん。えっと名前名前……あ。
「高月美空さん」
「はいっそうです」
てことは俺に用なのか。
横を見るとな何かに気付いたのか眉間に皺を寄せて、バックに手を入れていた。
「深鈴どうし「好きですっ!!付き合って下さい!!」
その言葉と同時に瞬時に振りかぶった包丁を高月さんに振り下ろそうとする深鈴。瞬時にバックで受け止められたが……深鈴半端ねぇな!!
高月さんは目を瞑っていて今の一連は見ていないようだった。
「石動君?」
「なぁんでもないぜぇ!?ふはっははははっ」
「答えは、今じゃなくても良いので。その、また教室で!!」
去ってしまう高月さんよりも殺気と虚ろな瞳を俺に向ける妹が大きい問題だ。
身を捻ってバックを切り裂いて包丁をその手に戻す。動きがカッコいい、なんて言ってる場合じゃない。
「フラグ立てすぎでは?」
「そんな、こと」
「ありますよね?
弓月さんとはデート行きましたしひーたんさんとやらは良く電話してますねうらきら姉妹とはリムジン内でよろしくしてるんですか伊澄さんというスーツ美人とはたまーにくんずほぐれずしてますし」
「リムジン内ではよろしくしてないし、伊澄とやってるのは格闘技のレッスンであってくんずほぐれずしてはねえよ」
「言い訳、無用っ」
ここで現れるカウント選択肢、急いで目を配る。
『包丁を真剣白刃取りする』『非を認める』『刺される覚悟で抱き締める』。無難で攻めましょうか!!
「真剣白刃取ぎゃああ!!」
手相が無くなってしまった。縦振りされた包丁を受け止めることは出来ずに次に振るわれる包丁も素直に受けるしかなかった。
手首がかろうじて繋がっているような状態を見て込み上げる悲鳴を喉を潰されてキャンセルされた。
「……浮気ですよね。無意識で女の子を引き寄せるのも」
そんなん、どうすればいいんだよ。
途切れる意識と手首。こうして久しぶりに来たのだ。ヤンデレの波が。
あの高月さんが、この後出てくることはなく。
物語の起爆剤としての役割だと、後々わかることになる。




